第101話 決戦3

「以上ですわ。急を用しますので、即座に行動して下さいまし」


「だとよ。行くか大地!」


「うへ~・・・きっつい戦いになりそうだな」


千里は目に涙を溜め守の手を掴む。


「守君・・・やっぱり無茶だよ・・・クラス4のドラゴンと1人で戦うなんて・・・行かないで・・・お願いだから・・・」


「心配すんな千里! 俺にはこの羽がある。そう簡単に摑まったりしない。大丈夫、大丈夫だから心配すんなって」


守は翼を羽ばたかせ千里の頭をそっと撫でた。


「キャロル。私も大地に付いていく」


沙耶が大地の横に歩み寄る。


「キャロルなら分かるはず。この銃、私の能力では今ここで役に立てない。ならせめて大地のそばにいる」


キャロルは腕を組み軽く目を瞑る。


「・・・いいですわ。大地を頼みましたわよ」


「なら私も・・・」


「駄目ですわ。千里は攻守の要ですのよ。・・・分かって下さいまし」


「んじゃ行くか。千里を頼んだぜ太。」


「ドスコイ」


「守・そして大地。信じてますわよ。必ず帰って来てくださいまし」


守は小さく頷きそして飛び立った。


他のメンバーもそれぞれ戦闘に戻り、千里とキャロルだけが残る。


「千里・・・貴方の守を想う気持ち、十分すぎるほど分かっているつもりですわ。わたくしだって心配ですわ。力があればわたくしが出向きたい・・・力があれば・・・」


キャロルは憤りを隠せない。


(キャロルちゃんだって・・・いや、もしかしたらキャロルちゃんが一番辛いのかもしれない)


「キャロルちゃん。キャロルちゃんの分のコア貸して・・・!」


「2個持ちは難しいですわよ」


「大丈夫。借りて練習してた。それに・・・今はキャロルちゃんも居るから」


「成長しましたわね千里」


キャロルは千里にコアを渡す。


「早く終わらせて・・・守君達を助けに行く!」


「その意気ですわ!」


守達はビルの間や市街地を飛び回りながらながら目的地に向かって移動する。


「いいの? 守。千里に適当な事言って。最後になるかもしれないのに。クラス4相手に単身、生きて帰れる保証は無い」


「確かに今回厳しい戦いになるだろうけど・・・」


「けど?」


「誠さんとキャロルが出した指示が間違ってるとは思はねぇ。どうにかなりそうな・・・気がする!」


「そんな甘くは無いと思う。ほら、見て」


沙耶が指差す先には猛スピードで走って来る一体目の戦龍型。ただのクラス4とは違う、独特の殺気を身に纏っている。


「おい守! やべーなありゃ! あれは俺が相手するから、もう一体の方へ行ってくれ!」


「すまん! 頼んだ!」


「守、また後でな!」


「おう!」


大地と守はハイタッチを交し、守はそのまま上空へ上昇しもう一体の方へ向かった。


「沙耶ドラゴンの気を引いてくれ!」


「わかった。・・・無茶しないでね大地」


「わかってる!」


沙耶はビルの屋上に上り銃を素早く組み立て、ドラゴンの目を狙い狙撃を始めた。その間に大地はドラゴンの正面まで回りこむ。


「櫻姫!」


「承知いたしました。大地様、御武運を」


櫻姫との憑依と同化を終えた大地は地面に両手をつける。すると次第に周囲の木々が枯れ始めた。

ポケットから取り出した蔓を地面に埋めると一気に伸び、巨大な人の形を形成した。


「【槍杉やりすぎ】」


緑人は地面から飛び出した杉をへし折り手に取り、思い切りそれでドラゴンを横に殴り飛ばした。

市街地に転がるドラゴンだったが、すぐさま立ち上がり怒りに震えながら緑人を睨む。


「さぁ来い! 一対一タイマンだ!!!」


その光景を後ろにしながら、守は自分の対象を目指す。


(すげぇな大地の奴・・・どこまで強くなるんだよ・・・)


少し先に自分の対象を発見した守は、ドラゴンの力を自我の保てる限界まで引き出す。


「皆頑張ってる。俺も負けてらんねぇな!」


守は大きく息を吸い込み、火急をドラゴンの頭部に放つ。直撃するもダメージはほぼ与えられていない。

ドラゴンの大きな瞳がが守を捕らえる。


「まじかよ・・・勝てる気がしねぇ」


守は沙耶の言ったとおり、今回の作戦が決し甘いもの出ないことを再確認した。



一方、咲はドラゴンの火球を避けながら、通信を確認していた。


(守と大地は無事に対象の足止めを開始したようだな。あっちは時間を稼げそうだ。しかし、千葉側から東京都心に向かっているドラゴンの方は安寿と菖蒲じゃ足止めにもならねぇ。どうるする気だ・・・ジジィ・・・!)


『有沈! 十字じゅうじ! 剛兄ぃ! 卓雄! 相手は疲労してやがる! ここで一発決めるぜ! キャロル! 俺らは一度アタックを仕掛ける! てめぇは自分の部隊でアシストしろ! 十字は俺の治療の準備しとけ!』


咲はアタッシュケースからドラゴンの血を取り出し腕に突き刺す。同時に中和の為の薬も口に放り込むと、咲の呼吸は次第に息が荒くなり武器を握る手にも力が入る。


「こっちだ!」


剛は咆哮を上げドラゴンの気を引く。ドラゴンはすぐさま反応し、剛に向かって火球を複数飛ばした。剛は盾を構えそれを受け止めるも直撃した火球により爆炎に包まれる。


「有沈! 目に向かって飛ばせ!」


「任せて~ん!」


有沈は咲の脚を掴みグルグルと大きく振り回した後、ドラゴンに向かって思い切り投げ飛ばした。矢のような勢いでドラゴンの瞳に向かって一直線に飛ぶ。しかしドラゴンもそれに気付きその巨大な口を開け咲を迎え撃つ。


「チッィ!? 何つー反応速度!!!」


その時、口の中が突然爆発しドラゴンは一瞬怯んだ。


『咲姉ちゃん・・・今だよ!!!』


咲の後ろで砲弾を放った卓雄のドールの腕から煙が上がっていた。


「たまには役に立つじゃねぇかクソデブが!!!」


咲は隙だらけになった眼球に向かって思い切りメスを突き立てた。ドラゴンは悲鳴を上げ、咲に前足を振り下ろす。その前足を駆け上がって来た有沈が弾き飛ばし、咲と武器を回収した。


有沈はそのまま後方の十字のいる衛生部の拠点へと運び、そっと床に寝かす。

すぐさま待機していた十字が駆け寄り、手際よく機材を準備し始めた。


「こんな事続けてたらいつか死にますよ?咲さん」


横たわった咲は十字を睨む。


「うるせぇボケ。どの道勝たねぇと死ぬ一緒だろうが」


「まぁそうですけど。ではクリーニングしますね」


十字は注射針を適当に咲に刺す。


「痛ぇ!!! てめぇわざと痛くしやがったろ! 殺すぞ!」


「すみません、まだ研修中なもので」


十字は微笑んだ。


片目を失い暴れるドラゴン。それを正面のビルからキャロルは見つめていた。


「エルダ・剣・美神・太は協力してドラゴンの近くの高層ビルをへし折ってドラゴンにぶつけて下さいまし!」


キャロルの指示でエルダと剣はビルのドラゴン側の根元を切り刻み、そこへエルダと太が同時にビルへぶちかます。その衝撃でビルはドラゴンの方へ向かって勢いよく倒れ、直撃したドラゴンの動きが一瞬止まった。


『千里! 頼みましたわよ!!! 皆さん離れて下さいまし!』


いつの間にか朝に運ばれドラゴンの潰れた目の死角に回り込み、力を溜めていた千里が両手を前に突き出す。その手に溜められた炎の力は凄まじく、千里の手も少しづつ焼け始めていた。


(もっと早く、もっと強く・・・! 練習してた私の最高の技・・・!)


「【瞬火襲倒しゅんかしゅうとう】!!!」


千里の手が一瞬光ったかと思った次の瞬間、ドラゴンが凄まじい爆炎に包まれた。

辺りには大量のドラゴンの血、そして爆発によって千切れたであろうドラゴンの巨大な前足が宙を舞い、鈍い音を立てて地面へと落下する。


直撃した体の鱗は砕け、大きく抉り取られており、脚を失い体制を保てなくなったドラゴンがゆっくりと地面へと沈む。


放った方の千里もふらつき、その場に倒れこんだ。それを傍にいた朝が受け止める。


「大丈夫かよ千里!?」


「だ・・・大丈夫。ちょっとしたふらついたげだから・・・」


「手がこんなになって大丈夫な訳ねぇだろ! 待ってろ今衛生部の所まで運んでやる!」


「大丈夫だから・・・もう一発・・・早く守君の所に行かないと・・・」


「一気に魔力を使いすぎだ! 動くんじゃねぇ!」


「いいの・・・」


「良くねぇだろ馬鹿! お前が守の事が大切なのは分かってる。 だがな、お前が思うのと同じくらいにお前の事思ってる仲間がいるって事を忘れんな! お前は十分やった、後は仲間を信じろ!」


「朝ちゃん・・・ひゃっ!?」


朝は無理やり千里を背中に背負い、飛び立った。


「・・・ありがとう」


「・・・すまねぇな、お前にばかり背負わせちまって。」


「そんな事ないよ。はら、今背負ってもらってるのは私だし。あはは・・・」


「そういう事言ってるんじゃ・・・」


千里はその焦げた手で朝をぎゅっと抱きしめた。


「ありがと」


「お・・・おう」


後方の衛生部の拠点に到着した千里をそっと咲の横に寝かせる。


「ケッ、乳デカ。化け物かよてめーは」


「ひっ・・・」


千里は咲の事があまり得意ではなかった。


「そんな言い方は無いんじゃないですかね。千里は限界まで十分やりました」


朝は咲を見下ろしながら言う。


「ああん!? 何だてめぇ。無傷なら突っ立ってねぇでさっさと戦線に戻れやボケーーー痛ッッツ!」


十字が注射針を咲に突き刺す。


「そんな事ばかり言うから皆に誤解されてしまうんですよ。すまないな、えっと・・・朝ちゃんだっかかな?」


「いえ、別に気にしてませんから」


「そうか。しかし、咲さんの言った事も間違ってはいない。早く皆の為に前線に戻ってあげてくれ。ここは僕に任せて」


「はい。千里をよろしくお願いします」


そう言って朝は飛び立った。


「・・・おい十字。俺はいいから先に千里の治療をしてやれ」


「最初からそのつもりですよ」


「てめぇ~・・・!」


「い・・・いえ。私は後で大丈夫・・・ですから」


「うるせぇ。黙って治療されろ」


十字は千里の治療に取り掛かる。まずは火傷の処理、そして使い切った魔力を十字から補充して貰った。


「ふぅ・・・まったく君の魔力量は凄まじいな。僕の魔力をかなり注いだのに、全然足りないなんて・・・」


「す・・・すみません・・・」


「謝ることなんて・・・ん?」


その時、衛生部に新しい負傷者が運び込まれてきた。


「少し安静にしてたら動けるようになるから、僕はちょっとあっちを手伝って来る」


十字は慌てて負傷者の元へと走る。


「おい千里」


「はいっ!?」


「・・・守の件、悪かったな」


「えっ?」


咲は無視し、注射針を自分で抜き取り、立ち上がって武器を取る。


「何してるんですか!? まだ安静にしてて下さい!」


十字が治療をしながら声を荒げる。


「うるせぇ! クソガキ共が前線まえ張ってんだ! 寝てられるか!」


止める十字を無視し、咲はドラゴンに向かって飛び立った。


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