万華鏡のごとく
日本で評価の高い海外古典作品の裏には、江戸川乱歩という巨人の存在がある場合がよくあります。それだけ海外ミステリの普及というか、日本というミステリ発展途上国に推理小説、探偵小説を根づかせ、花咲かせようと尽力したわけです。犯罪の陰に女あり、古典の陰に乱歩あり、ということになるのでしょうか。
ただ、乱歩がほめたということがハードルとなっている作品も少なからずあるわけで。この連載企画のキャッチコピーとした「あの乱歩が選んでいるのだから」と期待値が上がることで、「確かに面白いけれど、それほどでは」「思ったよりはすごくなかった」となってしまう危険性もあります。
乱歩激賞で損も得もしている作品の代表格はイーデン・フィルポッツの『赤毛のレドメイン家』(一九二二年)でしょうか。現在、入手しやすい武藤崇恵さんの新訳版(二〇一九初版/創元推理文庫)の表紙では外れているようですが、以前のバージョン(宇野利泰訳)には、乱歩による名コピー「万華鏡」というワードを用いた内容紹介文が伏されていました。
私自身、『赤毛のレドメイン家』はとても好きな作品で、乱歩うんぬんを抜きにしても名作中の名作なのですが、いかんせん乱歩の「すげぇ、すげぇ、すげぇぞ」という興奮が伝わってくる無邪気なまでの高評価がついてまわることでハードルが上がりすぎている気がします。乱歩の名前があることで読まれているという点も認めざるをえないのですが。
もしかすると「ズームドルフ事件」も乱歩が「類別トリック集成」などで取り上げなければ、『世界短編傑作選』(現在は『世界推理短編傑作集』としてリニューアル)に選ばなければ、埋もれてしまって現在の日本の読者のところに届いていなかったかもしれません。
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