三回続きますが、ネタばらしをしています

 今回もネタばらしをして「茶の葉」について、引き続き考えていきます。


※※※以下、「茶の葉」のトリック、犯人、真相などについて言及します。未読のかたはご注意ください※※※


 では、ここで乱歩が「茶の葉」のトリックをどう評価しているか、ちょっと見てみることにしましょう。「ズームドルフ事件」の回でも登場した『探偵小説の「謎」』(江戸川乱歩著 現代教養文庫)から引用します。


 普通の部屋なれば、大きな氷片が溶けるのに時間を要するけれど、蒸し風呂の熱気の中では、それが非常に早く、また、氷の溶けた水も、蒸気の滴りにまじって、少しも痕跡を残さない。そういうふうに、あらゆる好条件のそろっている蒸し風呂と、氷剣トリックとを結びつけたところに、この小説の妙味があるわけである。


『探偵小説の「謎」』(江戸川乱歩著 現代教養文庫) p43より


 これもトリックの実効性を補強するたぐいの工夫です。補う以外にも工夫はあります。

 見逃してはならないのは、氷のナイフを使って単純に嫌疑を逃れるのではなく、絶命している人間のそばに凶器がなければ、凶器を持ち去った人物がいるわけで、少なくとも自死ではないという構図を逆手に取ったところでしょう。

 他者の暴力による死が自死にひっくり返るダイナミックスさが面白いのです。氷が溶けるというトリックの肝自体は子どもでも思いつくような安易な発想にすぎません。きっと、他者の暴力による死が自死にひっくり返る作品はあったでしょうが、「消える凶器」と「実は自死だったという構図の転換」を結びつけたところが評価されるべきポイント。

 なのですが、どうもこのあたりはあまり目を向けられていないようです。

 また、タイトルの「茶の葉」も大事なところでしょう。お茶の葉が切断された状態で傷口に残っていたところから来ているのですが、推理の糸口にもなっているのです。

 被害者がお茶を飲んでいる最中に刺されたという時間的な状況の限定を保証する、という役割を与えられて、一旦は役目を終えたように思わされたうえで、再び、推理のきっかけとして読者の前に登場するのです。

 落ちたお茶の葉という小さなものの上に、凶器の刃先というこれまた小さなポイントが触れるなどいう偶然があるものだろうか、という疑問が推理の入り口になっているのです。


※※※今回、更新分は最後までネタばらし部分です。ここまでで今回分は終わり※※※


 未読のかたを置いてきぼりにしたくはないので、次回はネタばらしなしの回にします。

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