第97話 守VS人型
戦闘を開始するその寸前、2人の間に何かが突き刺さり動きを止めた。
上空より回転しながら降りてきた物体が人型を襲撃する。人型は後方へ飛び退きそれをかわした。
「よく頑張ったなキャロル」
「エレナ御姉様・・・!」
次々と上空から人が降りてき、人型の前に立ちはだかる。咲が手に持った武器を人型に向かって構え、人型を睨みを利かせた。
「うちのクソガキ共と筋肉オカマが世話になったな。・・・ぶっ殺すぞてめー。ああん?」
凄まじい形相で人型に向かおうとする咲の頭を剛が鷲掴みする。
「何すんだ筋肉馬鹿! 離せ! あいつは俺が殺す!」
「どうします? 神代元帥」
誠は一歩前に出る。
「どうするもこうするも相手次第じゃのう。・・・どうする人型? 今ここでワシらとやり合うか?」
誠はその鋭い眼光で人型を睨む。
一瞬互いに睨み合ったの後、人型は羽根を広げ飛び去って行った。
「追わなくていいんですか? 手負いに加えこのメンバーなら十分かと」
「だからてめぇは筋肉バカって言われんだよ。そいつの手当てとガキどもの援護が先だろうが」
「キャロル君。それに守。よく頑張ったのう。遅れてすまぬ」
「いえ・・・それより守が!」
「大丈夫よキャロル。今は私の糸で動きを封じてあるわ」
守はアリーチェの糸でがんじがらめにされており、地面に転がって唸りを上げている。
「咲。頼めるかしら? エレナと剛はクラス4の援護に行ってくださる?」
2人は即座に飛び立つ。
「ちょっと待て。先にあの馬鹿筋肉オカマを起こしてくる」
咲は有沈の方へ歩き出し、気絶している有沈の前に座り込む。
「おい、てめー何呑気に寝てんだコラ。生きてんならさっさと起きて仕事しろ」
その言葉に有沈は目を覚ます。
「あれ・・・アタシ・・・ごめんなさい咲ちゃん・・・アタシ負けちゃった・・・。子供たちは!?まさか・・・」
「落ち着け馬鹿。ガキ共も死んでねぇ。てめぇも生きてる。上等だろ。生きてんならさっさと立って仕事しやがれ」
「咲ちゃん・・・!」
咲は守の前に座る。その後ろからキャロルが不安そうに見守る。
「あーどうすっかなこれ。とりあえず血抜いてみっか。おい有沈がっつり血抜くぞ用意しろ」
「お注射はお・ま・か・せ!」
咲は自分の持ってきたケースを有沈へと投げて渡す。中には様々な医療器具が収められていた。その中から注射器を取り出し用意を始める。
「おい有沈。そのケースの裏面にこいつの血液が入ってる。本当は戦闘用に持ってきたんだが・・・採血したら輸血しろ」
「了解~っ! それじゃ・・・いただきまぁ~す!」
有沈は手際よく採血を行う。次第に守のドラゴン化は収まり始め、元の姿に戻る。
それを確認した後、輸血を開始する。少しづつ血色が戻り目を覚ました。その姿を見たキャロルは人知れず胸を撫で下ろす。
「あれ・・・誠さん・・・アリーチェさん・・・、キャロル!? それに皆は!? ッツ・・・!?」
起き上がろうとする守の頭を咲が押さえつける。
「おいてめぇ治療中だ動くな。一生動けなくしてやろうか?」
「でも皆が・・・!」
「エレナと剛が救援に行った。今のてめぇに出来る事はねぇ」
「そうですか・・・。でも皆さんは何でここに?」
「わたくしがエマージシークラッカーと人型への初撃の爆発のに乗じて発信機を装着しておりましたの。『手を尽くした』とはそういう意味ですわ。足止めと時間稼ぎだけで十分でしたのに守が無茶するから、逃がしてしまったではありませんの」
「それならちゃんと伝えとけっての!」
「まさか貴方があのような行動を取るとは、取れるなんて知りませんもの! それこそ先に伝えておいて下さいまし!」
「まぁまぁ2人とも落ち着くんじゃ。まだ終わってはおらん。喧嘩は終わった後ゆっくりするがよい」
大地は地面に寝そべり空を見上げていた。その横には討伐されたドラゴンが横たわっている。
「もう一歩も動けねぇーーー!」
そこへエレナがやって来る。
「いやー凄いな君! クラス4をあれだけ繋ぎ止めるなんて、さすが桜さんの孫ってだけあるなー!」
エレナが大地に手を伸ばす。大地が体を起こすとエレナの大きな胸が視界に飛び込んできた。
その瞬間、大地の顔面すれすれを弾丸が通過した。
「違うんだ沙耶!」
「何が? 私は何も言ってない」
沙耶が移動式シューズで傍にやって来る。
「おっ! 彼女の沙耶ちゃんか! 桜さんと一花さんがよく話してたぞ。大地には勿体無い彼女が出来たって」
沙耶の顔が少し赤くなる。
「逆。私に勿体無いのが大地」
今度は大地が恥ずかしそうに頬をかく。
「いいなー! 青春だなー! 私にもいい出会い無いかなー? ねぇ剛先輩?」
「そう思うなら、そのがさつさをどうにかしろ。そんなんじゃいつまで経っても嫁の貰い手なんか現れんぞ?」
「あっはっは! 先輩は厳しいなぁ! 取りあえず守達の所へ行くか」
一同は移動を開始した。
「すまん守! お前が人型に襲撃された事に俺は気がつけなかった・・・」
大地は頭を下げる。
「何言ってますの。気づいていれば目の前の戦闘に集中出来ませんでしたわ。むしろ気がつかないで良かったですわよ。ま、視野が狭いのは褒められた事ではありませんが、貴方が頑張った事で他の皆さんは無事でしたのよ。個々の特性を良く生かした戦術でしたわ。良く勉強しましたわね。大地にしては」
「最後のは余計だろ!?」
「まっ。貴方を指揮官に任命した、わたくしの采配が素晴らしいのですけれど」
大地はため息をつきながらもキャロルに向かって片手を上げる。
「ほれ、指揮権を返すぜ、隊長殿」
キャロルは大地とハイタッチを交した。
「てめぇらはここに残って引き続き仕事しろ。俺は守を病院に連れて行く」
「咲さん。理由はわかりませんが人型はどうやら守を連れ去ろうとしておりましたわ」
「だとよジジィどうする? 病院には俺の鍛えた部下がいる。数で当たれば人型相手でも引けはとらねぇはずだが」
「そうじゃのう・・・。ではキャロル君も一緒に病院へ付いてきてもらおうかのう。大事をとってアリーチェ君とエレナ君に警備を頼むとするか」
「だそうだ。おら、お前らさっさと働け働け!」
病院に運び込まれた守は安静のため病院でベットに寝かされていた。
その横では誠・アリーチェ・エレナ・キャロルの4人が先ほどの戦闘の事について意見を交している。
「この度、クラス4が多数同時に出現したと伺いましたが、具体的にはどのどの規模ですの?」
「ふむ。東京にある3つのゲート全てからクラス4が出現した。日本においては主要都市のゲートから主に出現しておる。幸いにも各地の迅速な対応によって最小限に抑えられておる。しかし、よくわからんのが、そのほぼ全てにおいて何かしらの欠陥を抱えておったという事じゃ」
「確かに不思議ですわね、いくら欠陥があっても戦力としては十分なはず・・・。様々な可能性を検討してみますわ。それより今回、敵の人型は執拗に守を追いかけておりました。そうしなけらばならない理由があったと考えられますわ。それに加え守が龍の力を使った際、『貴様になぜそれが出来る』という発言もありました。相手も龍の力を使った変身を使って来なかった事から、守のような固体は珍しいのかという推測ができますわ」
「じゃがそれは相手方にも守のような固体が存在するとうのと同義じゃのう・・・。それはそれで十分に脅威じゃ」
「守の事を未熟と言っておりましたので相手の実力はそれ以上かもしれませんわ」
「厄介じゃのう・・・。とにかくその事についてはこちらでも議論しておく今はとにかく守の回復が優先じゃ。守の抜けた穴には太君を推薦しておいた。暫くはそれ町の警備を頼むぞい」
「畏まりました。それとこれはその時の会話のデータですので役立てて下さいまし。尚、今回人型に使用した発信機は、硬い鱗対策として粘着型を使用しておりましたが、もう外されてしまっているようですわ。途中までの移動データもあります」
キャロルはポケットからデータの入った小さなチップを誠に手渡す。
「抜かりないのう。助かるわい。それではアリーチェ君。エレナ君警護を頼んだぞい。ワシはやることがるのでな」
そう言って誠は部屋を後にした。
「今回はよく頑張りましたねキャロル」
アリーチェはやさしくキャロルの頭を撫でる。
「いえ、今回わたくしの判断ミスがなければあのまま捕獲まで行えたはずですわ。申し訳ありません」
「判断ミスしたのは俺だろ? キャロルのせいじゃねぇよ」
「守は黙っていてくださいまし」
アリーチェは小さくため息をつく。
「キャロル。そんな事ばっかり言ってると守君に嫌われちゃうわよ?」
「・・・別に構いませんわ」
アリーチェは守のベッドの上にそっと座る。それと同時にいい香りが守を包み込む。
「ねぇ守君。キャロルに愛想が尽きたら私の部隊で歓迎いたしますよ」
「えっ?」
「ちょっとアリーチェ御姉様!? 冗談はよしてくださいまし! 大体御姉様の部隊は軍最上位戦力【東京イの一番隊】守なんかが・・・」
「そうかしら? 私は十分その実力があると思いますよ? 守君。今の話は本当だからね。いつでもいらっしゃいね」
守は何も言えず緊張で固まってしまっている。アリーチェは立ち上がりドアの方へ歩き出す。
「では私達は屋上で見張りをしてますので、ごゆっくりしてね」
そう言ってアリーチェとエレナは部屋を後にした。キャロルはボーっとしている守の隣に勢い良く迫る。
「何呆けてますの、馬鹿守! まさか本気にしてませんわよね!?」
「え? ああ・・・」
「あれは守に逃げ場を用意する事で、わたくしが守に厳しく出来なくするという御姉様の策で・・・大体守はEチームの要で、あちらに行くという事はチームの皆を裏切るという事で、そんな事・・・守に出来るはずがなくてそれで・・・」
キャロルはそこで言葉を止め、ベッドから一番近くの椅子へと座り。守を真っ直ぐ見つめた。
「貴方が強いから、チームだから。そういう事を抜きにしてもわたくしの傍に居てくださいまし」
「・・・それって・・・」
2人の間に少しの沈黙が流れる。
「とにかくわたくしから離れる事は許しませんわ」
キャロルはそう言って腕と脚を組む。
「何だよそれ」
「リンゴでも食べます?」
「リンゴ? 剥いてくれんのか? サンキュー」
キャロルは手に取ったリンゴを守に投げる。
「・・・齧れってか?」
「皮にもしっかりと栄養がありますのよ」
「はいはい」
守は仕方なくそのままリンゴにかぶりついた。
屋上ではアリーチェとエレナが大きなパラソルの下で紅茶を飲んでいた。
「アリーチェ姉様があんな事言うなんて珍しいな。どういう風の吹き回しだ?」
「そうね。キャロルがあんまりにも彼に厳しいから、庇ってあげたくなっちゃったのかしら」
「だよなー! 姉様は年下って感じじゃなさそうだもんなー!」
「それはどうかしらね」
「えっ」
アリーチェは紅茶を口に含む。
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