2ー6 『樹海の非人』降臨


「……ッ……!」


 全身を蝕む強烈な激痛によって目を覚ました時……私は空中で四肢を樹根に縛り付けられ、一切の身動きが取れない状態で拘束されていた。

 だが、今に始まったことではない。

 これまでも不始末を起こせば、同じ様なお仕置きを幾度も受けてきた……まるで、『樹海の非人』としての圧倒的な力の差を、私に思い知らせるように。

 だから、私もよく理解している。

 このお方に逆らってはいけない……私は、この非人様の気紛れで生かされているに過ぎない、と。


『まさか、殺し屋ぁ……オレたちの目的を忘れたとは言うまいなぁッ!?アァッ!?』


 脳を直接揺さぶるような怒号が頭痛を呼び起こし、腹に巻き付く樹根が更に強く締め付けてくる。

 非人様に怒られている、という事実だけでも恐怖以外の何物でもないのに……こうも身体を痛み付けられては、思考がマトモに働かない。


「ヒッ、が……ッ!わ、忘れていません……ッ!本当です……ッ!し、信じて下さい……ッ!だ、だから、非人様ッ……ハッ……お仕置きだけはッ……それだけは……ッ!」

『ならば言ってみろッ!オマエの目的は何だ!?』

「わ、私たちを、利用したいだけ利用して、最後にはゴミのように捨てた、オリスト第三皇女を……この手で、殺すこと、です……ッ」

『……それを理解していながら、殺したくない・・・・・・だと……?オマエ……非人たるこのオレをナメるのも大概にしろ』


 非人様が一層低い声で威圧してくると、数本の樹根が私の前に浮かび上がってきた。

 その根先が鋭い針のように尖り、私の身体に狙いを定めているのに気付いた時……私は、全身からサーッと血の気が引いていくのを感じた。


「そ、そんな……ッ!イヤッ、非人様……ッ!!お願いします……ッ!!待ってッ、待って下さい……ッ!!イヤッ、いやぁァァァッ!!」

『……喚いたところで、許すとでも思ったか?』


 その決別のような言葉を聞いた瞬間に……あぁ、もう駄目だ……と悟った。

 実は、先程での非人様の苛立ち具合を見てから、予感はあった……次にボロを出してしまったら、今度は、お仕置きでは済まないかも知れない、と。

 今までは辛うじて繋ぎ止められていた命が……遂に、今ここで振るい落とされようとしている。

 それを防ぐ手段は……私には、無かった。


「どいつもこいつも、役立たず共が────せめてその命を持ってして、オレに詫びろ」

「……ッ!!」


 どれだけ涙を流して懇願しようとも、どれだけ喉を涸らして泣き叫ぼうとも……もう、誰にも届かない。

 涙で滲む景色の中で、自分に狙いを定める樹根が僅かに動くのを認識すると……全てを諦め、せめて痛みを和らげられるようにと、思い切り目蓋を閉じる。

 ……だが。

 いつまで経っても、痛みが訪れることはなかった。

 それとも、自分でも認識していない内に、死んでしまっているのだろうか。

 そんな恐怖心に苛まれながら、少しずつ、少しずつ、視界を開いていくと……そこには……。


「あー、横からごめん。ちょっと言わせてもらっていいかな────あなた、さっきから何様のつもり?」


 一人の、青年が立っていた。

 その人は、私を貫く筈だった全ての樹根を両手でまとめて握り、かの神々に当たるお方に向かって、堂々と嫌味を放っていたのだ。




 ……。

 …………。

 ………………。




 ────望め。キヒャッ、さぁ、望め。


 ────ヒヒッ、其の中に、全てが在る。


 ────あの時・・・みたいに、望め。


 ────キャヒヒッ。さすれば、是が、全てを叶えよう。


 ────さぁ、キヒャッ、望め。望み、望み、望み尽くし……。


 ────いずれは、是となれ。


 ────キヒャッ、ヒャヒヒッ、キャヒヒハハハハハハ……ッ!!


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