第43話 初日の夜【前編】

一同は夕方まで海で遊んだ後、キャロルの屋敷まで移動する。


「いや~! 泳いだ泳いだ!! 結構長いこと潜ってたから、日焼けして背中がヒリヒリするな」


「俺もだ・・・こんな焼けたの初めてだぞ」


「皆さん、各自の部屋にお風呂がございますが、屋敷の一階には天然温泉の大浴場もございますので、そちらを利用して頂いても構いませんわ」


「まさかキャロル・・・混浴か!?」


「馬鹿大地。殴りますわよ」


「何だ違うのか、まぁいいや、守一緒に入ろうぜ!」


「おう」


「女性の方達も是非利用してくださいまし。それと、部屋のロッカーに浴衣も用意してますので」


「はーい」


各自は用意された自分の部屋に向かった。

部屋に戻った守をしばらくして大地が迎えに来る。


「行こうぜ守~」


「おう」


大浴場の更衣室に到着した2人は、服を脱ぎ浴槽のある部屋に入る。


「広っ!? まるでプールじゃねぇかよ!」


「まぁ従業員の人とかも使うんだろうけど・・・広すぎだな。とにかく体洗って入るか」


体を丁寧に洗いそして湯船に浸かる。


『ふぅ~・・・生き返る~』


湯煙の中天井を見上げる2人。


「・・・なぁ守」


「何だ?」


「お前・・・キャロルの事好きなのか?」


「ななな・・・何だよ突然!?」


守の顔が真っ赤に染まる。


「わりぃわりぃ! いや、お前ら仲良いから、どうなのかなと思っただけだよ」


「うーん・・・。可愛いとは思うけどな・・・。でもそれ言ったら千里だって可愛いし。でも好きかって言われたらどうなんだろ? 俺はあんまり人とは接して来なかったから、ちょっとわかんねぇな」


「中学の時も好きな子とは居なかったのか?」


「俺中学行って無ぇんだわ。勉強は何か軍の特殊な施設で授業受けてたからな。クラスメイトなんて5人位しか居なかったし」


「なるほどなぁ~」


「そういう大地は、沙耶とはどうなんだよ」


「沙耶かぁ・・・俺は沙耶の事は好きだぞ。だけどよう・・・」


「だけど?」


「俺はまだ弱っちいからさ、まだ沙耶の隣に立つ自身が無いんだ・・・だから、もっと強くなってあいつを守れるって自信がついたら、告ってみようと思ってる」


大地はお湯に口の辺りまでつかり、ブクブクと恥ずかしそうに泡を立てた。


「沙耶は・・・あんまり気にしないと思うけどな」


「・・・あと守。お願いがあるんだが」


「何だ?」


「沙耶の事好きにならないでくれよ。相手がお前じゃ俺に勝ち目は無さそうだし、それにお前ならいいかなって思っちまうから」


守は大地の頭に手を乗せ、そのままお湯にねじ込んだ。


「何が敵わないだよ、それはこっちのセリフだっつーの」


ブハッ!っと守の手から脱し顔を出す大地。


「ゲホッ・・・ゲホッ!な・・・何すんだよ守!」


「何となくだ」


「青春でございますね」


「ーーー!? 櫻姫様!?」


いつの間にか2人の横に、櫻姫が裸で座って入浴していた。


「櫻姫いたのか」


「勿論にございます」


「守、気にしなくていいぞ」


「無理だろ! つーかお前らいつも一緒風呂入ってるのか!?」


「最初は断ってたけど、よく見たら小学生くらいの見た目だろ? 兄弟と思ったらまぁ・・・そんなおかしな事でも無いかなって」


「・・・やっぱ敵わねぇな・・・」


一方その頃、女湯では楓・沙耶・千里・キャロル・旋風の順で湯船に浸かり、温泉を満喫していた。


「それにしても広いお風呂ですねー! こんなに広いと泳げちゃいそうですね!?」


「楓、本来はマナー違反ですが、今日はわたくしが許可致しますので、泳いでも構いませんわよ」


「えっ!? ありがとうございます! やったー!」


楓は大喜びし、湯船の中を泳ぎ始めた。


「無邪気なものだな。あれで超念動の持ち主というのだから、恐れ入る」


「ええ。戦い方を学べば、かなりの戦力になるはずですが、まだ年端も行かぬ子供。本来なら戦闘を教えたくは無いのですが・・・」


「しかし、神代校長の孤児院に入るという事は、神代チルドレンの一員として今後、戦闘訓練を積む事になるだろうな」


「ええっ!? 楓ちゃんもドラゴンと戦う事になるの!? そんな・・・まだ子供だよ!?」


「どの道、今保っている戦線が崩れれば全滅ですわ。戦える力を持っている者が戦う。それが例え子供でも。・・・千里。貴方もその力を持っているのですから、有事の際は覚悟をしておいて下さいまし」


「わ・・・私は・・・」


「キャロル。まぁ・・・そう追い詰めるな。神代校長を初め、以下将校達もそうならないように全力を尽くしている。そしてこの私も、卒業すればその一員として最大限に努力するつもりだ。そして来年起こるであろう大災厄を前線で粉骨砕身する気構えだ」


「大災厄ですか・・・わたくしもそれを見据えて、彼らを鍛えています。必ずや来年までには同じく前線で戦える位にはするつもりですわ」


「学生が出陣するかは状況次第だが、そうだな・・・期待してるぞキャロル」


旋風は右拳をキャロルに向ける。

キャロルもそれに左拳を合わせた。


「所で千里・・・。君は本当に年下なのか? 何だその身体つきは?」


「まったくですわ」


千里の体を舐め回すように見る旋風。


「ひっ・・・。私なんて・・・それより氷雪会長はモデルのような体系で羨ましいです・・・」


「・・・それに、あの露出の高い水着は何ですの?・・・センスが悪いんじゃありません?」


「そんな事言わないで! あれは・・・あの水着は、守君が選んでくれた物なんだから!」


言い終わってハッとする千里。


「何ですって千里・・・貴方もしかして、守と水着を買いに行きましたの!?」


「だ・・・だってキャロルちゃんは、治療で放課後居なかったし・・・。いいじゃない別に・・・」


段々と下を向き小声になる千里。


「そんな言い訳ーーー熱っ!?」


千里の周りのお湯がボコボコと沸騰し始めていた。


「ちょっと千里!? 落ち着いて下さいまし!」


「熱いな・・・少し冷やすぞ」


今度は旋風側のお湯が凍り始めた。

間に座っているキャロルは、熱湯と氷水の間に挟まれる。


「氷雪会長!? 寒っ!? 熱っ!? あーもう! わたくしは先にがりますわ!」


キャロルは湯船から逃げるように上がり、更衣室に駆け込んだ。


「おーナイス千里。極楽極楽」


沙耶は温度が上昇したお湯に、肩までつかり温泉を満喫していた。


「クシュン! あーもう馬鹿千里・・・風邪ひいたらどうしてくれますの・・・」


女湯の暖簾をくぐるキャロル。


「おっ、キャロルお前も湯上りか? なんだ風邪ひいてんのか?」


守をキッと睨むキャロル。


「な・・・何だよ・・・」


「うるさいですわ! この変態!」


そう言って守の横をスタスタと早足で通り過ぎていった。


「変態!?」


(やっぱそうだよな・・・いくら櫻姫様とはいえ・・・女の子と一緒にお風呂に入るなんて・・・俺は変態だ!)


その場に膝を付き落ち込む守。


(でも・・・キャロルの湯上りの香り・・・いい匂いだったな・・・)


「どうしたんだ守。そんな所で膝ついて」


後から上がってきた大地が声をかける。


「いや・・・何でもない」


「まぁいいや、食事の用意が出来たら、メイドさんが部屋に迎えに来るった言ってたし、とりあえず部屋に戻ろうぜ」


「そうするか・・・」


部屋に戻った守は特にやる事も無いので、部屋にあったテレビをつけ適当に流し見をしていた。

そこへ、コンコンと部屋のドアをノックする音がする。


「どうぞ」


「失礼します。お食事の用意が出来ましたので、食堂へ案内致します」


「あっ、はいわかりました。ありがとうございます」


食堂まで案内され、中へ入ると、大きく高そうなテーブルにの上に豪華な食事が並んでおり、それを取り囲むように、皆がすでに座っていた。しかし、入ってきた守に、皆が憐れみのような同情のような視線を向けている。


「どうしたんだ皆? 俺に何かついてるか?」


「守様の席はこちらになります」


豪華な料理の乗ってあるテーブルの横を通り過ぎ、一番奥のキャロルのさらに後ろまで案内される。

そこには床に新聞紙が敷かれ、段ボールにある紙皿には小さなイワシ一匹乗っているだけだった。


「・・・えっ? キャロル・・・えっ?」


キャロルとイワシを交互に見る守。


「さっさと座って下さいまし、変態」


キャロルは守を睨みつける。

守は何も言い返す事が出来ず、しぶしぶ新聞紙の上に座る。


「では皆さま揃いましたので、どうぞ召し上がって下さいまし!」


「頂きます!」


「いやー美味しいなこの肉! 口の中でとろけちまうぜ!」


「ちょ・・・ちょっと大地君・・・可哀そうだよ・・・そうだ・・・私の分守君にーーー」


千里が自分の皿を持って立ち上がる。


「千里。食事の時は立ち上がってはいけませんわ」


キャロルの鋭い眼光が千里を睨む。


「ひっ・・・で・・・でも・・・」


「いいって! いいって! 仕方ないだろキャロル様を怒らせちまったんだから! な、変態守君?」


(砂浜で、千里の時裏切ったお返しだ!)


大地は目でそう訴える。


「くっ・・・大地てめぇ!」


千里のお腹が、グ~と音を立て、恥ずかしかったのか赤面する。


「千里・・・食ってくれ・・・俺の分まで!!!」


「うん・・・わかった・・・! もぐもぐ」


「ははは。君たちは本当に仲がいいなぁ。もぐもぐ」


「ごめんね、守お兄ちゃん・・・もぐもぐ」


「ドンマイ。もぐもぐ」


「クッ・・・バリバリもぐもぐ・・・苦い・・・」


食事も終わり各自、自分の部屋へと戻っていった。


「腹・・・減った・・・」


バタンとベッドに倒れこむ守。そこへコンコンと部屋をノックする音。


「どうぞ~」


「よっ! 腹減ってるか守」


開いた扉からキャロル以外のメンバーが部屋に入ってくる。


「減ってるに決まってんだろ!」


「ふふふ・・・そう思ってな、じゃーん!」


皆は一斉にお菓子を取り出した。


「来る時、電車で食べようと思って・・・持ってきてたんだけど・・・ほら食べられ無かったでしょう? 守君お腹すいてると思って・・・はい、クッキーあげるね」


「ありがとう千里・・・!」


「守お兄ちゃん、はいっ! 飴ちゃんあげるね!」


「楓ちゃんも・・・ありがとう!」


「俺は落花生やるぞ」


「私はバナナだ。少し潰れてしまっているがな」


「酢昆布」


「うぉおおお! 皆ありがとう!」


守は皆からお菓子や果物を受け取った。

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