倒叙ミステリの今

 倒叙ミステリの発生という意味で、オースチン・フリーマンは重要人物であり、倒叙形式の一つの到達として「オスカー・ブロズキー事件」は価値のある作品だ、といったようなことを前回、書きました。

 現代のミステリファンにとっては、倒叙ものの代表と言えば、刑事コロンボシリーズでしょうか。日本のミステリ好きにはテレビドラマ古畑任三郎シリーズのほうがなじみ深いと言われていた時期もありましたが、令和になるとコロンボも古畑も知らないという世代も出ているに違いありません。

 スマートフォンの時代の今では福家警部補シリーズと、それを原作にしたテレビドラマが新しい作品になるでしょうか。『容疑者Xの献身』も《倒叙》というタームを知らない一般層にまで知られた作品かもしれません。なにしろ、映画化までされたのですから。

 福家シリーズが明確に刑事コロンボを意識し、コロンボのノベライズですらできなかったことを推理小説としてどう成立させるか、という点に自覚的に取り組んで成功させているのに対し、『容疑者Xの献身』からは刑事コロンボの影響はあまり感じさせず、面白いミステリの仕掛けとドラマ(劇的さ)を成立させるため、従来からある形式を現代で違和感なく成立させたように感じます。

 少なくとも、一般層には「オスカー・ブロズキー事件」も作者のオースチン・フリーマンも、シリーズ探偵のソーンダイク博士も名前を知られた存在ではなさそうです。

 少し古い感性かもしれませんが、今の日本で倒叙ミステリといえば、やはり刑事コロンボか古畑任三郎の二つという見方になりそうです。

 なぜ倒叙ものの代表格が二つとも映像作品なのか。これは実に興味深い問題です。

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