白蝶
せいや
白蝶
この世界を覆う黒い影 - それは影の様相を成し、悪夢の性を帯びている - は、心と心の間にまで垣根を築いていった。
デジタルとやらが視覚にまで、その粗暴の頭角をあらわして久しいようだ。
無機質な見た目の機械から発せられる色が、寂し気に鮮やかさまで帯び始めた昨今、その画面に移る顔 - それはまるで絵文字のように笑っている - からは呼吸の、その幽かな音すら感じない。
高音交じりの肉声が遅れることによる滑稽さだけがふと、人と相見えている感覚を呼び覚ましてくれる。
不意に窓の外を眺めると、白い蝶がコマ送りのように飛んでいた。
そのありふれた絢爛に見とれる自分を、俯瞰する自分が遠ざかる。
焦点が合わず我に返った時、自分の心とやらの現在位置に恐怖した。
反射的に目を閉ざすと、視界を包む黒雲と、音もなく飛翔する蛾があった。
眼を開いていてなおぼんやりとした今の世界は、かつて私が住んでいた世界 - それはセピアを基調としている - とは違ってしまった。
私を興奮させるものは、かつて私の中に生れた興奮 - それは隠すべきでありながら隠せない程の大きさをもっていた - とは違ってしまった。
私は、世界を覆っていた黒い影を、実世界にまで投影していた。
そのことに気付いた私を、その影以上に濃密な漆黒へと落胆させる事実は、影を造っている実体を見る術が与えられていないことだ。
私の中の何かが弾けたのと、外の世界に在ることに気付いたのは、どちらかが夢であったように思えるほど、不自然な連鎖であった。
内なる世界にけじめをつけない私に、天は外の世界で正解を与えない。
久々に見た人々の機微からは、何物をも寄せ付けないエゴイズムを感じた。
陽の光は、私の業を燃やしてはくれなかったが、心の影だけは取り去ってくれたようだ。
それが錯覚であったなら、むしろ幸運だろう。
開き直った喜びを感じた私は、光に照らされた丸裸のエゴイズムを原動力に、大きな足音で駆け出した。
白蝶 せいや @mc-mant-sas
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