対名探偵


 ルブランがホームズを意識していただろう、という推測は「遅かりしシャーロック・ホームズ」や「リュパン対ホームズ」といった作品で、ミステリ界における二大ヒーローを対決させていることからも裏付けられるでしょう。

 もっともホームズはルブランのキャラクターではないので、展開は「まぁ、そうなりますよね」というものなのはご愛敬。

 はっきりと結末は書きませんが、名探偵と怪盗の決闘は、やや怪盗寄りのエンディングを迎えたように、子どもの頃、感じたものです。

 失敗が許されない正義の探偵と、手段を選ばず窮地を脱せればいいアウトローの泥棒とでは、どうしても怪盗有利になるのは仕方ないにしても、それでも子ども心に「これはルパンを書いた人がつくった二人の物語だからだな」と思ったものです。

 それもあって、私は長らくルパンものに触れずに生きてきました。もちろん。あまりにホームズが好きになったとか、学級文庫にルパンものが少なかったとか、ルパンなら家に帰ればテレビアニメで三世のほうが活躍していた、などさまざまな事情があるにはあるのですが。

 ここで一つ、補足をしておかねばなりません。日本では翻訳の関係でルパンと対決する探偵は「シャーロック・ホームズ」となっていますが、ルブランの原作では「エルロック・ショルメス」です。一応は別人、というわけですが、エルロック・ショルメスはシャーロック・ホームズのアナグラムですし、モデルというか示す人物は明らかです。さらにややこしいのは、当初はシャーロック・ホームズだったのを変更しているという点。コナン・ドイルから講義があったとか、ルブランが配慮したとか、さまざまな説があるようですが、この問題は深入りしません。

 話を戻しますが、現代の多くの日本人にとって、海外ミステリの二大有名人は「ルパンとホームズ」ではないでしょうか。背景は子ども向け翻訳としての作品数が多いことがあるはずです。もう少し突っ込んで「なぜ翻訳された数が多いのか」について考察しましょう。


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