第102話 決戦4
シェルターの外に出た安寿と菖蒲の無事を祈る楓の背中を車椅子に乗った母親がさすっている。
「楓。きっと大丈夫よ。お姉さん達は強いんでしょう?」
「うん・・・。施設に入ったばかりの私にいつも優しくしてくれて。色んな事教えてくれたの」
その時、シェルターの壁が突然大きな音と共に崩れ落ちた。皆一様に混乱し悲鳴を上げ逃げ惑うが、落ちてくる瓦礫が無常にも避難者に降り注ぐ。が、その瓦礫は空中で静止し勢い良く左右に吹き飛んだ。
「今の・・・もしかして楓が・・・?」
母親の横で楓は両手を広げ、息を荒げている。
「はぁ・・・はぁ・・・よ・・・良かった。それより今のは多分ドラゴンの炎・・・」
楓がシェルターの大きく空いた穴の方を見ていると、何かがその穴から飛び込んできた。
咄嗟に楓はそれを念動力で受け止めゆっくりと地面へ降ろす。その物体に駆け寄る楓。
しかし、それを見た楓は膝から崩れ落ちた。
「う・・・うそ・・・安寿おにぃちゃん・・・!?」
安寿の体は傷だらけになっており、左脚は千切れそこから大量の血が流れ出していた。
その姿を見た避難者からは再び悲鳴が上がる。そして更に穴からもう1人落ちて来た女性を受け止め、安寿の横に寝かせた。
「菖蒲おねぇちゃんまで・・・」
菖蒲は腹部を激しく損傷しており、そこから大量の血が流れ出ている。
「楓・・・俺らであのクラス4ドラゴンの両目を潰して・・・やったぜ。ざまーみろだ」
「喋らないで・・・! 今から治療します!」
楓震える声で大粒の涙を流しながら、側に落ちてあった安寿の左脚を拾う。
「楓ちゃん逃げて・・・。今はまだ、目を潰された痛みで混乱してる。すぐに鼻で私達の血の臭いを追ってここに来る」
それの聞いた避難者の1人が声を荒げる。
「聞いたか皆! こいつらの血の臭いでドラゴンがここに来るらしい!!! 逃げるぞ!!!」
「逃げるって何処へ!? ここから一番近い避難シェルターまで何キロあると思ってるのよ!?」
「でもここにいたら血の臭いで・・・そうだ・・・そいつらを外へ、どこか違う場所に放り出せばいいんだ!!! そうすればここは襲われない!!!」
皆一瞬静まり、安寿と菖蒲を凝視する。
と、その時。楓の父親が声を上げた。
「馬鹿を言うな!!! この子達は私達の為に戦ってくれたんだぞ! まだ子供だっていうのにあの大きなドラゴンに立ち向かって行ったんだぞ!!!」
車椅子に乗った父親の前に先ほどの男が近寄る。
「知った事か! そいつらは神代チルドレン、俺達の税金を使ってドラゴンと戦う為に育てられた子供だろうが! 戦って例え死のうがそれが仕事だろ!!!」
「ふざけるな!!! この子達は自分の命が犠牲になるかもしれないのに立ち向かった! 見ず知らずのここにいる人たちを救うために矢面に立ったんだ!」
そんな大人達の争いをよそに、楓は安寿の脚を元の位置に繋げた。その痛みで安寿の顔が歪む。
「うう・・・ごめんなさい。ごめんなさい。麻酔の魔術はまだ未熟で。痛いよね・・・ごめんなさい・・・」
「すごいな楓は・・・超念動持ってんのに、医術も勉強してんのか・・・」
「キャロルおねぇちゃんが・・・ぐすっ。必ず役に立つから勉強しなさいって・・・教えてくれたの・・・」
楓は涙を拭きながら、両手を当て脚の修復を始めた。
「楓。俺はいい。先に姉ちゃんを治療してやってくれ」
「何・・・言ってんの。楓。安寿をお願い」
(どちらも出血がひどい・・・どちらかしか助けられない・・・。どっち・・・どっちを・・・。いや、どっちも助ける!!!)
楓は片方の手を菖蒲の出血している腹部へ伸ばす。
「楓・・・貴方・・・」
「ごめんなさい! 話しかけないで!」
楓は目を瞑り集中力を最大まで高めた。
しかし、そんな楓の努力も空しく、避難者達の一部がジワジワと楓達の元へ迫る。それに押されるようにして楓の父親も下がって来た。
「そこをどけ!!! そいつらを放り出す! 遠くへ運ぶ役は俺らがやる! そうすればここにいる皆が助かるんだ!」
「・・・あんた達・・・!!!」
楓の父親は咄嗟に近くの地面に転がっていた、安寿のショットガンを手に取って迫る避難者達に向かって構えた。銃口を向けられた男は後ずさる。
「馬鹿な事はやめろ!!!銃を下ろせ!」
「馬鹿をやってるのはお前らだ! もう一度考え直してくれ!」
「おい、楓の父ちゃん。それはドラゴン用の武器だ。コアも訓練もしてない素人がぶっ放したら腕が吹き飛ぶぞ」
「・・・だそうだ。私は始めに襲ってきた者を撃つ」
楓の父親の睨みに押し寄せていた大人たちは左右の人を見つめ、困惑した。
「・・・いい親父だな楓。俺らもそんな親の元に生まれたかったぜ」
そこへ血の臭いを嗅ぎつけたドラゴンが地響きを鳴らしながら近づいて来る。
「なぁ楓。お前は両親と逃げやがれ」
「嫌! な・・・何とか傷口は塞げました・・・。このまま避難すれば2人共助かります!」
「とは言ってもよ。俺らは動けねぇ。動かせば傷口が又開くしな。気持ちはありがたいが俺達はもう詰みだぜ」
「か・・・簡単に生きる事を諦めないで下さい!!!」
「楓・・・」
楓は立ち上がり、目の前へと迫ったドラゴンの方を向く。
「わ・・・私が戦います!」
「なっ!?」
父親は慌てて楓の腕を掴んだ。
「楓、ここは父さんに任せて、楓は母さんと一緒に逃げてくれ。母さん1人では身動きが取りにくい。楓が助けてやってくれ・・・」
「・・・ごめんなさい。お父さん」
父親の車椅子が浮き、そっと母親の横に下ろされる。
「わ・・・私は神代さんの施設に入って、いっぱいの姉ちゃん、お兄ちゃんに力の使い方を教わったの。お父さんとお母さんに貰ったこの力が人を救う力になる。そう教わった。だから・・・今戦うの」
楓の母親は何か言おうとする父親の背中をさすった。
「さすが私達の自慢の子供ね。頑張ってらっしゃい。負けたら承知しないわよ?」
母親は楓に向かって微笑む。
「うん!」
父親は観念したように一つため息をつき、拳を握る。
「頼んだぞ楓!!!」
それに頷き、体を宙に浮かした。
「楓! これ持ってけ」
安寿は腕にはめたコアを空中の楓に投げて渡す。それを受け取った楓はドラゴンの方へと飛び立った。
「楓のお父さん。これを」
菖蒲は自分の持っていたコアを楓の父親へと渡す。
「それがあれば逃げられると思う。もしもの時、使ってね」
「・・・ありがとう。しかし私は逃げない! 楓を・・・君達を・・・見捨てたりはしない!」
上空に飛び立ち迫るドラゴンと向き合った楓は、肩から掛けたポーチから木箱を取り出す。その中にはかつてキャロルから渡された爆弾が綺麗に収められていた。
(練習した通り・・・練習した通りやれば・・・!)
楓はその箱を上空へと投げ飛ばす。箱からこぼれた弾状の爆弾のみが空中で静止し、箱ははるか下方へ落下していった。その空中に残った爆弾を起用に指先で操る。
そして一気にドラゴンに向かって放った。
爆弾は全て各部位の鱗の隙間へ着弾に成功する。
「着火!!!」
楓は念動力で一気に爆弾を爆発させた。その爆発はとても爆弾の大きさから想像できるものでは無く、その爆風に揉まれ、楓自身も後方へ吹き飛んだ。慌ててバランスを取り直し、目下のドラゴンを確認する。
爆発した箇所の鱗は剥がれ落ち、流血も確認出来るが、行動不能に至っている様子は見受けれられない。ドラゴンは一瞬その激痛に顔を顰めたものの、当初の予定通り血の臭いうの方へと走り出した。
「駄目・・・! そっちに行っちゃ・・・!」
楓はすぐさま降下し、近くにあったビルの瓦礫を浮かせドラゴンにぶつける。が、持ち上げられる瓦礫程度では止まらない。その時ドラゴンの目に突き刺さったままの菖蒲の鎌が目に入った。
楓はそれを念動力で引き抜く。流石のドラゴンもその痛みに悲鳴を上げた。しかし、それも一瞬の事。再び目標へと突進を始めた。
楓は引き抜いた鎌を念動力で高速回転させ足元に攻撃を加える。鱗の剥がれた脚からは出血するものの動きは鈍らない。
(このままじゃ・・・!!!)
突撃するドラゴンの前に立ちはだかる楓。
「止まってぇえええええぇえ!!!」
両手を前に出し、念動力でドラゴンを止めようと試みる。ドラゴンの動きは念動力によって次第に遅くなり、そしてそのまま後方へ押し倒した。
それと同時に楓は力尽き、糸の切れた人形のように地面へと落下し始める。地面に激突するかと思われた寸前で楓の父親が飛びつき、抱え込んだ。
「楓!!! 大丈夫か!?」
楓からの返事は無く、鼻から大量の血が流れ出している。
「か・・・楓・・・楓!!!」
楓の父親は涙を流し血だらけの楓を抱きしめた。
「おい楓の親父!!! 楓をこっちに連れて来てくれ! 早く!!!」
「その必要は無い」
いつも間にか菖蒲が楓の傍に立っていた。片手で腹を押さえており、又新しく服に血が滲んでいる。
「姉ちゃん!? 動いたら傷口が・・・!」
「大丈夫」
菖蒲は自分の頭と楓の頭を合わせる。
「・・・念動力の使いすぎ。無茶な子ね・・・。脳にすごいダメージを受けてる」
菖蒲は目を瞑る。
徐々に楓の出血は収まったものの意識は戻らない。
「か・・・楓は・・・!? 無事なんですか!?」
父親は泣きじゃくりながらもその様子を見守る事しか出来なかった。
「・・・応急処置は・・・終わった。 後は専門の医術部に見て・・・もらわ・・・ない・・・と」
菖蒲はそのまま楓の横に倒れ込む。
「姉ちゃん!?」
このタイミングで再びドラゴンが目の前へ姿を現す。
「畜生!!! よくも楓を!!!」
父親はショットガンを手に取り、ドラゴンに向かって引き金を引いた。
その威力は対ドラゴンというに相応しいものだったが、距離が離れすぎており、かすり傷程度のダメージを与える事しか出来ず、逆にその反動で父親は地面を転がりながら後方へと吹き飛んでしまった。
「あなた!!!」
「俺は・・・大丈夫だ・・・それより楓を!!!」
母親は倒れている楓の前に立ちはだかる。無駄な事。そんな事十分わかっていた。
ドラゴンは気にも留める事無くその大口を開け、楓達に向かってその鋭牙を振り下ろした。
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