絵を描いてみる


 ルパンとホームズは、なぜ翻訳された数が多いのか。

 一つは、キャラクターの魅力が戯画的でわかりやすいこと。

 名探偵。怪盗。実にシンプル。

 第二に、短編の作品数が多くて読みやすいこと。

 ポアロも短編の作品数は五十四と多いですが、傑作は長編に集中しています。もちろん、短編にも大変に優れたものはありますが、やはり、長編のほうが数としては多いでしょう。

 キャラクターとしてのポアロも魅力的ですが、子どもには少し難解というか、あまり格好良くはないでしょう。男の子が憧れるならポアロおじさんではなく、ホームズやルパンのほうでしょう。

 髪型や体型、髭といった外見もどこか滑稽で「ゆるキャラ」的です。性格に目を転じると、皮肉屋で気取り屋(実はホームズもルパンもそうなのですが)。フランス人だと間違われることを嫌い、「ベルギー人だ」と憤慨するあたりの面白さは子どもの頃にはよくわからないかもしれません。特に日本人はその傾向が強いかもしれません。国際化や多様性への理解が進むうちにこのあたりの理解が変わっていくのでしょうが。

 ポアロが出たので、アガサ・クリスティーの生んだ名探偵をもう一人、ミス・マープルです。編み物好きで村のゴシップにも通じている老婆が鋭い推理を見せる、というのはギャップもあって、いいキャラクターなのですが、子ども、特に男の子が夢中になるかと言えば、そうではなさそうです。

 ルパン(リュパン)、ホームズ、ポアロ、ミス・マープル。この四人はイラストというか似顔絵が描きやすいことが特徴です。

 シルクハット、片眼鏡、マントならルパン。鹿撃帽、インバネス・コート、パイプ、虫眼鏡ならホームズ。ピンとはね上がったヒゲのオジサンならポアロ、揺り椅子で編み物をしている老婆も「ミステリ」という文脈や予備情報があれば、即座にミス・マープルだとわかります。

 一方、似顔絵にしにくいのがエラリー・クイーンでしょう。

 子ども向けの本で挿絵にしやすい、表紙のイラストですぐにシリーズものだとわかるというのは、大きなメリットであるはずです。

 たくさんのミステリ作家が子どもの頃、ルパン派だったか、ホームズ派だったかについて無邪気に語っている姿を見かけると、つい嬉しくなってしまいます。


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