クロフツのイメージ

 今回からF・W・クロフツの「急行列車内の謎」を取り上げます。

 ようやく新版の二巻の最後までたどり着きました。

 おそらくですが、クロフツのイメージは「探偵ではなく刑事がコツコツとアリバイ崩しをする長編作家」転じて「地味、退屈」かもしれません。

 名前は知っている『樽』の人でしょ、読んだことないけど、というかたも多いはず。

 実はクロフツは退屈ではなく、ストーリーの転がし方が巧みで飽きさせない作風だと思うのです。それは長編で顕著に感じるのですが、今回は「クロフツは短編も書いているから長い作品が不安なかたは短編から味わってくださいね」、というお話をします。

 取り上げる「急行列車内の謎」のメインの謎は密室。前回まで書いていた「ズームドルフ事件」も密室で、密室が続きますが列車が舞台、しかも完全に閉ざされた空間ではなく、被害者二人の死体とともに閉じ込められた人物がいるということもあり、印象はだいぶ異なります。

 奇抜なトリックのワンアイデアで魅了するのではなく、密室を構成するたくさんの要素をひとつひとつ潰していく過程を味わうべき作風でしょう。実にクロフツらしいとも言えます。

 カーの「密室講義」や天城一などの密室分類を知っているかたには伝わりやすいかと思いますが、ある種の密室の開け方は「極めて限定的な空間におけるアリバイ崩し」(「急行列車内の謎」がそういう解き方をするタイプかどうかは、ここでは明らかにしません)でもあるのです。

 アリバイ崩しの名手、クロフツが密室を手掛けても面白い作品を残せるのは、当然といえば当然なのかもしれません。

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