叩き台
話を乱歩に戻します。『世界短編傑作集』シリーズ(旧版)の「序」で、乱歩は選考の叩き台になった海外のベスト表を挙げていますので、引用してご紹介します。
1 クイーンの雑誌のベスト十二
左表はアメリカのEQMM誌が一九五〇年に、十二人の作家評論家に、推理小説はじまって以来の傑作十二編を投票させ、全体の最高点から十二位までを、高位順にならべたものである。
1 バーク「オッターモール氏の手」
2 ポオ「盗まれた手紙」
3 ドイル「赤髪連盟」
4 バークリー「偶然の審判」
5 バー「放心家組合」
6 フットレル「十三号独房の問題」
7 チェスタトン「犬のお告げ」
8 ポースト「ナボテの葡萄園」
9 ハックスレー「モナ・リザの微笑」
10 ベイリー「黄色いなめくじ」
11 ベントリー「本物の陣羽織」
12 セイヤーズ「疑惑」
2 クイーンの試案ベスト十
前記の投票より四年前一九四六年のEQMMに、クイーンが試案としてかかげたベスト・テン。この表で第十位の「オッターモール氏の手」が、十二人投票で第一位に飛び上がっていることを注意すべきである。
1 ポオ「盗まれた手紙」
2 ドイル「赤髪連盟」
3 チェスタトン「秘密の庭」
4 ポースト「ズームドルフ事件」
5 フリーマン「暗号錠」
6 フットレル「十三号独房の問題」
7 バークリー「偶然の審判」
8 ダンセイニ「二壜のソース」
9 バー「放心家組合」
10 バーク「オッターモール氏の手」
3 十五種傑作集の高位十四
私はかつて十五種の英米の著名な傑作集に収められた作品を集計したことがあるが、左表はその中から三種以上の傑作集に採用されている作品十四編を高位順にならべたものである。ポオの「盗まれた手紙」だけが頻度六、バーからバークリーまでの三編が頻度四、コリンズ以下はすべて頻度三である。同頻度のものはだいたい発表年代順にならべた。
1 ポオ「盗まれた手紙」
2 バー「放心家組合」
3 ブラマ「ブルックベンド荘の悲劇」
4 バークリー「偶然の審判」
5 コリンズ「人を呪わば」
6 ドイル「赤髪連盟」
7 モリスン「レントン館盗難事件」
8 オルツイ「ダブリン事件」
9 チェスタトン「奇妙な足音」
10 フットレル「十三号独房の問題」
11 ベントリー「してやられた老大尉」
12 ベイリー「小さな家」
13 アントニー・ウイン「キプロスの蜂」
14 ノックス「密室の行者」
『世界短編傑作集1』(江戸川乱歩編・創元推理文庫)p5から引用
お気づきになりましたでしょうか。クリスティの「夜鶯荘」の名前はないのです。ゆえに「夜鶯荘」は乱歩お気に入りだと言えるでしょう。
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