名探偵は茶化しやすい

 やはり「堕天使の冒険」はイカサマを暴くという出来事をテーマにしたコントなのだ、と思うとずいぶんと腑に落ちるところがあります。探偵のノウハウを通信教育で学ぶという『探偵術教えます』は、はっきりと名探偵という存在を前提として遊んでいますが、「堕天使の冒険」は謎解き役は存在しても名探偵でございます、という書き方をしていません。なにしろ元詐欺師が詐欺師のノウハウを生かして真相を暴くのですから。

 意地悪な見方をすれば、名探偵は頭でっかちな人物で、滑稽さがついてまわります。また庶民とは違う並外れた存在というのは、貴族のような特権階級や資本家のような富裕層とは異なるものの、ジョークのネタにしやすいものです。

 推理小説のパロディの元祖はなにかという問題には興味があります。これまでの時代に発表された作品のなかにも、頭のいい(と思っている)人物がとんでもない推理で恥をかいたり、探偵の存在や謎を解こうとする行為が偶然や悪によって無効化されるものはありました。『世界推理短編傑作集』シリーズ収録作にもあります。

 推理小説を中心に書く専門作家が生まれた後に、はっきりと「推理小説を中心に書く作家が書くような推理小説」をネタにする意図をもって書かれた作品の一号はなにか気になります。

 もう「堕天使の冒険」の発表時には生まれていたのではないか、とは思うのですが、具体的な作品は思い浮かびません。

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