いよいよルパン
です。東京創元社の表記をすれば、リュパンです。早川書房や新潮社だとルパン。
どうもフランスの発音だと、《ル》パンではなく、《リュ》パンに近いようです。三世が有名になってしまった日本ではルのほうが通りがよくなってしまったかもしれません。
リュパンのライバルというか、リュパンを追いかける警部のガニマールが、オレンジの皮の小さな小切れを歩道の縁に置く謎の男に気づくという謎めいた発端が見事です。
このガニマール警部、リュパンに言わせれば「善良な、でぶ」とのこと。ひどい言われようです。三世のほうを追う「とっつぁん」のほうはダンディで優秀なようですが。いや、ガニマールも優秀なんですけれど。
いかにも怪しげなオレンジの皮をきっかけに、それからなんやかんやあって(このなんやかんやが実に素晴らしい。ネタばらしをしたくないので具体的には書きません)ガニマールは緋色の絹の小切れなどの証拠品を前にすることになります。
ここで絹の切れを手がかりとして披露される推理に、唖然とさせられます。クイーンばりの隙のない数学的なロジックだからではなく、これがかの世界一有名な諮問探偵の繰り広げる推理そのものだからです。
帽子の持ち主の家にはガスが引かれていない、依頼人の女性はタイピストかピアニストだ。
そう、シャーロック・ホームズの披露する「なぜそんなことが言えるのだ」式推理なのです。
これは私がホームズ好きだからそう思ってしまったということではなさそうです。というのも、本書の解説で戸川安宣氏も「依頼人の様子から、その経歴や家庭生活などを推理してみせるシャーロック・ホームズを髣髴とさせる」(P377)と書いているからです。
どうもこの作品からは、リュパンの生みの親、モーリス・ルブランのシャーロック・ホームズやホームズシリーズへの対抗心のようなものを嗅ぎ取ってしまうのです。
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