第71話 旋風との訓練
「守。それでは駄目だ。もっとシールドのバランスを考えるんだ」
旋風は扇子で、凍そうなほどの冷たい風を守に吹き付けつつ。その中を突破し、近づこうとする守に心伝術で伝える。何とか突破するも抜けた時にはかなりの体力を消耗しており、旋風に攻撃するには至らず。ヘロヘロになった守を旋風は扇子で頭をパチンと叩く。
「大分良くなったな。後は鱗を纏えば、私の凍て風の中でも自由に動けるようになるだろうね」
「本当ですか!? よかった・・・・はっ・・・」
『クシュン!』
2人は同時にくしゃみをし、千里の元へ駆け寄る。
「頼むよ千里~・・・」
「もうっ・・・私はストーブじゃないんですよ・・・。それにまだ外は暑いんですからわざわざ私の所に来ないでも・・・」
「なんだか千里の熱は芯まであったまるんだよ。」
少し照れながらも千里は熱を放出する。
『あったか~い』
2人は千里の包み込むような暖かさにとろける様な表情になる。
武活道も終わり、裏門で待つ旋風を合流した守はスーパーへと買い物に向かう。
「今日は何を作ろうか」
「何か食べたい物あります?」
「甘い卵焼きは外せないな・・・後は親子丼?」
「ではそれで・・・」
食材の買出しも終わり、旋風のアパートに到着する。守は落ちそうな階段を避けながら軽快な足取りで駆け上がって行く。
「はは。慣れたものだな。」
「そりゃ何回も来れば覚えますよ」
中に入り料理の準備をする守と旋風。
「では僕は鶏肉を炒めていますので、氷雪会長は卵焼きを作ってくれますか? 溶き卵は卵焼きの分と親子丼の分をお願いします・・・今度こそちゃんと殻入らないように割って下さいね・・・」
「わかってる。」
旋風は卵を割り溶く。それを熱した卵焼き専用のフライパンに流し込みくるくると手際よく丸めてゆく。毎回卵焼きを作っているので手際はそれなりに良くなってきた。
出来上がった卵焼きを皿へ盛り、キッチンバサミ切ってゆく。
「氷雪会長、溶き卵をくれますか? こっちも出来上がります」
とき卵を旋風から受け取り。仕上げに上からかけ蓋をする。
半熟になった所で火を止め、丼に盛ったご飯の上にそれをかける。
それを食卓へ運び、2人は向かい合って座る。
『いただきます!』
まずは旋風の作った卵焼きをほうばる。
「少し甘いけど美味しいです! 本当に上手になりましたね氷雪会長!」
「はは。少しずつだがコツがつかめて来た。うん。親子丼も美味しいぞ守」
守は親子丼を口に運ぶ。しかし守が思っていた親子丼とは違った味になっていた。
「・・・もしかして氷雪会長・・・。溶き卵、卵焼きの分と一緒に作りませんでした・・・?」
「うん。当然じゃないか。だって同じ溶き卵だろ?」
「親子丼の溶き卵にこんなに砂糖入れたら甘いじゃないですか・・・」
「それがいいんじゃないか。残すなら私が貰うぞ?」
「た・・・食べますって!」
守は塩コショウを振りかけたが、余計に変な味になってしまった。
(この味覚の差はどんなに料理が上手になっても埋まりそうにないな・・・)
食事を終えた2人は、シメの蜂蜜ホットミルクを飲む。これがいつものコースになっていた。
「守。最近先生に厳しい訓練を受けているそうじゃないか。」
「ええ・・・まぁ」
そう言う守の顔には数日前に優香との訓練でついた傷が残っていた。
「・・・無茶はしてないだろうな? 確かに最近君の動きは格段に良くなってきている。しかし・・・君の動きにはどこか焦りを感じる。もしよければ話を聞かせてくれないか?」
守は手に持ったホットミルクに目を落とし、少し考える。
「俺・・・。皆が羨ましくて・・・少し焦ってるのかもしれません。」
「羨ましい?」
「はい。俺はキャロルのように何でも出来るわけでも無いし、大地のように常に明るく他人とすぐに心を通わせたり、千里のように優しく出来ない。かといって沙耶のように冷静で全体を見渡せる視野の広さもありません。唯一の取り柄だった戦闘さえもこの前エルダに手も足も出ず負けてしまいました・・・」
「なるほど・・・隣の芝生は青く見えると言った所だね。だから焦って見えたのか・・・。しかし守。それはそう悲観するような事でも無いと私は思うぞ? 私から見れば君は十分過ぎるほどの魅力を持っている」
「そうですかね・・・」
「そうだな・・・実は私も君が言うように皆が羨ましくてたまらないんだ。皆、私に無いものばかりを持っていると思う」
「そ・・・そんな事無いですよ! 氷雪会長は強いし生徒会長として学校の皆から慕われているじゃないですか・・・」
「それはこの容姿のせいが大半で、もし私の容姿が違っていたらこうはならなかったと思う。それに私、には心から笑い会える友達がいない。だから仲の良さそうに笑いあう君達が本当に眩しく見えたんだ。・・・ね? 君が魅力的だと言ってくれたこの私にもちゃんと劣等感が存在するんだ。だから気にする必要は無いんだ」
旋風は優しく守に微笑む。
「ありがとうございます・・・」
「もっと自信を持っていいんだぞ。君が魅力的だと言ってくれたこの私が、君を魅力的だと言っているんだ。他人を素直に褒められる素直さ。それが君の魅力だと思うぞ。又悩むような事があれば相談してくれ」
「・・・はい!」
暑かった夏も過ぎ、秋も半ばに差し掛かった頃、満月の月の下に拳の交わる音が響きわたる。
今日も相変わらず、古い訓練施設の中では優香と守の訓練が行われていた。
「はいっ! 今日の基礎訓練はここまでにします。」
膝に手をつきながら肩で息をしている守とは対照的に、優香は息も切らさず多少の汗をかくのみにとどまっていた。
「相変わらず・・・なんつー体力してんだ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
「ふっふーん! まぁ・・・守とは年季が違いますからね! 動きも最小限に抑えて体力はなるべく温存する事を心がけて下さい。では仕上げにかかりますね。今日は少し難易度を上げますか・・・」
「難易度上げるのか!? ま・・・待ってくれ! もうちょっと休憩・・・」
「苦しい時にこそ人は真価が問われるものです。それじゃあ意識を制限しますよ」
優香は座って瞑想の体勢に入る。
守は慌てて優香から距離を取る。
(瞑想によって【
瞑想の終わった優香はゆらりと立ち上がる、その瞳には光が宿っておらず、その空ろな瞳が守を捕らえる。
守も構えを取り迎撃体勢を取る。優香の動き出しを見逃さないように凝視する。が、瞬きをしたその刹那、地面を蹴った優香がすぐそこまで迫っていた。
(早すぎんだろ!? もしかしたらエルダよりーーー)
守は迫来る優香の顔面を狙って左拳を突き出す、しかし、優香はひらりと交したーーーーと思った瞬間優香の目の前に拳が迫っていた。
「はっ! 二段構えだぜ!」
守の拳は見事命中したが、瞬時突き出された額命中し、その拳は弾かれてしまう。
(なんつー石頭っ!? 次が来る!?)
優香の放った左アッパーに守も真似をして、額にて迎撃しようとするが、優香の拳は硬い守の額でも止まる事は無く、勢いそのまま後方へ弾き飛ばした。失いそうになる意識を何とか保ちつつ、着地する。
その額からは血がにじみ出ていた。だが、その血を拭く暇も無く再び優香が迫る。
しばらく激しい戦闘訓練を行った後、立ち上がれ無くなった守に優香の寸止めが決まる。その寸止めが終了の合図になっており、優香の意識が戻る。
「守!? ああ・・・ごめんなさい・・・!」
ボロボロになった守をやさしく抱きかかえる優香。
「まったく・・・化け物かよ・・・」
「ば・・・化け物なんて言わないで!? それより大丈夫? まだ早かったみたいね・・・」
「大丈夫だって、最初この訓練受けた時はもっと酷かったろ? つー事はこのレベルにもいずれ慣れるって事だろ・・・」
「私は見てられませんよ・・・守のこんな姿・・・。もっとゆっくり訓練してもあなたなら確実に上達するはずですよ・・・」
「俺は好きで殴られてるんだから気にすんなって。殴られる度に気づかされ強くなっていくのが分かる。だから嬉しいんだ」
守は目の前に上げた拳を握り笑う。
その姿を見た優香はふと、あることに思い当たる。
「守・・・もしかしてあなた・・・・・・ドM?」
「ちげぇよ!?」
「ごっ・・・ごめんなさいぃ!」
優香は半泣きになってひたすら謝った。
武活動では大地が提案した「個々の特性を生かした新技の開発」を進めてきた。無期限だと気が抜けてしまうという事から期限を設ける事になり、今日がその発表の日だった。
「皆。今日が新技開発の期限だ! 思う存分皆の新技と技名を披露してくれ!」
「やっぱ名前なきゃ駄目か・・・?」
「当たり前だろ!? 無線上や心伝術で繋いでる時に、伝えやすいだろ?」
「そりゃそうだけどよ・・・」
「安心しろ! もし考え付かなかった時は俺が命名してやるから!・・・それじゃあ俺から披露するぜ! 櫻姫!」
櫻姫と同化した大地の髪色が桜色へと変化する。
大地は小さな培地を取り出し放り投げ、そして地面に手をつけ、力を流し込む。
その瞬間地面から勢い良く一本の尖った巨木がそびえ立った。
「すげぇ・・・!」
「どうだ? ツルだけじゃ攻撃力に欠けるからな。これが俺の新技【
「名前はいまいちだな」
「うるせぇ! じゃあ次は守!」
「げっ」
守は少し前に出て構える。
「なぁ大地。木を2本生やしてくんねぇか?」
「了解!」
大地は言われた通り適当なを2本生やす。
「さんきゅー」
守はその内の手前の木の前に立ち構える。
気合の掛け声と共に拳を突き出すと、目の前の木ではなく。奥の木の幹に衝撃が走り、大きく幹を削り取った。
「お~!」
一同から歓声が上がる。
「へぇ~! やるな守! 最近成長してると思ったら遠当て出来るようになったのか! この短期間で身に着けるとは、よほど優香の指導がいいんだな!」
エルダはニシシと笑いながら言う。
「まぁ・・・優香姉の威力には遠く及ばないけどな。」
「で、技名は?」
「実はこの技は父さんが得意としてたものらしくて、【
「確かにそりゃ使えそうだな・・・。後でコツ教えてくれ!」
「いいぞ」
「さんきゅ! 次は・・・沙耶!」
「やだ。」
沙耶は即座に切り返す。
「わかった! と・・・言うわけで次、千里!」
「ええっ!?」
「待て待て待て! それでいいのか!? 判定緩すぎだろ!?」
皆は納得いかないという風にブーイングをする。皆少しばかり嫉妬してるのだろう。
「やってもいい。けど、知らないよ?」
そのひと言と、滲み出すプレッシャーによって先ほどまで文句を言っていた皆は、一瞬で固まってしまった。
「やっぱりだめか? 沙耶」
「うん。細かな制御は出来ない」
「マジか・・・大地?」
「マジだ。一回見せて貰ったが威力もさることながら、沙耶の体の負担も凄いから、正直使わせたく無い!」
「大地・・・」
沙耶は顔を赤くし、大地の手をギュッと握る。
『クッ!』
「いいなぁ・・・」
「千里どうした? 技の発表頼むぜ!」
「へっ!? ああ、技っ!?・・・・ね」
千里は予め用意していた箱を開ける。その中には弓が入っていた。
「千里・・・弓使うのか?」
「うん。ほら、昇格試験の時に弓の子と戦ったでしょう? 私どうしても遠隔発動が苦手で、それなら手前から飛ばした方がやりやすいかな・・・と思って、その子に相談したの。そしたら古い弓あげるって。ちょっとやってみるね。」
千里は訓練用の壁に向かって弓を構える。矢の先に少しづつ凝縮された炎の塊が形成さててゆく。そして放つーーー。
放たれた矢の尾が爆発すると共に一気に加速し、壁に命中する。と、同時に大爆発が起こり壁がバラバラに砕けてしまった。砕けた小さな破片が守達に降り注ぐ。
「ど・・・どう?」
千里が振り返ると、そこには呆けた守達の顔があった。
「すげーな千里!」
守は千里の元に駆け寄る。
「前々から威力は凄かったが、あの威力をあのスピードで撃てるのはすごいぜ・・・! やっぱり千里はすごげーよ!」
千里の顔が見る見る赤くなってゆく。
「あ・・・ありがとう。」
「で、なんて技名にしたんだ?」
「えっと・・・
「いい名前だな!」
「あ・・・ありがとう。」
「所で・・・あれ、大丈夫なのか?」
守が指差す先には燃え盛る壁があった。
「あの炎は・・・私の込めた魔力が切れるまで燃え続けるの・・・しばらくしたら多分・・・消えると・・・思う」
「そ・・・そうなのか」
「さて・・・次は剣!」
「うむ」
剣は近くにあった鉄球を運んできて、その前に立ち抜刀の構えをとる。
「ハッ」
その声と共に抜刀し目にも留まらない速さで鉄球をマスの目状に切り裂いた。
「どうだ! 我が【
「あの硬い鉄球を豆腐みたいに・・・すごい! すごい・・・が」
『地味だな』
大地と守の声が重なる。
「地味だと!? 確かにあの爆発から見れば地味だが・・・」
「あっはっは! 剣の地味~!」
エルダは指をさして笑う。
「エルダ先生!?」
「でも、その基本が大事なんだからな? 一の良太刀、万の素振りから。だからな! 忘れるなよ馬鹿弟子~!」
そう言ってエルダはニヒヒと笑いながら、手に持った刀で剣の頭をコンコンと叩いた。。
「はっ! しかと心に留めておきます!」
「さてと・・・あとは楓ちゃん・・・?」
「えっ!? 私も・・・ですか?」
楓は驚いたように大地を見上げる。
「うーん。そうだな・・・それじゃあどんな事が出来るようになったか見せてくれないか?」
「分かりました! やってみますね!」
楓はその場にしゃがみ、そして勢い良くジャンプした。そしてそのまま空高く飛び上がり、空を自由自在に飛び回り始めた。
「まじかよ・・・」
少し飛行した後皆の前にピタリと止まる。
「どうですか!? 自由に飛べるようになったんですよ!」
楓は屈託無い笑顔で笑う。
「すごいな楓!」
エルダは輝くような瞳で楓を見つめていた。
「えへへ~! あと、大分この力にも慣れてきて制御出来るようになってきたんです!」
楓は先ほどの千里の一撃によってバラバラになった壁の瓦礫の中から一番大きな物を浮かせて、自分の元へ移動させた。
そして開いた手のひらをゆっくり握りこむ。するとそれに連動するように石の塊が握り潰され粉々になってしまった。
「この程度の石なら簡単に潰せるようになったんですよ!」
楓は先ほどと全く同じ笑顔を皆に向けた。
「・・・いや~! すごいな楓ちゃんは! いや、まじで。ほんとに」
「えへへ~!」
(怖えぇ~~~!)
顔にはあまり出さなかったが、その笑顔を皆心中穏やかに受け取る事は出来なかった。
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