第42話 砂浜でバーベキュー
「皆さん。本日の昼食は浜辺でバーベキューを行いますので、それまでは自由に泳いでいて構いませんわ」
「バーベキューか! 悪いなキャロル何から何まで」
「優勝祝いですわ。ですが皆さま普通のバーベキューでは少し面白みに欠けますので、各自1つ海の幸を取ってきて下さいませ。水中銃やシュノーケル、水中通信機などの道具はこちらで用意しておりますので」
「よっしゃ守! 魚突きに行こうぜ!」
「俺・・・やったこと無いけど」
「大丈夫俺が教えてやるからよ」
「ならやってみるか」
装備を整え海に出る守と大地。
「キャロルちゃんはどうするの? 一緒に泳ぐ?」
「わたくしも食材を取りに海に出ますわ」
「じゃあ、楓ちゃんと沙耶ちゃんは一緒に泳ごうよ。えっと・・・氷雪会長さんはどうします?」
旋風は少し困った顔をして言う。
「私は泳げ無いんだ」
「えっ・・・? じゃあ浅瀬で遊びませんか?」
「いいのか?」
「もちろんです」
「やった。」
海に出た守は水中に広がる幻想的な光景に感動する。
「すっげー! テレビとかでは見たことあるけど、実際に見るとこんなに綺麗なんだな」
「おい守。あそこよく見てみろよ」
水中通信機から大地の声が聞こえ、ある一点を指さす。
「何も見えないぞ?」
「いいか、見てろ」
大地は一気に潜水を開始し、海底に向かって水中銃を構え、そして放った。
海底の砂に当たったと思いきや、突然動き出す。
「魚か!?」
大地は紐を手繰り寄せその魚を手に浮上してくる。
「どうだ? ヒラメだぞ!」
「すげぇな大地! 何処で覚えたんだそんなの?」
「九州に居た時にな、地元の漁師さんに教えて貰ったんだ」
そう言いながら大地は腰から小型のナイフを取り出し、エラに差し込む。
「こうやって〆とかないとすぐに悪くなっちまうからな」
「なんかグロイな」
「魚なんかまだいい方だぞ、牛の屠殺なんか見ちまうと肉しばらく食えなくなるもんな。まぁ俺らの知らない所で、誰かがこれをやらないと皆が生活出来ないからな」
大地はそのヒラメを浮き輪の中に設置された、スカリと呼ばれる袋の中へ詰め込む。
「よし! さぁ次、守やってみ!」
「まぁ、折角だしやってみるか」
「動いてる魚は難しいから、最初は海底にいる奴を狙った方がいいぞ」
そうこうしている内に昼食の時間が近づき、まずはキャロルが海から上がってくる。
「あ、キャロルちゃんお帰りー・・・ってすごい!」
キャロルの手に持っている網は大量の魚でパンパンに膨らんでいた。
「ま・・・こんなもんですわ」
「おー。」
旋風は小さく手を叩く。
「大漁」
「ふっふっふ・・・甘いなキャロル」
いつの間にか海から上がって来た、大地と守が後ろに立っていた。
「あら大地。ちゃんと魚は捕れましたの・・・。!?」
大地は担いでいた網を砂浜へ、ズンッと置いた。
「な・・・何ですってー!?」
「すごい! 大地君と守君も同じくらい捕れたんだね!」
「お兄ちゃん達もすごいです!」
「同じじゃありませんわ!わたくしの取った魚は15~25センチ。しかし大地と守のは25~40センチの大物。しかも丁寧に海の中で〆てますわ・・・それに見つけるのが難しいサザエやアワビの貝物に、極め付けはその大きなタコ! これも海ですでに内臓の処理を済ませてあるなんて・・・!」
グヌヌと悔しがるキャロル。
「参りましたわ・・・守と大地の勝ちですわ」
「違うぞキャロル。これは全部大地の捕ったもので、俺のはこっちだ」
守は水着のポケットから小魚を一匹取り出す。
それを見たキャロルは一瞬目を丸くし、そして
「プッ・・・クフフ・・・アーッハッハ」
キャロルは盛大に爆笑する。
キャロルの大笑いする姿を始めて見て一同はキョトンとしている。
「あー可笑しいですわ! そんな小さな魚、逆によく捕れましたわね?」
「大地の捕った、魚の口から出て来た所を捕まえたんだよ・・・悪いかよ!?」
「あはは! それを捕ったって言いますの!? まったく、バカですわね!」
キャロルは涙を拭う。
「うるせぇ! で・・・他の皆は何か捕れたのか?」
千里は横に置いてあった海草を持ち上げる。
「私は・・・ワカメ?」
「カラス貝?」
「私は、カニさん」
「フジツボ?がとれたぞ」
「どう考えても守が最下位ですわね」
「ええ!?」
「さ、とにかくバーベキューの用意が出来ておりますので、お魚をメイド達に預けて処理して頂きましょう」
いつの間にか後方に設置されている、バーベキューのセットに食材を運ぶ。
魚などは大きなクーラーボックスに移し替えた。
「では、よろしくお願い致しますわ」
「かしこまりました姫様」
メイドは頭を下げる。
「俺も手伝いますよ」
「貴方様は確か・・・大地様でいらっしゃいますわね。お気持ちは嬉しいのですが、これが私達の仕事ですのでお気遣い無く、存分にバーベキューを楽しんで下さいませ」
「うーん、やっぱり自分の捕った魚は、なるべく最後まで処理してあげたいんだよな。ダメかなキャロル?」
「いいですわ。好きにさせてあげて下さいまし」
「かしこまりました」
「ありがとな!」
大地は砂浜の端にある、木の下に置いてあったバッグから木箱を取り出す。
「では、始めるとしますか」
木箱の中には数本の包丁が丁寧にしまわれており、その中から数本を選び取り出した。
「へぇ・・・。大地様、相当の業物をお持ちでございますね」
「これは俺が打ったんですよ。近所に鍛冶屋があって、良く遊びに行ってたら教えてくれたんです。全然駄目だって怒られましたけど、思い入れのある包丁なので愛用しているんです」
「これの業物が!?」
「どうしたんですの?」
「失礼しました姫様。この包丁を見て少し驚いたもので・・・」
包丁を見るなりキャロルの顔色が変わる。
「これは・・・龍鱗鉱で出来た包丁!?」
「そうなのか?」
「これを大地様が御造りになられたそうです」
「あんたが!? 加工には特殊な機材と技術が必要ですのよ!? 出来るようになるまで最低5年はかかると言われてますのに・・・私でさえ習得には苦労致しましたのよ!」
「あー・・・そういえば5年くらいは通ったかなぁ・・・。田舎なんてやる事無かったし。・・・あの爺さん元気にしてるかな~」
「しかし・・・これは収穫でしたわ。大地、貴方今度から私の武具制作を手伝って下さいまし」
「え? でも俺、結局爺さんに最後まで未熟って言われたけど大丈夫か?」
「これだけ出来れば大丈夫ですわ」
「ならそん時は呼んでくれ。やってみるからよ」
「お願いしますわ」
「さてと・・・じゃあ料理すっから向こうで待っててくれ」
キャロルはバーベキューに戻る。
「大地様」
メイドが少し恥ずかしそうな顔をして大地を見る。
「どうしました?」
「そ・・・その・・・私にも包丁一本打っていただけませんか? ちゃんとお支払いしますので・・・」
「俺なんかの作で良ければ」
「・・・! ありがとうございます!」
「では、料理始めますか!」
「はい!」
テーブルの上に用意されたお肉に、一同は目を輝かせている。
「本当にいいの・・・キャロルちゃんこんな高そうなお肉・・・」
「ええ、存分に召し上がって下さいまし。ですがちゃんとお野菜も食べるんですのよ」
「はーい」
そこへ大地がヒラメのお造りを運んでくる。
皿の下にはドライアイスがしかれており白い煙が零れ落ちていた。
「バーベキューにはちょっと似合わないが、折角の新鮮なヒラメなんで刺身にしてみた」
「大地お兄ちゃんすごーい!」
「どれどれ・・・」
守は小皿に醤油を垂らし、箸でヒラメの刺身を持ち上げる。透き通るように薄いヒラメの身は宝石のような輝きを放っていた。それを醤油につけ口に運ぶ。
「---うまい! こんな刺身食ったこと無いぞ」
「だろ! これが正真正銘の鮮魚だぜ」
「楓も食べるー!・・・おいしー!」
皆刺身を美味しそうにほうばる中、キャロルは箸をつけずにいた。
「おい、どうしたんだキャロル、食わないのか?」
「それは大地の捕った魚ですわ・・・わたくしは自分の捕った魚を食べますわ」
「そんな事気にするなって。ほら食ってみろうまいぞ」
守は箸で刺身を醤油につけキャロルの前に差し出す。
「あ、これ俺の箸だったな・・・待ってろ新しい箸を出してやるよ」
「もうそんな事気にしませんわよ!」
そう言って守の差し出した刺身にかぶりつく。
もぐもぐと十分に咀嚼した後、左手を唇に当て
「美味しいですわ・・・なんて豊かな味」
「だろ?・・・って何すんだよ!」
キャロルは守の箸と小皿を取り上げ刺身を2枚、3枚と口に運んでいく。
その度に満足そうな表情を浮かべていた。
「守。貴方は自分の捕ったお魚でも食べてなさい!」
「何だよそれ!? ひでぇな!」
(まぁ・・・キャロルのこんな姿今まで見たことなかったし、ちょっと新鮮だな)
「大地、すまん、あの俺の捕った魚裁いてさばいてくれるか?」
「おう。内臓取ってやるから、そうだな・・・あのサイズなら丸焼きだな」
刺身を適当に食べた後、炭火で肉を焼き始める。
「肉もうめー! こんな肉食ったこと無ぇぞ!」
「至極上等な肉」
「ほっぺ落ちちゃうよ~!」
「あなた方・・・普段どのような肉を召し上がってますの・・・」
「100グラム88円の豚肉」
「100グラム50円の鳥肉」
「ほんっと・・・底辺ですわね・・・どんなに貧しくても、食にだけはお金をかけるべきですわよ。ま、今日は沢山食べて下さいまし」
「はーい!」
「肉頂きっ!」
「ちょっと大地それわたくしのですのよ!」
「名前でも書いとけよ!」
「なんですってー!?」
その争いをよそに、守は自分の魚をじっくり焼き続ける。
「そろそろ焼けただろ!」
「本当にそれ食べますの?」
「いいだろ別に! うーん・・・これくらいなら丸ごと食べれそうだな」
魚の尻尾を掴み頭からかぶりつく。
「・・・苦い」
「無理して食べるからですわよ・・・はい、お水でも飲んで下さいまし」
「さんきゅー」
その後も和気あいあいとバーべキューは進行し、お腹が一杯になった所で、ぼちぼちと片付けを開始した。
片付けが終わった後、守と大地は海岸に設置されたパラソルの中で休憩する。その目の前では千里・楓・沙耶、そして旋風が一緒に水を掛け合ったり、ビーチボールを飛ばしあったりして遊んでいる。
「いや~しかし守君、女子の水着姿は素晴らしいですな~」
「まったくだな」
「おっとそうだ、忘れてた」
そう言いながら大地は携帯電話を取り出し、遊んでいる千里達の写真を撮り始める。
「おい大地。勝手に写真なんか撮って怒られないか? それともお前がいつか使うのか?」
「ん? いや、ほらこの写真、太にも送ってやろうと思ってな。俺と守でSNSのグループ作ったろ? あいつ文字でなら会話出来るって分かったしな」
「太は結構SNSでやり取りしてたけど、思ってたより面白い奴だよな」
「そうそう。で、あいつ千里に気があるみたいだろ?どうせ太が参加してたら見れた姿だし送ってやってもいいだろ別に」
そう言って写真を添付しSNSに投稿する大地。
大地「千里の水着だぞ喜べ太」
ピコーン♪と携帯から音が鳴り太からの返信が帰ってくる。
「おっ早速返信か、向こうも休憩時間だったのかな」
「何て返ってきたんだ?」
大地は携帯を守に見せてくる。
「ド四股(シコ)イ」
「・・・ブッ! アハハハ! 太・・・お前やっぱ最高だわ!」
守は思わず吹き出す。
「やっぱ太も男だよな~!」
「何してるの2人共・・・?」
「うわっ千里!? 何でも無ぇよ!」
大地は慌てて携帯を隠す。
「なんか怪しい・・・」
腰に手を当てズイっと顔を近づけてくる千里。
「お・・・お前・・・胸! 胸がこぼれるぞ!」
千里の顔はみるみる赤くなり胸を手で隠す。
「大地君のバカーーー!」
バチーンという景気の良い音と共に、千里の平手打ちが大地に炸裂した。
「最低だな、大地」
守はスッと立ち上がり、はたかれた大地を千里と一緒に見下ろす。
(すまん大地)
「裏切り・・者・・・」
ズシャっという音を立てて大地は砂浜に沈んだ。
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