第50話 桜の家・爺さんの家

大地の実家から少し離れた広場へ砂埃を巻き上げながら、ヘリは降り立つ。

皆を下ろしたヘリは再び上昇し、あっという間に見えない程遠くへ飛び立って行った。


「沙耶」


沙耶は仰向けに寝かされている大地の胸に手を当て、電流を流し大地を起こす。


「はっ!? 俺は一体・・・」


辺りを見渡す大地。


「大丈夫。少し寝てただけ」


「お・・・おう? おーーーっ! 帰って来たぜ俺の実家!」


大地は深く深呼吸する。


「やっぱ空気が美味しいな」


「そうでございますね」


「櫻姫もそう思うか・・・ってうわっ! どうしたんだその姿!」


櫻姫はいつもの少女の姿ではなく、大人の女性の姿をしていた。


「余の御神体である桜の木が近くにございますので、力が満ちているのでございます」


「なるほど・・・。そういえば俺も心なしか力が上がってる気がするな」


「みなさ~ん。ヒック。こっちですよ~!」


遠くの方で女性がこちらに向かって手を振っている。

その手には一升瓶が握られていた。


「げっ!? 一花姉!? 又昼間から酒呑んでるのかよ!?」


「ぬへへ~・・・大ちゃ~ん~おかえり~!」


ふらふらと歩いて来た後大地に抱きつき、そのままキスをした。

突然の事に一瞬時が止まったかのように皆固まる。


「だから・・・いつもやめろって・・・言ってるだろ!」


一花を無理やり引き剥がし地面へ投げ飛ばす。


「・・・殺す」


後ろで沙耶が体中から電気を放出させ、攻撃態勢を取っていた。


「お・・・落ち着け! 沙耶! この人は俺の実の姉だから!」


「お姉ちゃん・・・?」


放電をやめる沙耶。

大地は倒れ込んだ一花をゆする。


「おい! 起きろよ一花姉! ・・・寝てる」


一花を抱え上げる大地。


「みんな付いて来てくれ、家に案内するから」


少し歩いた後、山の中にある集落にたどり着く。

その中でも一番高い所にある一軒家の前で大地の足が止まる。


「ここが俺ん家だ」


そこには見るからに古そうな、大きな屋敷が建っていた。

庭には鶏が自由に走り回っている。


「・・・り・・・立派なお屋敷ですわ・・・ね」


「ははは、気使わなくてもいいぞキャロル。見ての通り、うちはボロ家だからな」


「すげー家だな! 俺は好きだぞこういう家!」


「守~お前いける口だな!? さ、皆遠慮なく上がってくれ!」


『お邪魔しま~す』


大地の後を付いて歩いて行く守達。一歩一歩歩くたびに床が軋む音を上げる。


「大地君・・・この床・・・抜けたりしないよね・・・?」


「ああ、この音か。この床は鶯張りっていってな、侵入者を知らせるためにわざと音が鳴るように作ってあるんだ・・・ってばっちゃが言ってた」


「一体築何年ですの・・・」


「俺も分からん」


雑談をしながらトイレや風呂、炊事場などを案内して行く。


「そしてここが皆の寝床だ」


その広い一室の端には布団が重ねられていた。


「ちょ・・・ちょっと待って下さいまし!? ベッドは!? 個室ではありませんの!?」


「ある訳無いだろ。雑魚寝だ雑魚寝。」


「ありえませんわ! やっぱりわたくしはホテルを取らせて頂きますわ!」


携帯を取り出しホテルに予約の電話を入れようとするキャロル。

しかし【圏外】


「言い忘れてたけど、携帯使えないから」


「そういう事は先に言って下さいまし!」


絶望するキャロル。それをよそに、優香が大地に話しかける。


「大地君。まさか全員で雑魚寝じゃありませんよね?」


「そのつもりでしたけど・・・?」


「コホン。先生の立場から言わせてもらいますが、やはり年頃の男女が同じ部屋で、一緒に寝るというのは風紀の乱れに繋がると思います。他に部屋は空いてますか?」


「えっと・・・両隣の部屋が空いてますよ?」


「では・・・こういう部屋割りでお願いします」


優香は半ば強制的に部屋を振り分ける。


「はぁ・・・」


持ってきた荷物を自分の部屋に降ろしながら、守はため息をつく」


「何で優香姉と2人部屋なんだよ」


「仕方ないでしょう? 守と私。それに大地君と一花さん。あとの女性はさっきの大部屋で、一緒に寝るというのが一番健全な分け方だと思いますよ?」


「そうだけどよ・・・」


優香は突然守を後ろから抱きつき、そのまま押し倒す。


「いいでしょ? 一緒に寝るのなんていつ振りかしらねぇ・・・?」


「やめろって優香姉ーーー」


ガラッと勢い良くふすまが開き、隣の部屋から仁王立ちしたキャロルと千里が2人を見下ろしていた。

その後ろにいる楓の両目を、旋風が手で見えないように塞いでいる。


「黒田先生・・・。風紀を乱しているのは先生じゃありませんの!」


キャロルは優香に銃を突きつける。


「これは・・・兄弟のスキンシップですーーー」


「どこがですのーーー!」


銃声が鳴り響いた。


部屋に正座させられる、優香と守。優香の頭には大きなたんこぶが出来ていた。


「いいですか黒田先生! 今後一切、先ほどのような行動は慎むようにお願い致しますわ! 楓もいますのよ!?」


「私の方が年上で・・・しかも上官なのに・・・」


頭をさすりながらぶすくれる優香。

キャロルは再び銃を突きつける。


「何かおっしゃいまして?」


「いえ! 以後・・・気をつけまーす・・・。」


「守も守ですわよ! 少しは抵抗して下さいまし!」


「優香姉の馬鹿力で抑え込まれたら 抵抗なんか出来るわけ無ぇだろ!」


優香に向けていた銃口を守へと向ける。

小さく両手を挙げる守。


「わ・・・わかったわかった!」


「フンッ」


大地が後ろから顔を出す。


「キャロル。お前、刀坂爺さんの所行くんだろ? 案内してやるから行こうぜ」


「そうでしたわね。用意したらすぐ向かいますわ。守と外で待ってて下さいまし」


「ここで待ってるから用意出来たら声かけてくれ」


「作業着に着替えますので、さっさと出て行って下さいと言っていますの」


守と大地は家の外でキャロルを待つ。


「お待たせしました」


家の中から、作業用のツナギに大きなリュックを背負ったキャロルが姿を現す。


「・・・冒険でも行くのか?」


「全て必要な物ですの」


「そういや他の皆はどうしたんだ?」


「皆で武具製作を見に行く必要はありませんので、黒田先生監督の元。訓練を言いつけてますわ」


「俺も行く意味はあんまり無いと思うけど?」


「いえ、守には少しばかし手伝って欲しい事がありますので、ついてきて下さいまし」


「それじゃ・・・行くか。さ、乗ってくれ」


「乗るってどれに?」


守が辺りを見回すが乗り物が見たら無い。


「それだよそれ」


大地が指差す先には馬が3頭草をはんでいる。


「馬!?」


「ほら、さっさと乗って下さいまし! 置いていきますわよ!」


馬にまたがったキャロルが急かす。


「守お前・・・馬乗れないのか?!」


同じく白馬にまたがった大地が、驚いたように言う。


「乗れるか!」


「仕方無ぇな・・・ほら乗れよ」


大地は馬の上から手を差し伸べる。


「王子様かよお前」


大地は守を自分の前に乗せ手綱を握る。


「振り落とされんなよ!・・・ハッ!」


大地の掛け声と共に馬は走り出した。



暫く走った後、道端にある、一軒家の前で大地は馬から降り、馬がどこかへ行ってしまわないように繋ぐ。


「本当にここですの・・・?」


キャロルは心配そうにその家を見つめる。それもそのはず。【鍛冶屋】の看板は傾き。入り口のガラス張りの引き戸も相当の年季が入っており、ガラスにはヒビが入っている。

しかし中から何やらカーンカーンと鉄を叩くような音が響いていた。


「お、この音は爺さんやってるな」


ガラッと古びた扉を開き中に入る大地。

扉の先はすぐに作業場になっており、大柄な男が何やら鉄のような物をを叩いていた。


「おーい爺さーん」


その声に気がついた刀坂は一瞬手槌を止め、そして再び叩き始めた。


「どのツラ下げて戻って来やがった・・・この馬鹿弟子が!」


「だから、俺は爺さんの弟子にはならねぇって言っただろ!?」


「師匠のこの俺に相談もせずに勝手に東京なんぞに行きおって」


「俺は弟子じゃねぇっつってんだろ!?」


「ふんっ。桜姉あねさんの頼みじゃ無かったら断っておったわい」


「何だ、話聞いてんのか。じゃあ話が早いな。爺さん龍鱗鉱ってやつ加工出来るんだろ?」


「馬鹿にしておるのか!? クラス5まで出来るに決まっておるだろ!」


「いちいち大声出すなようるせぇな・・・」


「クラス5ですって!? 貴方一体・・・」


「そんな事はどうでもいいわい。で、何だ?」


「そうそう。この・・・」


キャロルは一歩前に出て自己紹介を始める。


「申し遅れました。わたくしはーーー」


「名などどうでもいいわい。で、なんじゃ小娘。端的に話せ」


キャロルはムッとしたが、こらえて続ける。


「龍鱗鉱の加工を教えて頂きたく伺いましたわ」


「無理だ」


「・・・これを」


キャロルは腰のホルダーから銃を取り出し刀坂へ見せる。


「クラス2をこの程度の加工が出来ますわ」


刀坂はそれを一瞥し、手を止めおもむろに部屋の奥の方へ歩き出す。戻って来た刀坂の手には一本の包丁が握られていた。


「銃を貸せ」


キャロルは銃を渡す。

銃を受け取った刀坂は包丁を振り上げ、そして銃に向かって振り下ろした。

銃は真っ二つになり地面に音を立てて転がる。


「ちょっと何を致しますの!?」


「確かに加工は出来ておる。基礎も学んでおるようだが独学に近い。だからこんな大地の打ったクラス1の、ナマクラ包丁でも軽く切断できてしまうんじゃ」


「ナマクラって言うな! ナマクラだけど!」


「・・・未熟は百も承知ですわ! どうかこのわたくしに加工の仕方を教えて下さいまし!」


キャロルは深々と頭を下げる。


「・・・ついて来い」


刀坂は先ほど包丁を取りに行った部屋へ再び歩き出す。

守達はその後ろとついて歩き、隣の部屋へ入る。


「なんだここ、さっきの部屋とあんまり変わらなくないか?」


その横でキャロルが目を輝かせながらワナワナと震えていた。


「何言ってますの!? 全然違いますわ! すべての機材や工具が高クラスの龍鱗鉱で作られていますわ! それに奥には高クラスの龍鱗鉱や希少素材の牙や爪! わたくしも見た事無い素材がこんなにも沢山! 嗚呼・・・もうわたくしここに住みますわ!」


「そ・・・そうか・・・俺には分からん」


「一切の物に触ることは許さんぞ!・・・むっ」


刀坂はある一点を見つめる。


「・・・気のせいか」


「いやー! 懐かしいな。何も変わってねぇ! おっ!? 俺らが昔使ってた加工スペースそのままにしてくれてんのか! よっしゃ。俺もちょっとメイドさん用の包丁でも作るかな。 おい、爺さん、そこのスペース使っていいか?」


「好きにしろ。そこはお前にくれてやると言ったろ」


「さんきゅー!」


「そうだな・・・小娘。大地が包丁を打つ所を見てろ」


「わかりましたわ」


「俺のなんか見ても何も学べないぞ? それより爺さん、ちゃんと教えてやれよな」


「いいからやれ」


「はいはいーっと」


大地はなにやら棚から数枚の板を取り出し吟味した後、別の所へ歩き出し、なにやら吊るしてある四角い袋の中から1つを選び自分の作業場の椅子へ座る。龍鱗鉱で出来た作業台の上にそれを置き。冷凍庫の中から分厚い氷を取り出し水に入れた。冷やしている内に、加工に使う道具を広げ、抜けが無いかを確認をする。


「よし。道具は全てあるな・・・。じゃ・・・始めるか」


大地は厚い皮の手袋をはめる。
























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