再び十三号独房の問題

 読み返して「十三号独房の問題」は実によくできた【本格】ミステリであることもわかりました。構造としてはひねっているのですが、「どうやって脱獄するか」という謎を提起するハウダニットとしても優れています。

 ミステリ読者が想定している本格ミステリの基本的なフォーマットは事件が起きて「誰が犯人か」のフーダニットか、「どうやってやったか」のハウダニットの二本柱だと思います。「十三号~」で犯人にあたるのは、脱獄に挑むヴァンドゥーゼン教授。探偵役が犯人でもあるのです。変形の倒叙ものであり、『シンデレラの罠』の趣向のルーツでもあるのかもしれません。「誰が」の要素を排除することで謎解きの焦点を「どうやって」に絞っているところが巧い。短編では効果的な手法でしょう。実は犯人の告白による真相の暴露という本格ミステリでは嫌われる手法を用いているにもかかわらず、この方法が謎解きに最適な形というアクロバチックを決めてもいるのです。

 短いながらも、死刑執行までの日付が迫っていく『幻の女』のようなタイムリミットものの面白さもあります。脱獄方法が潰されることで、かえって「これがダメなら、じゃあどうやってやるんだ」と興味が加速していく。最大の謎である「脱獄方法」の周辺に、いくつもの小さな謎を増やしていくのも効果をあげています。


※注  以下、少しネタばらしします。




 しかも、その謎が同時に手掛かりであったことが読後にわかるという仕掛け。実に巧い。

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