第40話 許可取り

家へ帰り着く守。


リビングでは守の母と優香が、食後のコーヒーを飲んでいた。

荷物を降ろし。守も椅子に座る。


「お帰りなさい。今日優勝したそうね? おめでとう」


優しく微笑む母。


「・・・うん。でも俺・・・」


「優香から聞いたわよ。よく抑えましたね。偉い偉い」


そう言いながら守の頭を優しく撫でる。


「や・・・やめろよ! もう子供じゃないんだから」


その手を優しく払いのけながら赤面する。


「それより守! 貴方帰ってくるのがえらく遅かったけど・・・、キャロルさんと何か深いお話でもしてたのかしら? それとも・・・」


「ち・・・ちげぇよ! ・・・あ、そうそう。そういや、長期外泊の許可が欲しいんだけど。いいかな?母さん」


「うーん。私はいいと思うんだけど・・・。そうね、神代さんに相談してみるわ。でも多分、誰かと一緒じゃないと許可が下りないと思うわよ? 所でどんな用件なの?」


「その・・・友達と修行するんだよ」


「ちょっと待って守! その友達って・・・まさかキャロルさん!?」


「そうだよ」


優香はテーブルに手を付き、勢い良く立ち上がる。


「ダメダメ! 母さん! ダメ! ゼッタイ!」


「あら? どうして? お母さんは守にはお友達と仲良くしてほしいわよ? こんな事言って来るのも初めてだし、なにより普通に生活させてやりたいじゃない。守くらいの年頃ならお友達と旅行や外泊なんて当たり前でしょう?」


「そ・・・それはそうだけど・・・。ねぇ守・・・もしかして2人で行くの・・・?」


「いや、メイドさんとか執事さんとかが居るとは言ってたから、2人じゃないぞ?」


「なら大丈夫ね。母さんは許可します。 ただし明日、神代さんの許可が頂けたらね? 今日神代さんにメール送っておくわ。明日呼び出されると思うから」


「ありがとう母さん!」


「か・・・母さ~ん・・・」


ガクリと肩を落とし、うなだれる優香。


守は自分の鞄を持って2階の自分の部屋に早足で駆け上がって行った。


「ふふ。私の生きている間に孫の顔が見れるかもしれないわね」


「じょ・・・冗談でしょう母さん!?」


「予言の日は迫っているのよ。明るい未来の話をする方が楽しいじゃない?」


「そうだけど・・・守は私の・・・私だけの守なんだから・・・」


「母さんに初孫の顔を見せてくれるのは、どちらが先かしらね?」


「私よ!・・・あっ! 違っ! そういう事じゃないの! もうっ母さんの意地悪!」


母は優しく微笑んだ。



次の日普段通り登校する守。

普段と違うのは守に向けられる周囲の視線だった。

守を避けて通る者もいれば、遠くからひそひそと噂をする者も居た。

だが、中には追い越し際に背中をポンと叩き「優勝おめでとう」とか「見直した」とか声を掛けてくれる者もちらほら居た事が、守にはとても嬉しかった。


校門までたどり着くと、生徒会長の旋風が声掛けてきた。


「あ、君。神代校長が呼んでたぞ。校長室へ行きなさい」


「おはようございます。分かりました。ありがとうございます」


一礼して校長室へ向かおうとする守。


「そういえば君、優勝したんだね。おめでとう。」


「え? ああ・・・ありがとうございます。」


「あと・・・、まぁいいや、神代校長にどうせ聞くだろうし。じゃ、又」


「・・・? 失礼します」


校長室をノックし入る守。


「失礼します」


そこにはキャロルが先に誠と話をしていた。

しかしなぜか、浮かな顔をしている。


「ほっほっほ。話は聞いたぞ。良い。外泊を許可しよう」


「いいんですか!?」


「しかし、先ほどキャロル君にも話したように、やはり、もしもの事を考えて監視をつけねばならん。しかし、学生が夏休み中は、教師達は警護やそれぞれの訓練に勤しまねばならぬ故忙しいのじゃ。そこで、生徒会長の 氷雪 旋風 君に同行させようと思っておる」


「氷雪会長がですか!?」


「彼女の了解は取ってある。それと、折角の修行なので、武活の皆と楓君も連れて行ってもらえんかと、今キャロル君に頼んでいる所じゃ」


「部活の皆はともかく・・・楓ちゃんもですか?」


「両親の脚の経過が思わしく無くてのう。もしかしたらもう2度と歩けぬかもしれぬ。となると楓君があの年で両親の介護をせねばならぬ。両親はそれを危惧し、楓君を一時的にでは無く正式にワシの孤児院に入院する事になったのじゃ」


「そんな事になってたんですか・・・俺がもっと早く助けていれば・・・クソッ!」


守は拳を握る。


「そう気に病むで無い。両親も楓君もお主に感謝しておったぞ。そしてお主になら楓を預けても良いとも言っておった。信頼に足る人物だと。そこでじゃ、楓君の懐いているEチームの皆と息抜きも兼ねて連れていっては貰えぬじゃろうか?」


「・・・俺は構わないけど・・・。キャロルお前はどうなんだ?」


キャロルは頭を抱えている。


「こんなはずでは・・・」


「どうした?」


「いえ、何でもありませんわよ!」


「何怒ってんだよお前・・・」


「ええ・・・いいですわよ。こうなったら本気でしごいて差し上げますわ!」


「ほっほっほ。流石はキャロル君じゃ。では頼むぞい。じゃが折角の夏休みじゃ存分に楽しんでくるが良い」


ー教室ー


「・・・と言う訳ですわ。皆様はいかがいたしますの?」


「俺は行く! 青い海、白い雲・・・そして水着美女!」


「大地様・・・水着とはどのような物でございますか?」


「えっと・・・泳ぐための着物で・・・フンドシとサラシ? 薄い布で・・・」


「大地、何か違うぞそれ」


「えっと・・・大地様のベッドの下にある、あの破廉恥な書物のような格好ーーー」


「おい! やめろ! 恥ずかしいだろ!」


「失礼しました! 皆の者! 大地様は決してそのような書物を読んだり、山のように持ってたりせぬであるぞ! 余が保証する!」


「やめてくれぇえええ!」


「最低ですわね・・・」


「大地君はそんな本ばっかり読んでるんだね・・・」


「ちがっ!」


守と太が優しく大地の肩を叩き、首を横に振る。


「最低だなお前」


「守!?」


「ドスコイ」


「太!? この・・・裏切り者ーーー!」


大地は教室を飛び出し走り去る。


「大地様!?」


追いかけようとする櫻姫を沙耶が引き止め、皆に聞こえないように耳打ちをする。


「どうした沙耶」


「・・・胸が小さい子の本もあった?」


「だから大地様は持ってないと言っておろう」


「お願い」


「・・・あったぞ。妹ものが、大地様には言うで無いぞ。お主は大地様のお気に入りみたいであるから、特別に教えただけであるぞ」


そう言って櫻姫は立ち去った。


「キャロル。私も修行に行く。・・・水着で」


「水着・・・? まぁいいですわ、とにかく参加ですわね。ほかの方々は?」


「わ・・・私も参加で・・・お願いしようかな」


「おっ! 千里も参加か~!太はどうする?」


「ドスコイ」


「太君は・・・無手術部の活動があるから行けないって言ってるよ」


「そうか・・・太は、そもそも無手術部から一時的に来てくれてるだけだったな・・・でも、もうお前はEチームの正式メンバーだからいつでも放課後来てくれよな」


「太。本当に感謝致しますわ。優勝出来たのも貴方のお陰ですわ」


「太くん。ありがとね。またいつでも部室来てね? ロッカー・・・ちゃんと、そのままにしておくからね。」


「感謝」


「ドスコイ」


「では参加者は決定致しましたわ。明日、朝8時、部室前に集合してくださいまし」


『了解!』


クラスの違う沙耶と太はそれぞれのクラスへ戻った。

ガラッと扉を開け優香が教室へ入って来る。


「皆さん朝礼を始めますよ。それと、キャロルさんと守君は前へ。階級の特進により特A級になりましたので。階級章を贈呈致します」


2名は起立し優香の前に立つ。

優香より胸に軍曹の階級章が授与された。

クラスの皆からパチパチと拍手が巻き起こり、階級章を受け取った2人は再び席に着く。


「では、本日は終業式だけですので、今から体育館へ移動して下さい」


終業式も終わり、下校する守。


「ま・・・守君!」


校門で千里に呼び止められる守。


「お、千里か、どうした?」


「あ・・・あの・・・。よかったら今からその・・・水着選ぶの付き合ってくれないかな・・・?」


「そういえば俺も買わないと無かったな。いいよ、一緒買いに行こうぜ」


「やった! ありがとう守君」


地元にある大型のショッピングモールに到着する守と千里。

その一角にあるスポーツ用品店に入店する。


「すげぇ品揃えだな。正直水着ならなんでもいいんだが・・・千里はどれがいいと思う?」


「えっ!? うーん・・・これなんかどうかな?」


そう言って商品の中から1つの水着を取り出す。

水着には漢字で『龍』の文字がプリントされていた。

その文字を見た千里は慌てて元の棚に戻そうとする。


「あっ。ご・・・ごめんなさい・・・」


「いいじゃんそれで」


「えっ」


戻そうとする千里の手を掴み水着を受け取る。


「じゃ、着てみるわ」


試着室に向かう守。


「守君・・・」


すこしして着替え終わった守が試着室から出てくる。


「どうだ千里! 似合ってるか!?」


守の胸辺りと左腕の大きな傷跡を見て少し固まる千里。

だが、何事も無かったかのように続ける。


「に・・・似合ってる・・・けど・・・」


「けど?」


「上まで脱がなくても・・・いいんじゃないかな・・・」


千里は顔を真っ赤に染めている。


「ああ、すまん!」


再び試着室に入り着替えなおした。


「俺、これにするわ!」


「うん。似合ってた」


「後は千里のだな」


「守君はどれがいいと思う?」


「え? うーん・・・。これなんかどうだ?」


守はピンクの水着を手に取る。


(あぅ・・・露出度高いよう・・・でも守君が言うなら・・・)


「大人っぽいね。私に似合うかな? 着てみるね」


「え? 着るの?」


「試着しないと大きさとか分からないでしょ・・・? じゃあ、着てみるね」


「お・・おう」


千里も試着室へ向かう。

着替え終わった千里が試着室から出てくる。

ほどよい肉付きの体に加え、豊満な胸を水着が包み込んでいる。


「ど・・・どうかな}


守は赤面し言葉を失っている。


「守君? 似合ってないかな?」


「に・・・似合ってるから早く元の制服に着替えてくれ!」


「ええ!?」


守は試着室のカーテンを閉める。


(・・・今まであまり意識した事なかったけど・・・千里ってやっぱ可愛いよな・・・)


千里が着替え終わって中から出てくる。


「私、この水着にするね」


「・・・他の見なくていいのか・・?」


「うん」


会計を済まし家路につく2人。

守は千里を家まで送り届ける。


「今日はありがとね守君」


「いいって、俺も水着買えたし」


「それじゃあ又明日ね」


「おう」


「あ、守君。もしよかったら明日朝一緒に行かない? 私迎え行くよ」


「いいけど、俺が迎えに行くよ、そっちの方が早いだろ?」


「分かった。ありがとう。じゃあ又明日ね」


「又な」


千里は守の背中が見えなくなるまで見送った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る