第62話 試験

翌日、告知されていた通り夏休み明けの定期昇級試験のため、一年生はグラウンドへ集合した。


順番待ちをしているEチームに太が近づいて来た。


「おっ! 太! 久しぶりだな!」


大地は太の腹を何度も軽く殴る。


「ドスコイ」


「久しぶりって言ってるよ。あれ・・・? 太君何か大きくなった・・・?」


「ド・・・ドスコイ!」


千里を見るなり太の顔が赤くなる。


「確かに・・・夏休み前より大きくなったな」


「ドスコイ」


「ガハハ! 当然だ! 太も俺らも夏休み中訓練に励んでいたからな!」


後ろから聖と三四郎が現れる。2人も同じく明らかに夏休み前より体が出来上がっていた。


「守にリベンジしようと鍛えてきたのだが・・・まさかお前が無手術部部長の哲也さんを倒してしまうとはな・・・」


三四郎は悔しそうな表情を浮かべる。


「もうそんな話出回ってんのか!?」


「当たり前だろ? 有名人だぞお前」


「まじかよ・・・」


「ガハハ! それでこそ我がライバル! 必ずお前を超えてやる! な? 三四郎!」


「勿論だ」


「おっ! おっひさ~!」


妙が片手を振りながら歩いて来る。その後ろからは司もついて歩いて来る。


「皆さんおそろいで! おっ !おっ!? 皆成長してんねぇ~! 妙ちゃんも嬉しいよ~! そしてなんとうちの司もなんとこの夏で身長が0,1ミリ伸びました! 褒めてあげて!」


司を抱き抱える妙。


「やっ! やめろよ妙!」


暴れる司。


「ガハハ! 相変わらず元気だな妙!」


「うむ! 聖も三四郎も相変わらずだな!」


妙を真ん中に聖と三四郎3人で肩を組みガハハと笑う。


「仲がいいんだなお前ら」


「勿論さ守っち! 私らチームなんで!」


「俺らも負けて無いぞ! なぁ守!」


大地は太と守と肩を組む。


「おー! やるねぇ! 流石優勝チーム! っと・・・準優勝チームも来たじぇ!」


妙が指差した先には仁とコロ。そしてアリシャとヴァレットも一緒だった。


「よう! 久しぶりだな皆!」


「おう! 犬っころじゃねぇか!」


「誰が犬っころだ聖! 食い殺すぞ!」


「まぁ落ち着けってコロ。さて・・・ご無沙汰しております櫻姫様」


仁は方膝を付き大地の方へ頭を下げる。

何処からとも無く櫻姫が姿を現す。


「うむ。おもてを上げるが良い」


「ありがとうございます」


仁は立ち上がる。

後ろに立つアリシャとヴァレ、そしてコロさえも冷や汗を流している。


「ご主人・・・」


「分かってるわよ! この駄猫!」


「力が完全に戻ったんだな大地。よかったな」


「おう! 夏休み九州の櫻姫のご神木の所へ行って解術したんだぜ。しかし・・・仁。お前たちもかなり強くなったみたいだな」


「俺らも元服の儀が終わったからな。それでだろ」


「仁。大地に陰陽術を教えてくれるという約束忘れてはおるまいな?」


「はい。近々始めましょう」


「うむ。頼むぞ。勿論礼はする」


「ありがとうございます」


守はキョロキョロと辺りを見回ながら言う。


「・・・所で仁。アイツは何処行ったんだ? 見当たらないが」


「アイツ・・・ああ、強一か。あいつなら試合が終わった後、次の国へ旅立ったぞ?」


その事実に一同は驚く。


「元々武者修行として少しの間日本に居ただけなんだ。次はアメリカかロシアに旅立つって言ってたぞ」


「そうか」


「さ、そろそろ時間だな。じゃ又な」


各自自分のクラスへ戻って行った。


「皆いい奴だな。な、キャロル」


「そうですわね。」


「どうしたんだお前・・・何かおかしいぞ?」


「別に。いつも通りですわ」


「次! 黒田 守君!」


「俺、呼ばれたから行くわ」


守は優香の用意したシールドに向かって立つ。

なるべく人間の姿を保ちつつ出来る範囲最大の威力で青い火球を放つ。

シールドは全て粉々に砕けその奥の壁に大穴を空けた。

一年生の間にどよめきが広がる。


「黒田 守君 特A!」


「やりぃ!」


戻った守は大地とハイタッチをして交代する。


「さて・・・俺も負けてらんねぇな! 櫻姫!」


「はい大地様」


大地は櫻姫と一体となり、大地の髪の毛と目の色が桜色へと変化する。大地は蔓の根を土に埋め地面に手をつける。するとそこからツタが伸び絡み合いながら15メートルほどの緑の巨人の姿へ変化した。

その巨人は大きな拳を振り上げシールドへ殴りかかる。シールドに拳がぶつかると同時に拳は千切れ、そのままシールドを割りながら飛び、奥の壁へと激突した。


「相良 大地君 特A!」


「まっ。こんなもんだろ」


大地と守は再びハイタッチをする。


「次! 円城寺 千里さん!」


守と大地は千里の背中を押す。


「が・・・がんばるね!」


千里も火砲を放ち、特Aの評価を。続く沙耶も特Aの評価を得た。


「Eチームの奴ら・・・落ちこぼれの集団だったはずなのに・・・なんつー成長だよ・・・」


「優勝はまぐれじゃなかったんだ・・・」


守達の実力を改めて見て、動揺を隠せない生徒もちらほらと居た。


「次! 大久保 キャロルさん!」


「頑張れよキャロル!」


守達はキャロルを送り出すが、キャロルは無言でシールドの前に向かう。

そして2丁の銃を構え、そして歯を食いしばりながら放つ。その一撃はシールドを全て砕くには至らず9枚目にヒビを入れた所で止まってしまった。


「大久保キャロルさんA!」


キャロルは銃をガンホルダーへ収め、ゆっくりと守達の方へ歩いて来る。


「キャ・・・キャロル? 今日は体調も悪かったのか・・・?」


「いえ。体調は万全ですわ。ご覧の通りわたくしはもうあなた方とは戦闘において同じ土俵に立つことは出来ませんの。悔しいですがこれが現実ですわ」


「そんな・・・それじゃあ一緒に出撃出来ないって事かよ!?」


「このままではそういう事ですわ」


「そんな・・・俺達はお前と一緒に戦うために今まで頑張って来たんだぞ!?」


「落ち着いて下さいまし。すぐにカッカするのは守の悪い癖ですわよ。とにかく試験を続けてくださいまし」


キャロルはその場を立ち去る。


「ちくしょう・・・」


守は拳を握り締めた。

その肩を大地がポンっと叩く。


「アイツは簡単に諦めるような奴じゃねぇだろ?」


「信じて。キャロルは優秀」


沙耶も横に立ち歩いて行くキャロルを見つめながら言う。


「そ・・・そうだよキャロルちゃんは何でも出来るんだから・・・」


「だけどよう・・・」


試験はそのまま進行し、特にキャロルとの会話も無いまま終了した。

帰りのHRで試験を結果を貰った一同はキャロルの机に集まりキャロルへと手渡す。


「隊長だろ。確認しとけよ」


守は複雑な気持ちからか少し強い口調でキャロルに言う。

キャロルは無言で受け取り机の上に結果を広げた。


黒田 守 総合評価 【特A】→【特A】


相良 大地 総合評価【B】→【特A】


円城寺 千里 総合評価【A】→【特A】


大久保 キャロル 総合評価【特A】→【A】


種子島 沙耶 総合評価【特A】→【特A】


本田 太 総合評価【A】→【特A】


「皆様良く頑張りましたわ。これからもこの調子で精進して下さいまし。では、わたくしは私用がありますのでこれで。本日の武活も自主練習をして下さいまし」


キャロルは鞄を持って立ち上がり廊下へ歩き出す。


「おいキャロル! 待てーーー」


大地は守の前に立ち、首を横に振る。


「今はそっとして置いたほうがいい」


他の皆も同意見らしく、頷く。


「お前らは悔しく無いのかよ!? あいつは軍曹階級から落ちちまった! 一緒に出撃出来ないんだぞ!?」


「守君・・・多分キャロルちゃんが一番悔しいと思うよ・・・」


千里のその言葉に、守は言い返す言葉が見つからず、机を拳で叩く。


「クソっ!」


キャロルは廊下を歩き続けある一室の前で立ち止まる。

その部屋をノックした後中へ入る。


「失礼します」


「ふむ・・・。その顔を見るに決心したのじゃな?」


「はい」


「まぁ座りなさい」


校長室の隣にある応接間のソファーに座るキャロルと誠。


「推薦の件よろしくお願い致しますわ」


キャロルは頭を下げる。


「その件じゃが・・・推薦するにあたって一つだけ試験をさせてくれんかの?」


「試験? 構いませんが・・・」


守は立ち上がり棚の中から将棋版と駒を取り出す。


「将棋を一局指してくれまいか? 将棋は指せるかのう?」


「ええ。出来ますが・・・それが試験ですの・・・?」


「そうじゃ」


2人は将棋の駒を出し並べ始める。


「では、始めるぞ」


「よろしくお願い致しますわ」


2人は対局を開始した。

パチン。パチン。と将棋のコマを動かす音だけが応接間に響く。


「キャロル君。君はワシの指南書に対して出した指摘を覚えておるか?」


「はい。全て記憶しておりますわ」


「共通する事を述べてみよ」


「【犠牲】ですわ。」


「正解じゃ。」


守はそう言いながらキャロルの歩を取る。


「今、取ったこの歩この歩はキャロル君の戦略において必要な犠牲。この犠牲、陽動が無ければ他の駒は前へ進む事は出来ぬ。しかし、実戦においてこの歩は人の命となる。君はこの駒のように勇敢な兵士を簡単に切り捨てる事が可能か?」


「可能ですわ。しかしなるべくそうならないように事前に予測し、対策を練りますわ。被害が0という事はあり得ませんが、最小限に留める努力を行うつもりですわ」


キャロルは駒を進める。二手三手と進み。

キャロルが勝負に出る。


「ふむ。ではこれはどうかの?」


誠は手駒の桂馬を打つ。その桂馬はキャロルの飛車と角を同時に睨む。


「ふんどしの桂ですか・・・しかし・・・」


「うむ。この勝負はワシの負けじゃ。どちらかを犠牲にし、その隙に切り込めばキャロル君の勝ちじゃ。しかし、必ず犠牲は出る。この飛車と角を守と大地君としよう。キャロル君・・・君は犠牲の先の勝利を手に出来るかのう?」


キャロルはこの状況を想像する。自分の命令で絶対的不利な状況に立つ守と大地を。

キャロルは少し考えた後、飛車を手に取る。


(角を捨てる・・・か。やはりキャロル君も超えられぬか・・・)


誠はその手を見下ろしながら、落胆する。

が、キャロルはその飛車を桂馬の上に勢い良く叩き付けた。

本来飛車が出来ぬ動き。キャロルはそのまま誠に鋭い視線を向ける。


「この飛車が守と言うのなら、わたくしが鍛えた守であれば、この位の動きは当然出来るはず・・・いえ、出来ぬなら出来るまで鍛えあげるまでですわ!」


「無茶苦茶じゃのう・・・」


「わたくしが、もし指揮管としてこのような絶望的な状況へ出陣の命令するとしても、必ず捨て駒などにはしませんわ。 必ず勝つ! 生きて帰って来る! そう信じて最も信用出来る部下を、最も過酷な戦場へ送り出します! わたくしが鍛えた彼らは必ず成し遂げて帰ってきますわ!」


誠に向けられたキャロルのその真剣な瞳、誠はその瞳にかつての自分を重ねた。


(この娘・・・。昔のワシと同じような事を・・・)


「・・・茨の道ぞ」


「覚悟の上ですわ」


誠は目を瞑り少し間をおいて言う。


「・・・合格じゃ」


「では・・・」


「うむ」


「ありがとうございます」


「では近日中にな」


「はい」


キャロルが立ち去った校長室。

誠は1人、盤上に将棋の駒を定位置に並べなおした。

そして金・銀と順番に一つずつ盤上から落としてゆく。最後には王だけが盤上に残る。


(皆、ワシの命令で散っていった。・・・キャロル君お主はワシのようになるで無いぞ・・・)


誠は最後に王の駒を裏返した。



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