第41話 南の島へ

翌朝、千里の家に迎えに行く守。


「おはよう守君」


「おはよう」


2人は並んで歩き出す。


「昨日眠れなくてちょっと寝不足なの。興奮しちゃって」


千里の目の下には少しクマが出来ていた。


「子供だな千里は。多分キャロルの事だから、しっかり修行すると思うから寝ないと持たないぞ?」


「だって・・・」


(夜、何回も水着を着てポーズを決めてたなんて言えないよ・・・)


部室に着くと既にキャロル、大地、沙耶、楓が集まっていた。


「遅いですわよ守と千里!」


キャロルは腰に手を当て激怒している。


「まだ5分前だろ」


「10分前行動が軍の基本ですわ!・・・所でなぜお2人は一緒に?」


「いいだろ別に」


ムッとした顔で2人を睨むキャロル。


「別に構いませんけど。それより氷雪会長がまだ来てませんわね・・・会長ともあろう方が遅刻など・・・」


すると遠くから1台のママチャリがこちらに近づいてきた。


「あれってもしかして・・・氷雪会長!?」


「・・・みたいですわね・・・」


ママチャリは一同の前に停止する。


「やぁ。おはよう」


旋風は片手を小さく挙げて挨拶をする。


『おはようございます』


「・・・氷雪会長。失礼ですが遅刻してますわ」


「あれ? 時間丁度だと思うけど」


「丁度は遅刻ですわ。以後気をつけてくださいまし」


「ごめん・・・」


旋風は少しシュンとしている。


「何か調子狂いますわね・・・。まずお互いの自己紹介を致しましょう。氷雪会長からお願いしますわ」


「私は 氷雪 旋風 一応生徒会長してる。えっと、君がこの武活の主将のキャロルさんだね。で、守君・大地君・千里さん・沙耶さん・そして楓ちゃんかな?」


「なぜ皆の名前を知ってますの?」


「決勝戦見てたから。物覚えはいいほうなの」


「そうですか。あと私たちに敬称は不要ですので呼び捨てになさってくださいまし」


「わかった。じゃあ私の事も旋風って呼んでいいよ」


「それは出来ませんわ。氷雪会長と呼ばせて頂きます」


「君たちがいいならそれで」


遠くの空の方からバタバタという音が聞こえてくる。


「っと・・・迎えが来たようですわね」


上空からヘリがゆっくりと降下してくる。


『ヘリ!?』


砂埃を巻き上げながらヘリは着陸した。


「さ、行きますわよ」


「お・・・おう」


次々と乗り込む一同。


「・・・どうしました大地。貴方で最後ですわよ」


「お・・・俺電車で行くよ・・・」


「島にどうやって電車でいけますの・・・まさか高所恐怖症とかではありませんよね?」


「高いのは平気だけど・・・飛ぶのが苦手なんだよ!」


「余も。そんなものが飛ぶなど信じられぬ」


「置いていきますわよ!」


見かねた沙耶がヘリから降りて、大地の元へ向かう。


「行こう大地」


「嫌だ!そんな物に乗る位なら・・・」


「水着、見たくないの?」


「・・・行ぐ。」


「大地様・・・」


大地は泣きながらヘリへ乗り込んだ。


「爺や! 皆乗り込みましたわ! 出発して下さいまし!」


「かしこまりまし姫様」


爺やと呼ばれた黒いサングラスをかけたパイロットが、こっちを向いて親指を立てる。

ヘリは再び砂埃を巻き上げ空へと飛び立つ。


「やっば、降りるぅううう!」


泣きながら沙耶にしがみつく大地。

抱きつかれた沙耶は少し嬉しそうな顔をしているようだった。

30分ほど飛行した後、海上に現れた孤島へとヘリは着陸し、ヘリを降りたキャロルを、大勢のメイドが出迎える。大地は降りるや否や、一目散に海の方へ走り去った。


『お帰りなさいませ、キャロル御嬢様』


「皆様、通達していた通り、本日より1週間お世話になりますわ。よろしくお願い致します」


一同も同じく挨拶をする。


「訓練は明日から行います。本日は遊泳を致しますので、着替え終わったら先ほどの砂浜に集合してくださいまし。さ、部屋に案内してください」


「ではこちらへ」


各自用意された部屋に案内され、守も部屋に荷物を置く。


「しかし広い屋敷だな~・・・この部屋、俺の家より広いんじゃないのか?・・・っと、着替えて砂浜に集合だったな・・・」


砂浜に着く守。砂浜では大地が既に着替え終わって準備体操を行っていた。


「よう守、早かったな」


「お前早すぎるだろ、もしかして、ここで着替えたのか?」


「おう! しばらく吐いてたから出遅れちまって、それより楽しみだな」


「確かに貸切ビーチで泳ぐなんて・・・」


「違ぇよ、水着だよ!」


「ああ、そっちか・・・確かに楽しみだな」


「点数つけようぜ。5点満点で現れたら指を立てて点数を出す。どうだ?」


「いいぜ。おっ、まずは沙耶か」


歩いて来る沙耶に、大地は指5本、守は指3本を立てる。


「悪いな大地」


「甘いな守・・・良く見てみろ・・・あの水着は子供用だ! しかも新品と見た」


「だからどうした?」


「分かって無ぇな・・・、高校生が小学生の水着着てるんだぞ!? つまり・・・社会人が高校生の制服着てるのと一緒だろ!? エロいだろ!?」


「何言ってんだお前」


「大地様。余も本来は大人、しかし今は子供の姿・・・つまり私も同じようにエロいという事でございますね!」


「何言ってんだお前」


「大地様!?」


そうこうしているうちに、沙耶が到着する。


「何話してるの?」


『いえ、何も』


「見てみろ大地、次は千里だぞ」


「おい守! あいつ・・・走って来てやがるぞ!」


「いかん・・・揺れている! こぼれる! こぼれる!」


大地と守は共に5本の指を立て、そのままハイタッチをする。


『文句なし!満点!』


「満点? 大地、何の話?」


沙耶は大地を睨む。


「心配すんな! 沙耶も満点だぞ!」


「ならいい」


「お待たせ~! って・・・2人とも何でうつ伏せになってるの?」


『背中焼いてんだよ』


「・・・?」


続いて楓が走って来る。

守と大地は親指を立てる。


『可愛い。満点』


「ご・・・ごめんなさい・・・遅くなりました!」


肩で息をする楓。


「大丈夫だよ。まだキャロルちゃんも来てないし」


「良かったです・・・。!?」


頭を上げた楓の目の前に、千里の胸が飛び込んできた。


「お・・・大人!」


「どうしたの?」


「い・・・いえ・・・」


(私も大きくなったら千里さんのように大きくなるかな・・・?)


楓の視界に沙耶が入る。


(沙耶さん・・・無い!? 同じ高校生・・・私はどっち!?)


楓の希望と絶望が入り混じる中、遠くからキャロルが歩いて来る。

うつ伏せになったまま大地が小さな声で話しかけてくる。


「いよいよキャロルだぞ」


「お・・・おう」


守は何故だか無性にドキドキしてくる。


(あいつどんな水着、着てくるんだろうな・・・)


近づいて来るキャロル。


「おい・・・待て、あれはもしかして・・・!」


「!?・・・ああ」


『競泳水着だああああ!』


守と大地は立ち上がり、歩いて来たキャロルを指差す。


「やい! キャロル! 競泳水着とはどういう了見だ!? 海いっていったらこういうのだろ!?」


大地は先に来ていた女性陣を指差す。


「何言ってますの? この水着が一番、泳ぎの効率がいいように計算されてますのよ? そのような水着こそ邪道ですわ!ね、守?」


「ええっ!? いや・・・俺も普通こっちだと思うけど」


「何ですって!? 貴方まで、そんな露出さえあればいいよう、なはしたない水着の方がいいと!?」


「そういう訳じゃねぇよ! 一般的にだ!」


「この・・・変態共!」



「どうした・・・何か揉めているのか?」


いつの間にか到着していた旋風が心配そうに声をかける。

その姿はキャロルと同じく競泳水着だった。


「氷雪会長・・・どうやらこういう場に競泳水着というのはマナー違反だそうですので、着替えてまいりましょう」


「そうか・・・折角キャロルに貸してもらったのに残念だ」


そう言いながら、少しサイズが小さいのか、胸とお尻に食い込んだ水着を元に正す。


「守・・・」


「ああ・・・」


『競泳水着最高!』


「はぁ!? どういう事ですの!? とにかく着替えてーーー」


「会長はそのままでお願いします!」


頭を下げる大地。


「君たちがいいならこのままで、着替えるのも面倒だし」


「ありがとうーーーーグホッ」


キャロルと沙耶の蹴りが大地に炸裂し、大地は砂浜に沈んだ。


「大地!? ハッ!?」


「守~・・・! 貴方も同罪ですわ!」


「に・・・逃げーーー!?」


逃げようとする守を、千里が後ろから押さえ込む。


「ち・・・千里!?」


「キャロルちゃ~ん」


「では、遠慮無く」


キャロルの左ストレートが炸裂し守も同じく砂浜に沈んむ。


「おー。君たちは本当に仲がいいんだね。羨ましいな」


旋風は小さく拍手をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る