第61話 決闘

「おっ・・・なんだあれ。人が歩いて来るぞ?」


グラウンドで訓練していた大地が、生徒会の面々が歩いて来るのを見つける。秀人は大地に歩み寄り、ここで決闘が行われる事を伝えた。

大地は武活のメンバーと顧問である優香を呼び、旋風は優香の元へ駆け寄った。


「黒田先生、済まない。少しややこしい事になってしまいました。流れで哲也と守が決闘する事になってしまって・・・」


優香はヤレヤレといった様子で頭を抱える。


「まったく・・・守が又短気を起こしたんでしょう?」


「いえ。今回は完全に私のミスです」


優香はため息をつく。


「しかし・・・哲也君と守が戦うのですか・・・。本気なら勝ち目は無いと思いますが・・・」


「私もそう思います・・・。」


その間にも2人は対峙し、後は合図を待つのみとなった。


秀人は中央に立ち、手を上え上げる。


「両者! 準備は良いか!?」


2人は頷く。


「ではこれより 対龍軍中尉 摂津せっつ 哲也 対 対龍軍 氷雪 旋風 大尉補佐官 軍曹 黒田 守 の一騎打ちを執り行う! では・・・始めっ!」


秀人は勢い良く手を振り下ろす。

同時に哲也は地面を激しく蹴り、一瞬で守の前に迫る。


「早っ!?」


「トロいんだよ! クソガキが! 食らえ! 【暴風撃ぼうふうげき】!」


竜巻を纏った両手が守の胴体を捕らえ、竜巻に揉まれながら後方の壁へと激突した。


「ちょっと哲也! 相手は一年なのよ!? もし死んじゃったらどうするのよ!?」


「うるせぇ律! 死にゃぁしねぇよ! そのために医術部長がいるんだろうが! この程度で死ぬんじゃ俺が殺さなくてもどうせ殺される! 弱い奴が悪いんだよ弱い奴が! おい秀人! 早く終了の合図をかけろよ!」


「・・・」


秀人は返事をしない。


「ッチ・・・堅物が・・・」


先ほどの攻撃で舞い上がった砂煙の中から守は砂を払いながら平然と現れた。

守の腹は鱗で守られており、外傷も見当たらない。


「痛ってーな・・・ったく・・・。咄嗟に部分変化さしてて良かったぜ」


哲也は少し驚く。


「へぇ・・・一応旋風が認めたってだけあってやるじゃねぇか・・・」


「んじゃ・・・今度はこっちから行くぜ!」


守の口からプラズマがほとばしる。

口を大きく開き、そのまま哲也に向かって放った。


「なっーーー!?」


哲也は慌ててその場から飛び退く。

凄まじい音と共に爆風が巻き起こり、哲也の立っていた場所には大きなな穴が出来ていた。


「ば・・・化け物め・・・」


哲也はおろか、生徒会の面々さえも驚きを隠せない。

守はもう一度口を大きく開け、そして放つ。哲也は横っ飛びし何とかかわす。

立ち上がり体制を立て直した哲也は、迫りくる火球をかわしながら風で空中を移動し、守への接近を図る。


「いくらでたらめな威力だって当たらなきゃ意味ねぇんだよっ!」


接近に成功した哲也は守に殴りかかる。守もその拳に自分の拳を合わせた。

激しい音と共に、哲也が一方的に吹き飛び、後方の壁に激突しそのまま動かなくなってしまった。

哲也の拳は砕け、腕はあらぬ方向へ折れ曲がっていた。


「そこまで!」


秀人は終了の合図をかける。

その哲也の負傷に誰よりも驚いていたのは他でもない守自身だった。守は慌てて哲也に駆け寄る。


「お・・・おい・・・大丈夫かよお前・・・。お前強いんだろ・・・?」


戸惑う守をよそに、医術部長が治療を始める。

旋風が守の肩をポンっと叩く。


「氷雪会長・・・この人強いんじゃ・・・。正直負ける気はしなかったけど、もっと苦戦すると思ってました・・・」


「君は強い。もうこの学校でもトップクラスにね。君は特に高クラスのコアを持ってるみたいだから、その分抜きん出ているんだ。他のチームのメンバーも同様にコアさえあれば君に近い実力になる」


「で・・・でも俺ら大地の家で修行してる時、あの人数でかかってどの教官にも一度も勝てませんでしたよ!?」


「それは彼らが恐ろしく強いだけだ」


守は哲也の血のついた手を見つめる。


「とにかく・・・守。よくやってくれた」


旋風は守の肩を再び2回軽く叩いた。

そこへ大地達が駆け寄ってくる。


「やっちまったって顔してんな!」


大地は守の肩に手を回す。


「あ・・・ああ・・・。俺、こんなに強かったんだな・・・」


「知らなかったのか!? 俺らから見たらお前の力は前から半端なかったぞ!? こうなったのも当然の結果って感じだ」


「そうなのか?」


「おう! ま、最近は相手が悪かったからな・・・。正直それでも火力だけならばっちゃや教官に負けてなかったぞ?」


「全然実感ねぇな・・・気をつけよう」


守は拳を握る。


一方その頃、校長室ではーーー


「ほっほっほ。相談いうのは何かなキャロル君」


「はい。これを」


キャロルは守から借りている篭手を両手に装着する。

そして目を瞑る。すると篭手が変化し始め、一瞬にして両拳の鱗が鋭い爪のような形へと変化した。


「なんと!? なるほど・・・守の血によって龍鱗鉱を変化させたのか!? これは驚いた!」


「説明は必要無いようですわね」


「まさかその息子の血液にも反応するとは・・・盲点じゃったわ。よく発見してくれたぞキャロル君」


「恐縮ですわ。・・・ではここからは交渉なのですが、Eチームのメンバーにクラス5の龍鱗鉱を提供して頂きたいのです」


誠は驚く。


「うーむ・・・しかしクラス5の龍鱗鉱は殆ど・・・」


「無茶は百も承知ですわ」


「・・・やっぱり渡す訳にはいかぬ」


「そうはいきませんわ」


キャロルは誠の机に一枚の紙を叩き付ける。

その紙を手に取った誠は、困ったような表情を浮かべる。


「なるほどのう・・・」


その紙には【血の契約書】との文字があり、守の血の所有権をキャロルが有するという覚書と共に、2人の署名が記してあった。


「この技術の有用性は分かるはずですわ。守の血の所有権をわたくしが持つ事によって、わたくしの許可無く採血は行えないーーーってああっ!」


誠はその紙を破り捨てる。


「そ・・・それはコピーで原本は別にありますので、破いても無駄ですわよ!?」


「無効じゃ」


「いくら軍の最高権力者の権限をもってしても、個人同士の契約を破棄するなど出来るはずがありませんわ!」


「残念じゃが、守という人物の所有権はすべてワシがすでに持っておる。これは守が卵で発見された時に申請したものじゃ。軍の所有物という事にすると他国に情報がもれてしまう可能性があったので、ワシ個人の所有物として申請したのじゃ。守が生まれても、それは継続しておる」


「そんな・・・」


キャロルは悔しそうに拳を握る。


「安心しなさい。君が守の血の契約を結んだのは、万が一軍が守の血をその有用性から無茶な採血を行わない為。そのための契約なんじゃろ? 交渉はあわよくばで、クラス5の龍鱗鉱を入手出来れば、チームの生存率を確実に上げられる。そう期待しての事じゃな?」


「・・・はい。」


「心配するでない。もし、ワシが死んでも所有権は守の両親に引き継がれ、その次は優香君になっておる。皆、守を愛しておる者ばかりじゃ。悪いようにはならんわい」


「そ・・・そうですか・・・」


キャロルはこの技術の有用性を知っていたが故に、軍への報告へ踏み切った。

しかし同時に軍が守を利用するのではないか、という不安もあった。

その不安を払拭する為に最善の手を打ったつもりだったのだが、この誠という人は全てを見透かしたかのように考えを読まれ上を行かれてしまう。キャロルは尊敬を越えたある種の恐怖を感じるのだった。


「・・・先生はかつてわたくしに【期待する】とおっしゃって下さいました。その言葉はまだ有効ですの?」


「勿論じゃ。ふむ・・・迷っておるようじゃのう・・・。当然じゃ。明日は試験じゃからのう・・・」


「はい。先生の期待がまだわたくしにあるのであれば、その時はお願い致しますわ」


「その時は又ここに来るが良い」


「はい」


キャロルは篭手を外し校長室を出ようとドアノブに手をかける。


「そうじゃ、キャロル君」


「何ですの?」


「守の血の所有権を君が手に入れる方法が一つだけあるぞい!」


「お・・・教えて下さいまし!」


キャロルは誠の机のへと両手を付き、迫る。


「それには・・・守と君が結ばれれば良いのじゃ!」


「なっ!?!???」


キャロルの顔がこれ以上無いという位に真っ赤に染まる。


「そうすればーーー」


「ししし失礼しますわ!」


キャロルは逃げるように校長室を立ち去った後、廊下を早足で歩く。


(神代校長も冗談が過ぎますわ! わたくしが守と結婚!?・・・でも・・・でも・・・あの神代校長が言う事ですわ・・・もしかしたら・・・)


キャロルは小指で自分の唇をそっと撫でる。



治療の終わった哲也が起き上がる。

その前に旋風と秀人が立ち、上から見下ろしていた。


「この俺が・・・こんなガキに・・・」


「結果は結果だよ。さ、階級章を」


哲也に手を出す秀人を旋風が止める。


「どうしたんだい旋風?」


「勝利した守の条件は私にゆだねられている。・・・私はこのまま今まで通り、哲也の立場は変わらないものとしたい」


「俺は負けたんだぞ旋風・・・。しかも下の階級の奴に挑んで負けたんだぞ! それで何もお咎め無しじゃ筋が通らねぇだろ!」


「私も守も君をどうこうしたい訳じゃないし、君は生徒会に必要な存在だ。失いたくはない。ただ守の実力が分かってもらえたならそれだけで十分だ。これは命令だ。従って欲しい。」


「ケッ・・・。」


「さ、皆会議の続きをするから生徒会室へ戻ってくれ」


秀人の一声で生徒会の面々はぞろぞろと移動を開始する。

旋風は守の方へ歩いて行き、もう紹介は終わったから生徒会室へ来なくていい事を伝えた。

旋風と秀人は並んで歩く。


「よかったのかい? 旋風」


「ああ、秀人。色々と助かったよありがとう」


「礼には及ばないさ。・・・しかし、守君はすごい力だね」


「彼の力はあんなもんじゃ無いんだ。簡単な魔術も使えるし、空だって飛べる。火力だってまだまだ出せるんだ」


「それはすごいな。それじゃ・・・僕にも勝ち目は無さそうだな」


「どういう事だ?」


旋風は首を傾げる。


「僕も君とペアを組みたかった内の1人って事さ」


「・・・そうか。それはすまなかったな」


「いや、僕よりも彼の方が頼りになる。それで十分さ」


2人はそのまま生徒会室へ入っていった。

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