第5話 新しいこと

 浅井さんの部屋を見れたので、この男(彼氏)にもう用はありません。

 浅井さんに悪印象を与えないように別れなくてはいけません。


 私は彼と会う度に、毎回生理だと言って彼との接触を拒み続けました。

 ある日「先週も先々週も生理って本当か」と彼は怒り、私を押し倒しました。

 どうでもよいことです。

 とりあえず彼と別れた理由を浅井さんに聞かれた時、このことを被害者ぶって喋ろうと思いました。

 私の話に、浅井さんはきっと耳を傾けてくれると思いました。

 早く済ませてくれないかなと思っていましたが、何も起こりません。


「ごめん……」


 彼は一言だけ言い、私の服を正しました。

 私の下半身から出血していました。不正出血でしょうか。

 好きでもない男とつきあっていたストレスでしょうか。

 私の浅井さんへの愛情が、足りないのだと思いました。

 今回のことを理由に、彼とは別れました。

 けがの功名とは、このことでしょうか。



 心配事(元彼)も片づいたので新しい観察を始めました。

 私は月に一度有休をとり、浅井さんの仕事を見るということを始めました。

 浅井さんは主に営業をやっています。元彼から情報を集めていました。


 浅井さんの会社の近くの喫茶店に来ました。

 窓際の席に座ると、浅井さんの会社がよく見えます。

 長時間いても怪しまれないよう、厚い本とタブレットを持ってきました。


 しばらくすると、浅井さんが会社から出てきました。

 営業に行くと思われます。ネクタイを締め直しています。

 浅井さんの姿が見えなくなった頃、喫茶店を出ました。

 浅井さんは今日のお昼を、どこで食べるのでしょう。

 浅井さんのSNSをチェックしてみましたが、さすがに仕事中のランチは載っていません。

 ヤマをかけ、近くのラーメン屋に行ってみました。

 スーツ姿の会社員が多いです。人気店なので、女性の一人客も珍しくありません。

 今日の私は、万が一浅井さんと対面しても良いように一張羅いっちょうらのワンピースを着ていました。

 ラーメン屋でワンピースは、少し浮いていたようです。

 何人かのお客が、私を見ました。

 私は少しだけ周りを見渡しました。浅井さんはいないようです。

 私は入り口に意識を集中させ、ラーメンをすすりました。

 私は少しでも長くいるため、スープを飲み干しました。

 浅井さんは来ませんでした。ヤマが外れただけです。


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