第96話 傷持ち
ドラゴンが全身をあらわにする。しかし、そのドラゴンの姿は四肢の内後ろ脚が一本失われていた。
「あらん・・・【傷持ち】ねん。そこまで珍しいものでもないけど・・・まぁこの場合はラッキーね」
「何にせよクラス4はクラス4ですよ・・・。まずは朝! 閃光弾を頼む! 沙耶は発信弾を! 朝の閃光弾を合図に皆行くぞ!」
「あいよ」
朝の放った矢はドラゴンの顔の前で目もくらむような光を放った。その眩い光にドラゴンは一瞬怯む。
「後はサポートに回るからな! 私の矢じゃなんともならねぇ! 私は出来る事しかやらねぇからな!」
「十分だ! 頼りにしてるぞ、朝!」
「だから頼りにすんな馬鹿」
大地は腰から伸ばしたツタを使って移動しドラゴンの下に滑り込む。
「桜姫! 最初から全力で行く!」
「畏まりました」
大地は同化し、髪の毛と瞳が桜色に染まった。
「ごめんな・・・搾取させてもらうぜ」
傍にあった街路樹の下にツタを埋め込み大地が地面に手を当てる。すると近くにあった植物から次々と枯れ始めた。
「
地面に埋めたツタが一気に伸びドラゴンの四肢に絡みつく。
「今だ守!」
「はいよ!」
守はドラゴンの目に火球をぶち込む。直撃したドラゴンは悲鳴を上げる。と、同時に沙耶の弾が口内に着弾し、黒煙を立ち上げる。
「流石沙耶!」
一方右の足元では剣とエルダ、そして左の足元では有沈が攻撃を行っていた。
「よし! 剣、この足を切ってみろ!」
「はい! やってみます!・・・【
剣の斬撃は硬いクラス4甲龍型の鱗をも切り裂く。が、剣の刀も激しく刃こぼれしてしまっていた。
「ヘタクソ! 見てろ馬鹿弟子!」
エルダは両手に持った刀と剣を構える。
「【追い月)】!」
エルダが勢い良く一回転するとドラゴンの脚から大量の血が噴出した。あまりの痛みに暴れだすドラゴン。その力に大地のツタがブチブチと千切れ始める。
「ちょっと、ちょっと・・・この子達話には聞いてたけどん半端じゃ無いわねん。末恐ろしいわ・・・。と、アタシだって負けてられないわん」
有沈は少し下がり、陸上の短距離走で使うクラウチングスタートの体制をとった。そして一気に加速しドラゴンの脚目掛けて体当たりをした。その威力は凄まじく、鱗は砕け、ドラゴンはバランスを崩す。
「千里!」
「こ・・・怖い・・・けど、や・・・やってみる!」
朝に連れられドラゴンの正面に立った千里は両手を前に出す。それに気づいたドラゴンは倒れながらも千里へ火球を放つ。
「ひいっ!」
「落ち着け千里! 大丈夫だお前の炎の方が強い。この私が保証する! 行け!」
「朝ちゃん・・・」
千里は大きく息を吸い込む。
「【火砲】!!!」
千里の手から放たれた炎はドラゴンの火球を消滅させて尚直進し、そのままドラゴンの頭部に直撃した。
ドラゴンはふらつきながらも体制を立て直す。
「よし! 効いてる!」
守は追撃しようと火球を作り出す。それを放とうとした瞬間、守の体に衝撃が走った。
気がつくと守は瓦礫の中に埋もれており、その首には手が当てられていた。
見上げるとそこには口から赤い炎を漏らしながら、爬虫類のような瞳でこちらを睨んでいる女性が居た。
「人型!?・・・カハッ」
守は首の手を外そうとするがびくともしない。
「貴様は何だ・・・! なぜ貴様がドラゴンと戦っている! 答えろ!」
人型はそのままさらに力を込める。
(なんて力だよ・・・コイツは本当に俺と同じ人型なのか・・・!?)
その時、突然大爆発が起こり、守はその衝撃で吹き飛びビルへと激突するが、体全体にシールドが展開されており無事だった。
「ハァ・・・ハァ・・・一体何がどうなって・・・うわっ!?」
守は突然首元を摑まれ引っ張られてゆく。
「キャロル!?」
キャロルは守を引っ張りながら、移動用のローラーのついたシューズで町の中を猛スピードで走る。
「馬鹿! 何油断してますの! 目の前の敵にばかり気を取られているからそうなりますのよ!」
「まさか人型が襲撃してくるなんて思うわけねぇだろ!?」
「しっかりと周りを見ながら・・・ってそれどころじゃありませんわね」
後方から人型の火球が飛来する。キャロルは急旋回し細道に入り込み、建物のドアやガラスを銃で撃ち抜きながら。室内を直進する。
「俺が足止めするからキャロルは皆を頼む!」
「何言ってますの! 相手は人型ですのよ!? 先ほどの動き、そしてパワー・・・今ここにいる戦力を全て集めても勝ち目はありませんわ」
「それでもこのままじゃ追いつかれちまうぞ!?」
人型はもうすぐ傍にまで迫っていた。
キャロルは又方向を変え更に高いビルに挟まれた細道へと入る。
「なるほど! 羽を広げたままじゃこの細道までは入ってこれないって訳か! 流石キャロル!」
人型は羽を縦にし、勢いそのままに細道に入ってきた。
「まじかよ!?」
人型の伸ばした手が守に届きそうになる。
(こうなったら戦うしか・・・!)
と、その時。細道の壁をぶち壊しながら有沈が現れ、膝蹴りを人型の腹にぶち込んだ。
人型と有沈は勢いそのままビルの奥へと消えて行った。
キャロルは急停止し、守を投げ飛ばす。守は転がりながらビルにぶつかり止った。
「キャロル・・・もしかして最初からこれを狙って・・・?」
「当たり前ですわ。あの状況で守が攻撃されたのに気付いたのはエルダ・沙耶・有沈の3人。その中で最も経験豊富で有効打を持つ有沈さんに心伝術で連携をとってましたの。そんな事より有沈さんの元へ早く向かいますわよ!」
「え?」
「有沈さん1人で長く止められる相手ではりませんわ。さぁ早く!」
キャロルと守は有沈と人型の飛んだ場所へと向かう。そこでは激しい戦闘が繰り広げられていた。
人型は不意打ちで食らったわき腹に手を当ている事から、先ほどの攻撃が有効だった事が伺える。しかしそれでも、有沈も見て分かるほどダメージを受けており、人型は負傷して尚、有沈よりも実力が上回っていた。
「困ったわねん・・・。パワーもスピードも射程距離も何もかも勝てないわん・・・勝っているのは女子力くらいかしら・・・」
それもどうかと思いつつ、突っ込みをいれるような雰囲気でも無い。
「有沈さん俺らも戦います!」
「ああん! もうっ男の子なんだからっ! でもね、遠慮しとくわん。守君たちにもし何かあれば咲ちゃん悲しむから。アタシにとってはそれが一番嫌なの。そ・れ・に、貴方が戦い出ればキャロルちゃんは誰が守るの? レディを守る事が男の子のや・く・め」
有沈は守にウインクを飛ばす。その隙を見て人型は守へと一気に近づこうとするが、有沈が目の前に立ちはだかる。
「ちょっと・・・浮気は・・・だ・め。アタシだけを見て」
「キャロル! この状況どうにかならないのか!?」
「・・・手は尽くしましたわ。後は有沈さんを信じるしかありません。目的は分かりませんが人型は守を狙っています」
「俺らは見てる事しか出来ないのか!?」
その瞬間、有沈がもの凄いスピードで守達の横を通過し背後のビルに激突した。
「有沈さん!?・・・そんな・・・」
守達に人型が近づいて来る。
「おい貴様。選べ。こちらに一緒に来るか・・・それともここで死ぬか。一緒に来るならその女は見逃してやる。断るならどっちも殺す」
守はキャロルの前に立つ。
「キャロル・・・」
構える守の背中にキャロルは銃を突きつけた。
「前衛の仕事をお忘れで? いつから貴方は交渉係になりましたの! 四の五の考えず、さっさとやっつけなさい!」
「・・・ああ!」
守は人型を睨みつける。
「クソガキが・・・。なら、死ね!」
人型は勢い良く守に飛びかかる。
「【抜虎】!」
守の技は向かい来る人型に直撃し、後方へと吹き飛ばす。
「当たった!」
しかし、瓦礫の中から平然と立ち上がってきた。
「マジかよ・・・キャロル・・・このままじゃ無理だ。龍の出力を上げる。俺が意思を失いそうになったら逃げてくれ。力を解放すれば一体どうなるのか、俺にも分からない」
「いいえ、逃げませんわ」
「何言って・・・」
「ですので、しっかりと自分の意思で戦って下さいまし!」
「相変わらず無茶言ってくれるぜ・・・!」
守は龍の力を意思の保てる限界まで引き出した。角と尻尾が生え、牙と翼はより大きくなていく。
「問いますわ。貴方は守?」
細くなった瞳をキャロルに向け小さく頷く。
「何だ貴様・・・なぜ貴様にそれが出来る!? 答えろ! それはーーー」
守は聞耳を持たず人型に向かって向かって跳躍する。
「ッチ!・・・不完全か」
人型は向かってくる守に殴りかかる。
守はそれをかわし、逆に腹に拳を突き立てた。後方に吹き飛んだ人型は回転し、後ろのビルを足場にして再び守に蹴りを放つ。それを体を反ってかわし再び反撃しようとした瞬間、守は突然真横に弾かれ壁に激突した。
人型は守を吹き飛ばした尻尾で地面を叩き付ける。
「貴様ら人間はいつもこれに引っかかる。さて、殺すか」
人型はキャロルの方を向いて歩き出す。キャロルは腕を組み人型を睨む。
「先ほど守を見てそれとおっしゃいましたわね。どういう意味か冥土の土産に教えて下さらないかしら?」
その問いかけに人型は答えず、一気にキャロルに殴りかかる。
が、キャロルの手前で突然動きがピタリと止まり、体が浮く。
「何だこれは」
「人間を・・・あまり舐めないで下さいましっ!!!」
人型は弾かれるように後方へと吹き飛ぶ。
「守!!!」
瓦礫から立ち上がった守が待構えており、人型に強烈な蹴りを叩き込んだ。凄まじい勢いでビルに激突し土煙が舞い上がる。キャロルと守が見つめる中、人型は土煙の中からゆっくりと姿を現した。腹を押さえ、口の中の血を地面に吐き捨てる。
「ま・・・そう簡単にはいきませんわよね」
守は突然キャロルを掴み、後方へと投げ飛ばした。
「ちょっと守!? 何しますの!?」
守の体がさらに大きくなり始める。姿がますますドラゴンへと近づき、低い唸り声を放ち始めた。
「守・・・それ以上は駄目ですわ!」
その声がもう聞こえていないのか、返事をする事も無く、目の人型に狙いを定め飛び掛った。
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