第49話 訓練最終日
その後、守達は訓練を続け、ついに最終日を迎える。
砂浜に昼を告げるサイレンが鳴り響き、集合する一同。
「みなさん。一週間お疲れ様でした。これにてわたくしの別荘での訓練を終了致しますわ」
『終わったーーー!』
皆一様に両手を挙げて喜んだ。
「何喜んでますの! これは一つの区切りで、大地の実家に行っても続けますのよ!?」
「分かってるって! でも一区切りで喜んだっていいだろ?」
「フンッ・・・まったく甘いですわね。とにかく、今からの流れを説明致しますわ。今から食事をして帰りの支度を致します。夕方にはヘリに乗って東京に帰りますので、それまでは自由行動と致しますわ」
「泳ぐか!」
「大地・・・お前元気だなぁ・・・」
「だって、ばっちゃの家の周りには海無いし、川で泳ぐのは冷たいだろ? それに・・・ヘリの事を忘れたい」
「そうだな、最後だし泳ぐか!」
「どちらにしましても、まずは昼食を食べに参りますわよ」
『はーい』
着替えて食堂へと向かい、昼食を取る一同。
「あー・・・もうこんな豪勢な食事を食べられるのもこれが最後か・・・。うちの実家は煮物か味噌汁しか出てこないからなぁ・・・」
「煮物もおいしくて私は好きだよ?」
「分かって無ぇなぁ千里・・・。毎日だぞ? その日残った煮物に、また具材を足して味を調えて又次の日・・・味噌汁も然り」
「何か、大地の家に行くのが不安になってきましたわ・・・」
「まぁ、自然はいっぱいあるぞ!」
「自然しか無いのでしょう?」
「うるせぇ! コンクリートジャングルよりかましだ!」
「ではなぜ、田舎に人が集まらないのか教えて下さるかしら?」
「クッ・・・」
「お前ら喧嘩すんなよな・・・」
守はため息をつく。
食事も終わり、水着に着替え浜辺に向かう。
浜辺には、なんだかんだ言いながら、皆水着姿で集合していた。
「あれ? キャロルは来てないみたいだけど泳がないのかな」
「さぁ? どうだろうな? まぁ・・・待ってても来るか分からないし、先に泳いでようぜ」
大地が海に向かおうとしたその時、向こう側から水着姿のキャロルが歩いて来るのが見えた。
「お? あれキャロルじゃねぇ?」
キャロルは以前の競泳水着とは違い、千里と同じような胸の大きく開いた真っ白な水着を着用していた。
その純白の水着を着たキャロル天使のように美しく、守はその姿に言葉無く見入ってしまっている。
「な・・・何をジロジロ見てますのよ! この変態!」
胸元を手で隠し顔を真っ赤にするキャロル。
「み・・・見てねぇよ!」
守の顔も赤くなる。
その横で大地が腕を組み唸る。
「惜しい! 実に惜しいぞ・・・お前にも千里ほどのモノがあればーーー」
言い終わる前にキャロルの蹴りが大地の腹を捉え、大地は海まで一直線に飛ばされる。
着水した大地は何とか水面に顔を出す。
「ぶはっ! 冗談だってーーーうわっ!」
沙耶の放った銃弾が、大地の横で高い水しぶきを上げた。
「沙耶! お前の腕は信じてるが、万が一ってものがあるだろ!? やめてくれーーー」
再び隣で水柱が立つ。
「口が滑る事もあれば、手が滑る事もある」
「加勢致しますわ沙耶!」
キャロルは両手を前へ出し大地に攻撃を始めた。
その横で旋風は笑い、楓はオドオドしている。
2人が大地を狙っている間に、千里はスッと守の横へ身を寄せて
「守君・・・。さっきキャロルちゃんに見とれてたでしょ・・・?」
プクッっと膨れたような表情をして守に言い寄る。
「いや・・・違っ! 誤解だ千里!」
「そう。 ならいいんですけど」
プイッっと千里はそっぽを向き、海の方へと歩き出す。
「だから違うって」
慌てて追いかける守。
その様子にキャロルが気がつく。
「ま~も~る~・・・! 貴方まで胸に釣られてんじゃありませんわよ! どいつもこいつも変態変態へんたーい!」
守の傍に火球が直撃し、砂浜がえぐれる。
「だから違うって言ってるだろ!」
守はひたすら砂浜を走って逃げた。
そうこうしている内に帰る時間が迫り、身支度を整えヘリ乗り場へ集合した。島を後にする守達見送りに、集まってくれた大勢のメイドや執事達にお礼の挨拶を済ました後、ヘリに乗るのを嫌がる大地を気絶させ、無理やりヘリに詰め込み島を後にした。
無事に学校へと到着し、大地はヘリを降りるなり、すぐさま部室の裏へ走り去って行く。
「皆さん。この一週間お疲れ様でしたわ。当初の予定とは違いましたが、それなりに修練を積めたものだと思っておりますわ。そして大地の実家へ行く件なのですが、時間が惜しいので明後日出発と致します。各自許可取りをお願い致します。明日は準備等あると思いますので各自自主訓練を行って下さいまし」
「はーい」
「では、私は楓を家まで送って行くよ。さ、行こうか楓」
旋風は楓に手を差し伸べる。
「うん。ありがとう旋風お姉ちゃん!」
「う・・・嬉しい・・・!」
旋風は楓の手を引きながら帰って行った。
「楓ちゃん・・・氷雪会長に任せて良かったのか・・・? 逆に心配だぞ」
「多分大丈夫ですわ・・・」
「しっかし・・・氷雪会長ってもっと怖い人かと思ってたけど、すごくいい人だったよな」
「うん・・・優しくて、強くって・・・素敵な人だったね」
「さ、わたくし達も帰りますわよ」
「おう、それじゃあな。みんな」
「すまん。守。俺は沙耶とちょっと明後日の買い出しして帰るから、守はキャロルと千里を頼むな」
「わかった」
大地達と別れ、歩いて帰る3人。
「いや~! 楽しかったな! キャロルありがとな」
「ありがとうキャロルちゃん! 私も楽しかった」
「楽しむ余裕があったという事は、次はもっと厳しくしても構わないという事ですわね?」
「げ・・・結構スパルタだったと思うけど・・・。キャロル、お前はどうだったんだ? 楽しかったか?」
「別に・・・。」
「可愛くねぇなぁ・・・。」
「だ・・・駄目だよ守君! 女の子に可愛く無いなんて言ったら! キャロルちゃんはこんなに可愛いのに!」
ムスッと膨れた顔をして、守を詰め寄る千里。
「そうそう! そういう可愛さがキャロルには足りな・・・痛てっ!」
足に激痛が走り、足元を見るとキャロルの足が守の足をグリグリと踏みつけている。
「ふんっ」
そうこうしている内に千里の家にたどり付く。
「では千里。許可が取れたら又明後日8時半にグラウンドに集合してくださいまし」
「うん。わかった」
千里を送り届けた2人は再び歩き出す。
しばらく歩いた後、キャロルから話を切り出す。
「守」
「ん? 珍しいなお前から話しかけてくるなんて。 もしかして・・・まだ怒ってんのか?」
「その・・・どう・・・でした?」
キャロルの顔は赤く染まっている。
「どうって? 何が?」
キャロルは守の胸倉を掴み、その真っ赤に染めた顔を近づける。
「わたくしの水着姿に決まってますでしょう!?」
「か・・・可愛かったよ」
「ち・・・千里と比べて・・・どっちが良いと思いましたの!?」
(正直・・・甲乙つけがたい・・・。千里も素晴らしかったし、キャロルも純白の水着がすごく良く似合ってた・・・。でもここは・・・)
「キャロルの方が可愛かったよ?」
「・・・嘘じゃありませんわよね?」
「おう」
キャロルは掴んでいた胸倉を離す。
「そうですか・・・では今度千里に会ったら、守が私の方が可愛いと言っていたと伝えておきますわ」
「ちょっと待て! それはーーー!」
キャロルの頭突きが守の顔面に命中し、守は顔を抑えてうずくまる。
「嘘でしたわね?」
守は滴る鼻血を抑えながら、うずくまった守に追撃を放とうと足を挙げる。
「すまん! 正直引き分けだった・・・でも、お前の水着姿が可愛いと思ったのは本当だ!」
振り下ろそうとした足がピタリと止まる。
「ふんっ・・・」
キャロルは蹴るのを辞めポケットからハンカチを取り出し、守に投げつけた後スタスタと歩き出す。
「いつまでうずくまって居ますの? ほら、行きますわよ」
「鬼」
「あら? 何か言いまして?」
「イエ、ナニモゴザイマセン」
そのままキャロルを送り届けた後、帰宅した守を優香が出迎えてくれた。
「守~! お帰りなさい~!」
守に抱き着く優香。
「ちょっと離せって、優香姉!」
「これが離さずにいられますか!」
「あーもう!」
「ほら、優香。その位にしてあげなさい」
「母さん。ただいま」
「おかえりなさい」
「母さん・・・話があるんだけど・・・」
リビングのテーブルに3人は座り、守は大地の家に泊まり込みで訓練をする旨を伝えた。
「今度は桜さんの家に泊まるですって!? しかも明後日には出発するって本当ですか!?」
「お母さんは良いと思うけど・・・。又、付き添いを氷雪さんに頼むって言うのも悪いわねぇ・・・」
「ハイハイハイ! 私が付いて行きます!」
「でも桜さんの家よ? 貴方・・・大丈夫?」
「ゔっ・・・」
優香は複雑そうな表情をする。
「どうした優香姉? なにかまずいのか?」
「な・・・何でもない! 何でもない!」
「はぁ?」
「とにかく・・・明日氷雪さんと優香で誠さんに相談してみなさい? 母さんが連絡しておくから」
「はーい」
次の日、優香と旋風が校長室へ呼ばれた。
机に座る誠の前に並んで立つ2人。
「ふむ・・・今度は桜の家に行きたいと言うのか・・・」
「はい。今回私は彼らに同行してとても良い経験をする事が出来ました。引き続き監視の任務に就かせて頂けたら幸いです」
「私も是非、良ければ付いて行かさせて頂きたいと思っております」
誠は髭に手を当てムムム・・・と唸る。
「旋風君は勿論ついて行って構わんのだが、本来なら優香君はこのまま隊の訓練を続けて貰いたい・・・しかし、桜か・・・ふむ・・・桜の所へ行くとなると話は変わってくるのう・・・。よし! 優香君。君も桜の所へ向かう事を許可する!」
『ありがとうございます!』
2人は揃ってお礼を言う。
「しかし両名とも、桜よりしかと訓練を授かるのじゃぞ」
『はいっ』
2人は嬉しそうに校長室を後にした。
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