第72話 旋風と守
クラス3甲龍型の出現により出動した守達は、煙の立ち上る中、前線にてと戦闘を行っていた。
あれから数回出動した事で大分戦闘にも慣れ、他の参加者との連携も取れるようになってきた。
「哲也先輩! そっち行きましたよ!」
「うるせぇ! 俺を気安く呼ぶんじゃねぇ!」
ドラゴンは体を丸め回転しながら哲也の方に転がって行く。
それを哲也が風を起こし止めようとするが、勢いは緩められたものの完全に止める事は出来ず、哲也は飛び退く。
尚転がるドラゴンの前に、技術部 部長の
「フハハハハ! どうだ! 改造を加えた【新】両腕蜂巣砲は! 発射する弾の種類に加え、連射速度・連射力も大幅に増量したこの新兵器の威力をとくとご覧あれっ! あれっ!? あれれれれれれ!?」
放ち続ける銃身が次第にブレ始め、制御出来なくなった為に発砲を止める。しかし、攻撃のかいあって、ドラゴンの勢いを完全に殺す事に成功した。丸くなった姿から戻ったドラゴンはすぐさま狙いを千曳に定め突進する。
「うわうわ!? こっちに来る!? 彩弓! 後よろしくっ!」
千曳は彩弓の後ろに隠れた。
「ええっ!? 私!?」
彩弓は仕方なく手に持った大砲をドラゴンへ向けて放つ。が、その弾をドラゴンは硬い鱗で覆われた腕で軌道を変えられてしまい、何度放っても直撃させる事が出来ない。
「こいつ何か戦い慣れてやがるな・・・駄目だ! 彩弓! こいつを使え!」
千曳は両手の【新】両腕蜂巣砲を外す。
「ええ!? でも私それ使った事無い・・・」
「腕突っ込んだら勝手に固定されるから、後は中のレバー引くだけだ! 私には制御できなかったが彩弓なら出来るはず!」
彩弓は仕方なくといった様子で手を突っ込む。そしてそれを軽々と持ち上げ、ドラゴンに向かってレバーを引いた。放たれた弾をドラゴンは弾こうとするが、着弾時に爆発する性質が生き、軌道を変える事は出来ずに着弾する。
「うーん。やっぱり彩弓だと安定するな」
「え? 何でかなぁ?」
「そりゃだって・・・その鍛えられた腕に・・・安定感抜群の下半身! 立派立派! はーはっは!」
そう言って彩弓の太ももをバチバチと叩く。
「き・・・気にしてるのにぃ~!」
その時、ガチッという音と共に砲撃が止む。
『ジャムった!?』
続けざまにバキンっと音がし、部品が飛び散る。
「姉さんこれ・・・ちゃんと弾変えるとき再設計した・・・?」
千曳はその質問に目を逸らす。
「姉さんのヘボ設計士! ポンコツ技術者!」
「とにかく・・・逃げろーーー!」
2人は一目散に逃げ出す。すかさずドラゴンが巨大な前足で叩き潰そうとするが、前足の下に潜り込んでいた哲也が思い切り拳を突き上げ、その前足を跳ねのける。
「何ぼさっとしてやがる!」
「いや~ごめーんね!」
「ご・・・ごめんなさい・・・」
それをドラゴンの後方から見ていた律が叫ぶ。
「守君! 飛ばすわよ! 哲也の援護に行って頂戴!」
「はいっ!?」
律は手に持った鞭を守の脚に絡みつけ、そのまま勢い良くドラゴンの背中に向けて投げ飛ばした。
守は空中で体制を建て直しつつ狙いをドラゴンへと定める。
「相変わらず律先輩は無茶苦茶する! やってみるか・・・抜空撃!」
背中まで到達した守は龍の力を開放し、思い切りその背中に向かって一撃を放つ。甲龍型の固い鱗はそのままに、その下から血が勢い良く噴出す。同時にドラゴンは悲鳴を上げながら地面に倒れ込んだ。
その時。旋風から無線が入る。
『守。よくやった。もういい。今回は、他の者に任せて、私の所にまで下がってくれ。』
ビルの屋上を飛び跳ねながら少し後方にあるビルの屋上に守は降り立つ。
「よくやったな」
旋風は守の頭を撫でる。
そしてすぐに無線で、指示を出し続けた。
ドラゴンは抵抗し暴れまわるも、軍の猛攻にの前についに沈む。
「今回もこのまま討伐・・・ですね」
「そうだな・・・」
旋風はドラゴンから目を離さず答える。
その時、ドラゴンが突然立ち上がり咆哮を上げた。
守は声に違和感を覚える。
(・・・? 今までとは違う・・・近づけようと・・・何かを狙っている?)
『一気にし仕留めーーー』
「待って下さい! あのドラゴン何かを狙ってます! わざとこっちを集めてるみたいなんです!」
「何をだ!? 何を狙ってる!?」
「分かりません!」
旋風は険しい表情で無線に指示を出す。
『全員ドラゴンから距離をとれ! 今すぐだ!』
旋風の指示で皆は慌てて後退し始める、が、同時にドラゴンの鱗が細かい針状の棘に変化し始める。
(隠れ特殊型!? まだ、距離が取れてない・・・!)
旋風は2枚の扇子を勢い良くドラゴンの両サイドに向かって投げる。
扇子が氷の壁を築きながら飛ぶ。その扇子がドラゴンの後方通り、壁を作り出したその時、ドラゴンが爆発し、無数の針が辺りに飛び散る。幸いにもその殆どが氷の壁によって阻まれ雨のように地面へと音を立て降り注ぐ。
しかし、正面には遮るものは無く、その中の一つが旋風目掛けて飛来する。
「危ないっ!」
守は咄嗟に右手を出し、手のひらでその棘を受け止める。
棘は完全に手のひらを貫通しなかったものの、守の手に大きく穴をあけた。
そこから吹き出た生暖かい血が、旋風の顔面へとかかる。
「守!?」
倒れた守に慌てて旋風が駆け寄る。
その手には棘が刺さっており、大量の血が流れ出ていた。
「だ・・・大丈夫ですか・・・?」
「私は大丈夫だ! それより君が・・・!」
旋風は慌てて無線を入れる。
『十字! 守が・・・守が大変なんだ! 早く来てくれ!』
すぐさま十字が駆けつけ、守の腕を見る。その腕は徐々に紫色に変色し始めていた。
「これは・・・毒か!?」
「毒!? そんな・・・なぁ十字! 守は助かるのか!? なぁ十字!? 頼む! 助けてくれ!」
旋風は十字の肩を握り懇願した。その動揺振りに十字も困惑する。
(いつも冷静な旋風がこんなに同様するなんて・・・・)
「とにかく、旋風は守君の腕をこのチューブ縛ってくれ! 僕は血清を作る!」
十字はそう言って自分の左腕を縛り、そして守の手を突き破った棘の先端を自分の指先に突き刺した。
その指は見る見る腫れ上がり、その腫れは徐々に腕を上っていく。
しかし、腕の縛った所まで上った所で、今度は段々と腫れが引き始めた。
「よし。何とかなりそうだ」
今度は注射器を取り出し左腕から採血をする。腕の縛りを解いて、その血に何やら液体を落とし、そして振る。するとその液体は黄色みを帯びた透明な液体へと変化した。それを抽出した後、注射器へセットし守の腕に注射した。
「なぁ十字!? 守は治るのか!?」
「とりあえず、病院へ運びそこで続きの処置をしてもらおう」
そこへ救護班が到着し、処置を説明した後、守は病院へ搬送された。
旋風も付き添おうとしたが、救護班の人に断られてしまった。
呆然と見送る旋風の肩を十字が叩く。
「なぁに。僕の処置は完璧なはずだ。大丈夫さ」
「そうか・・・。ありがとう十字」
「どういたしまして」
先ほど使った具を一つ一つ確認しながら片付けている十字に旋風が近寄る。
「どうした旋風?」
「十字。君にお願いがあるんだ」
守が目を覚ますと真っ白な天井が飛び込んできた。
あまりの白さに、天国かと一瞬思ったが、腕の痛みで我に返る。
「おっ。意識が戻ったか。」
隣で座って本を読んでいた十字が本を閉じる。
「十字先輩・・・? 氷雪会長は!? 無事ですか!?」
「ああ。・・・無事だよ。さて診察をしようか」
十字は守にいくつかの質問をし、体の状態を確かめた。
「視力、や言語機能にも問題は無いな。うん良かった。」
十字は立ち上がり部屋を出ようとする。
「十字先輩!・・・ありがとうございました!」
守が頭を下げると、十字は片手を上げそのまま病室を後にした。
それと入れ替わりに旋風が慌てて駆け込んでくる。
「守。ああ・・・良かった・・・」
旋風は安堵する。そして先ほどの十字が座っていた椅子に腰掛けた。
「すまない守・・・。私のせいで・・・。私が守りきれなかったから・・・」
「氷雪会長が無事ならよかったです。しかし驚ましたね・・・突然棘を打ち出すなんて」
「【隠れ特殊型】だな。本来クラス3でも特殊型は大事を取って、まず少佐階級以上が相手をする事になっているんだが、今回のように見た目では判断しにくい場合もある。仕方ないと言えば仕方が無が・・・。いや、やはり私の責任だ。すまん」
旋風は頭を下げる。
「そ、そんな! 氷雪会長は即座に対応して被害を最小限に留めたじゃないですか!」
「確かに怪我人は君1人。数字でみれば最小限だが・・・私にとっては・・・」
旋風は唇をかむ。
「ほ・・・ほら! 俺も無事だったんだし! あまり気を落とさないで下さいよ」
「そう・・・だな。とにかく君が無事で良かった・・・。では私は軍への報告があるからこれで失礼するよ」
旋風は立ち上がり出口へと向かう。その途中パイプベッドの端に右手がコツンと当たる。
「ツッ!?」
旋風は思わず声を漏らしてしまった。
「氷雪会長!? どうしたんですか!? まさか・・・怪我してたんですか!?」
「いや、何でもない。気にするな」
「すみません・・・俺のせいで・・・」
「違う!!!」
旋風声を張り否定する。
「これは・・・私が君を守れなかった罰だ。君はちゃんと私を守ってくれたさ。」
ブラリと下がった旋風の腕を見て守は嫌な予感がした。
「まさか・・・。まさか自ら腕を・・・!?」
旋風は目を伏せる。
「ああ。十字に頼んで同じ毒を同じ場所に打ってもらった。君は一切気にする必要は無い。これは君とパートナーを組む際キャロルと約束した事なんだ。だから・・・」
「馬鹿な事をしないで下さい!!!」
その大声に旋風はビクリと怯える。
「キャロルとどんな約束か知りませんが、俺達前衛は後ろの皆が傷付かないように頑張ってるんですよ!? 折角無傷で生還できたっていうのに・・・何を考えてるんですか!!!」
「守・・・」
「それに会長がその腕のケガのせいで、前線を離れてる間に、もし誰かが死んでしまったりしたら・・・氷雪会長は悔やむでしょう!? それに・・・もしそんな事が起きたら悔やむのが会長だけと思ってるですか!?」
「それは・・・」
少し考えれば分かることだったが、それほどまでに旋風は責任を感じていた。
「・・・こんな事するのならもう、氷雪会長とパートナーは組めません」
守のその言葉に一瞬悲痛な表情を浮かべそして俯く。
旋風は俯いたまま守の傍へ歩み寄り、左手で守の手をギュッと握った。
「すまなかった・・・もうこんな事はしない。・・・だからまだ私のパートナーで居てくれないか・・・。私を・・・私を1人にしないでくれ。」
いつも冷静な旋風のうなだれた姿に、守は大声を出してしまった事を後悔する。
少し冷静になった守は穏やかな声で旋風に尋ねる。
「・・・右手・・・大丈夫ですか・・・?」
旋風は黙って首を小さく縦に振る。
「怒鳴ってすみません。でも、本当にやめて下さいね。約束して下さい」
又、小さく頷く。
「・・・治ったら一緒に出撃しましょう?」
その言葉に旋風の手に力が入り、守の手を強く握った。
「うん」
少しの間そのまま静かに時が流れた。
その静寂を破るように、ドアが勢い良く開き大地達がなだれ込んで来た。
「大丈夫か!? 守!」
「お・・・おう!? びっくりさせんなよ・・・」
「守君・・・心配したよ・・・」
千里は半泣きになりながら駆け寄ってくる。
「おっ。氷雪会長も無事でしたか!?」
「ああ・・・」
「皆無事で・・・良かった・・・」
千里はほっとする。
「はは。心配掛けて済まなかったな。さて、私はこれで・・・」
立ち上がり去ろうとする旋風の手を、守はギュッと握って離さない。
「もう少し居て下さいよ。折角俺達Eチームのメンバーがこうして集まったんですから」
そう言って守は優しく微笑む。
(・・・君は本当に優しいな。君と居ると本当に穏やかに、心が温かくなる。・・・・? ん? 熱いっ!?)
旋風が後ろを振り向くと両手で口を押さえ、目を丸くした千里が灼熱を放っていた。
その様子を見た沙耶が指差す。
「手。」
旋風は慌てて守の手を解き赤面する。
「す・・・すまない」
「い・・・いえ。り・・・りんご剥きますね・・・!」
千里は持ってきたリンゴを取り出し、座って果物ナイフで剥き始める。
しかし、熱は治まっておらず手にしたリンゴからは煙が立ち上っていた。
「所で・・・今回は隠れ特殊型とはびっくりしたな」
「大地お前それ知ってるのか?」
「まぁ・・・それなりに勉強してるからな。しかし、氷雪会長のあの判断は流石ですね」
「いや・・・私は・・・」
旋風は先ほどの事があってか少し浮かない顔をする。
「氷雪会長のお陰で何とかなったとはいえあの棘・・・当たり所が悪けりゃ無事じゃすまねからな・・・」
その時、旋風の背中に悪寒が走る。
(守が庇ってくれた棘は私の顔面目掛け飛んで来ていた・・・。守が居なかったら・・・)
その光景を想像し、旋風は震える手で自分の顔を抑える
(守が右手をケガしたから私も同じ場所を・・・? 馬鹿か私は・・・。 守の右手が守ってくれたのは・・・この私の命ーーー)
旋風が手を外すと瞳から涙が零れ落ちていた。
それを見た大地は驚く。
「氷雪会長!? 何で泣いてるんですか!?」
「私は大馬鹿者だ・・・」
焦る大地に皆の冷ややかな視線が集中する。
千里がそっと近づき旋風を抱きしめる。
旋風はその胸の中で静かに泣いた。
「大地君が変な事言うから!」
「えっ!? 俺!?」
「最低だなお前!」
「待ってくれ!?」
「最低」
「沙耶まで!? 俺が一体何をーーー」
大地がそう言いかけた時、病室のドアが凄まじい勢いで開き、壊れたドアがそのまま廊下を転がって行った。
そして2メートルをゆうに超える筋骨隆々で青髭の男?がのそりと、くぐりながら現れる。
更に驚くべきは、その男が着ている服がピチピチのナース服という事。
「病室でギャーギャー騒ぐ悪い子は・・・このアタシがお仕置きしちゃうわよ~ん?」
その男?の登場に場の空気が一瞬で固まる。
そしてその男?は旋風が涙を流して居る事に気がついた。
「あら? そこで乙女の露を流しているのは・・・つ・・・旋風ちゃんじゃないの!?」
「む・・・
「誰が・・・誰が旋風ちゃんを泣かしやがった・・・」
一同は大地を一斉に指差す。
「おい!? お前らーーー」
「てめぇぇえかあああぁああ!!!」
その男?は凄まじい気合を発し、その気合だけで大地は吹き飛び壁に叩き付けられてしまった。
それを見た沙耶の目の色が変わり、帯電し始める。
「看護師長!?落ち着いて下さい!」
いつの間にか集まった他の看護師達によって取り押さえられる。
そこへ旋風が歩み寄る。
「有沈看護師長。誤解なんです。私が泣いていたのは誰のせいでもありません。」
それを聞いた有沈は平常心を取り戻す。
「あらやだ。私ったら先走っちゃった・・・ごめんなさいね!」
「ごめんで済むと思ってるの?」
目の前ににらみを利かせ帯電した沙耶が立ち、そして思い切り雷を有沈に向かって放つ。
「ああぁあぁあん! 効くわああぁあああん!」
有沈は沙耶の雷を浴びながら恍惚の表情を浮かべている。
「くっ・・・この変態・・・!」
その電撃を食らいながら沙耶の方へ歩いて来、座り込みその大きな手で優しく沙耶の頭を撫でた。
「あの子・・・貴方の大切な人だったのね。ごめんなさい。」
沙耶は放電を止め、無言で大地の元へ駆け寄った。
(うふふ。一途な良い子・・・ね)
その後、大地は全身打撲の為、守と同じ病室に入院する事となったのだった。
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