第100話 決戦2
一方、クラス5と戦闘中のイの一番隊。隊長アリーチェは糸を飛ばしながらビルの間を移動し、戦況を見極めていた。
『横綱、そちらへ向かいました。動きを止めて下さい。目的地まで誘導します』
『動きを止めろか・・・簡単にいってくれるな』
『あら? 無理なら私が手伝いましょうか?』
『やかましい! 俺を誰だと思ってる!』
2メートルを軽く超える回し大男が四股を踏む。その体にははたから見てもわかる様な凄まじいほどの闘気が満ちており、その手をゆっくりと地面に近づける。そして一気に加速し暴れながら向かってくるドラゴンに向かって、思い切りぶちかました。
ぶつかった右前足の鱗は砕け僅かに浮き上がる。ドラゴンはバランスを崩したものの倒れるには至らず、体制を立て直したドラゴンは脚元の横綱を睨む。
『流石は横綱と呼ばれるだけはありますね。はい。では、そのまま目的地まで誘導を・・・』
『無理だ!!! 知ってるだろ! 俺は一発屋だ!』
横綱は走って逃げてはいるものの、見るからに遅い。
ドラゴンの前足が横綱を捉える寸前で、アリーチェが飛び出し横綱を糸で絡め救出する。
そのまま横綱をぶら下げながらビルの間を糸で飛び回りながら逃げるも、ドラゴンはなりふり構わずビルを破壊しながら追いかけて来ている。
「助かった」
アリーチェはニコリと笑う。
「クラス5の突進を止められるのは日本では貴方位ですよ本田中将。まぁ、ドラゴンと真っ向からぶつかろうとする酔狂な人はそうは居ませんしね」
「どういう意味だ?」
「いえ、それよりどうです? もう一回止められます?」
「無理だ。右手をやっちまった」
ぶらりと垂れ下がっている本田の右腕からは血がしたたり落ちていた。
「あら。ではこのニンジン役が終わったら衛生部に送りますね」
「頼む・・・ん? ニンジン!?」
アリーチェはドラゴンと横綱を交互に見る。
「お馬さんと、ニンジン。ね?」
「誰がニンジンだ!」
「目的地です。舌噛みますよ。・・・さて・・・そろそろ目的地ですわね。【
その合図と同時に地中からから巨大な針が十数本勢い良く飛び出した。その中の数本がドラゴンの体に刺さる。
「皆さん・・突撃!!!」
エリーチェの掛け声により、エレナ達が一斉攻撃を仕掛ける。
針の間を縫って降り立ったアリーチェと本田。
「あら、思ったより刺さりませんでしたね」
「咄嗟に飛び上がり深手を避けたようだ。知龍型の血か戦龍型の身体能力かは分からんが、何にせよそう簡単には仕留められそうにはないな」
「そうですわね。では早くその腕を治療して戦線に戻って来て下さいねニンジ・・・横綱」
「おい! アリーチェお前な・・・」
アリーチェは微笑みドラゴンの方へと飛び立った。
奮戦するエレナをドラゴンの火球が襲う。それをすんでの所でアリーチェの糸に引かれそれをかわす。
「こらエレナ。また油断して」
「すまねぇアリーチェ御姉様」
「どうにかなりそうかしら?」
「うーん・・・。攻撃は通るんだけど、暴れまわるもんで中々・・・メインアタッカーも不在だし戦力不足は否めないな。兵器の効果もいまいちだったからな。横綱のおっちゃんは?」
「現在治療中です。さて、ここからはわたくしも参戦致します」
「頼むぜ御姉様!」
戦闘は熾烈を極め、多数の犠牲を出しながらも戦いは続く。誠はその様子をビルの屋上から見下ろす。
(皆済まぬ。しかしまだ・・・まだワシが動く訳にはいかぬのだ・・・)
『解析部隊より報告! 東京県境周辺に出現していたクラス4の一部が、防衛線を突破し中心部に向かって進行中!!!』
(東京に近いゲートに優秀なドラゴンを配置し囲むように進行してくるようじゃな・・・まず確実に
『周辺の県に応援を要請するんじゃ! 恐らく他県戦力はそう削られておらんはずじゃ!』
『了解! 援軍を要請致しました! ・・・ですが目下クラス他の4と交戦中により到着は遅れると思われます!』
(仕方が無い・・・)
『
誠は拳を握り天を仰ぐ。
(頼んだぞ・・・我が子達よ)
羽田に建設された地上避難施設では迫り来る地響きに、中の人たちは怯えていた。
「ち・・・近づいて来る・・・パパ、ママ・・・怖いよう・・・」
楓の横で車椅子に座っている両親がそっと手を握る。
「大丈夫よ楓。きっと軍の方々が何とかしてくれるわ。私達の時みたいにね」
母親は不安を包み込むように楓に微笑んだ。
「はっはっは! 楓は怖がりだなまったく! ここは俺と姉ちゃんに任せとけ ・・・さて行くかよ姉ちゃん!!!」
そう楓に声をかけた男の子は、手に持ったショットガンに弾を込めつつシェルターの出口の方へ歩き出す。
それに追従するように、後ろから身の丈の数倍はあるであろう大鎌を持った女性が人を掻き分けて現れその後ろを付いて歩く。
「
「ああそうか、楓はまだ年齢が達してなかったな。軍所属特別戦闘訓練院所属の人間は特戦校中等部に入るとな軍の正規戦力として登録されてな、こういう時に出動がかかるんだよ。ま、つーわけでとりあえずここは任せときゃいいんだよ」
2人は小さな出入り口から外へと消えて行った。
「あれが人間兵器と言われる神代チルドレンかよ・・・なんだか頼りねぇな・・・」
避難している人からはそんな声が漏れる。
(お兄ちゃん、お姉ちゃん・・・頑張って・・・!)
外へ出た2人の前には、甲龍型ドラゴンが迫る。
「はっはっは! こいつは駄目かもしれねぇなぁお姉ちゃん! 見ろよ俺の足震えてやがるぜ!」
安寿は自分の足をバシバシと叩く。
「下がって。お姉ちゃんが何とかする」
ドラゴンの方へ歩き出す菖蒲の手を安寿が掴む。
「もうお姉ちゃんにだけ辛い思いはさせるかよ。俺とお姉ちゃんは死ぬまで一緒、いや死ぬときも一緒だ約束したろ」
菖蒲は小さく頷く。
「さて、それじゃあ、踏ん張ろうぜ! 姉ちゃん!」
2人は武器を構えドラゴンへと向かって行った。
戦闘中の咲に通信が入る。ほんの少しの会話をした後、咲はキャロルとその隣にいる千里の前に立つ。
「どう致しました?」
「千葉、松戸の方からクラス4が2体こちらに向かって進行している」
「この状況で乱入されると非常に困りますわね・・・。まさかわたくし達の部隊で止めろとでも?」
「その必要は無ぇ。いやそうなるとこっちの戦力が足りねぇ。・・・守と大地を貸せジジィ・・・神代元帥の命令だ」
「なっ!?」
「ちょっと待って下さい! クラス4相手に守君と大地君を行かせるんですか・・・そんなの無理・・・」
咲は千里の言葉を遮るように、その手に持ったメス状の武器を地面に突き刺す。
「黙ってろ千里。俺は今、お前の隊長と話してんだよ」
「だ・・・黙りません・・・!」
咲の鋭い瞳に涙目になりながらも言い返す。
「いい加減にしやがれよクソガキ共!!! てめぇらクソガキの事が死ぬほど大切なジジィが、どれほど辛い思いをしてこの命令を下してると思ってんだコラァ! 従えねぇって言うんならさっさとその軍服とコアを置いて裸で避難所で震えてやがれ!!!」
千里を手で制しキャロルが一歩前へ出る。
「失礼致しました。分かりました守と大地を向かわせますわ。相手の情報を教えて下さいまし」
「キャロルちゃん!?」
「戦龍型が2体だ。足止めしろ。他県に援軍は要請してあるが遅れるそうだ」
「畏まりました」
「ケッ、手間取らせやがって。・・・オイ。受け取れ」
咲は手に持ったアタッシュケースから箱を取り出しキャロルへ投げて渡す。
その中にはクラス4のコアが2つ入っていた。
「ジジィから守と大地に渡せとよ。後こいつも使え」
咲はアタッシュケースの中からもう一つ箱を投げて渡す。
それを開けるとクラス3のコアが7つ。そして、それぞれのコアの上には名前が刻んであった。
「これは・・・もしかして形見・・・」
「死体が持ってても仕方ねぇだろ。黙って使えボケが」
「・・・ありがとうございます」
咲はドラゴンの方を振り向き、手に持った武器を器用にクルクルと回す。
「おい、キャロル。そのコアはてめぇらでちゃんと自分の手で返しに来やがれ。・・・俺に回収させるんじゃねぇぞ」
咲はそう言い残して飛び立った。
『Eチームは一度わたくしのところへ集合して下さいまし! 指令と渡す物がございます』
「キャロルちゃん・・・何で守君達を行かせちゃうの・・・死んじゃうかもしれないんだよ・・・」
「千里・・・わたくし達はあくまで軍に所属する隊員の1人。命令には従わなくてはなりません・・っ!?」
突然千里はキャロルの両肩を掴む。
「キャロルちゃんも守君の事が大好きなんでしょう!? 死んじゃったらもう会えないんだよ!?」
「千里・・・」
「私は守君だけじゃない、皆の事が大好き・・・皆が危ない目にあったりするのが嫌で私はここにいいるの! なのに・・命令一つで死ななきゃならないの!? 私は嫌・・・皆に死んで欲しくないよ・・・」
キャロルは千里の胸倉を掴み返す。
「わたくしだって守が・・・皆が大切ですわ! 出来るなら皆が無事でこの戦いを終えたい、でもこの戦いに勝たなくては全てを失うんですのよ!?」
キャロルは目に涙を溜めながら千里を睨む。
「この指令は有効な手。軍の上位戦力、チームのバランスを崩さず、機動力・拘束力・火力を兼ね備えた守と大地にクラス4を足止めさせ、背後からの援軍で叩きそのまま中央へ囲うように詰める。この指令が必要なものでなければ、わたくしだって突っぱねてやりましたわよ」
そこへ朝と沙耶が降り立つ。
「おいおい。何やってんだお前らケンカか?」
千里は朝に抱き着き泣きじゃくる。
「おい、キャロル説明しろ。何で千里が泣いてんだ」
「皆が揃ってから説明しますわ」
続々と皆が集まってくる。
「太お前・・・重すぎるだろ!!!」
「ドスコイ・・・」
太を抱えた守が屋上に集合し、皆が揃う。
「皆さん。聞いて下さいまし」
キャロルは事の顛末を説明した。
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