第15話 別れ

「昼食の時まで付きまとわないでいいただけます?」


屋上でいつもの4人は弁当を食べている。


「まぁそう言うなって」


「知り合いと思われると困りますわ」


キャロルはパンを小さい口で、よく噛みながらもくもくと食べている。


「俺らもう友達だろ?」


ーーーーッブ!


守のひと言にゲホゲホと咳き込むキャロル。


「ととと友達ーー!? ゲホッゲホッ何をバカなーーーゲホッ」


慌てて牛乳でパンを流し込むキャロル。


「こんだけ一緒にいたら友達だろ? そうだよな千里」


大地は千里を見る。


「うん。キャロルちゃんはどう思ってるのか分からないけど私達は友達だと思ってるよ」


「わたくしに友達なんて居な・・・必要ありませんわ! 今は神代校長の命令で一緒にいるだけで勘違いしないでくださいまし!」


「お前には必要ないかもだけど、俺らにはお前が必要だぞ?」


守の言葉に、キャロルは顔が見えないように後ろを向ながら残ったパンをもくもく食べ続けた。


「ま・・・放課後の指導も今日で最後ですから・・・・ほんとせいせいしますわ」


「その事なんだけどよ、明日土曜で学校は休みだろ? お前には世話になったから、4人で町に遊びに行かないかなと思ってるんだがどうだ?」


「バカですの? 遊びに行く暇があるんなら修練に励むべきですわ。私も暇じゃなくってよ」


キャロルは守を睨む。


「私おすすめのケーキ屋さんがあるの。キャロルちゃんあまり外食した事無いって言ってたから・・・」


「ケーキなんて剣に頼めばいつでも・・・」


そこまで言いかけて、そういえば最近ケーキを食べて無かった事を思い出す。それに剣の買ってくるケーキはいつもチェーン店の物で至って普通のケーキなのだ。そう思うと無性にケーキが食べたくなってしまった。


「・・・美味しくなかったら覚えてなさい」


「と・・・いう事は来てくれるのか!?」


「食べたらすぐ帰りますわよ」


「よっしゃ!それじゃあ、明日10時にお前の家に3人で向かえ行くから待ってろよな!」


キャロル以外の3人はハイタッチを交わす。


「フンッ・・・」


次の日・・・


キャロルの家の前に立つ守。


「早く来すぎちまったな・・・」


「おーい守~!」


大きな荷物を背負った大地が走って近づいてくる。


「おお大地!よく場所分かったな」


「30分前についてこの周りぐるぐる回ってた・・・」


「俺も初めての時は同じ事やったぞ」


「守くーん! 大地くーん!」


向こうの方から千里が走ってやってくる。


「揺れてるな・・・大地」


「ああ・・・揺れてるな・・・守」


「おまたせ~・・・ってどうしたの2人とも」


「い・・・いやなんでも・・・って、へ~千里私服はそんな可愛いの着るんだな」


可愛らしいデザインの中に少し大人っぽさのある洋服が良く似合っている。


「か・・・かわいいって・・・」


千里は顔を赤くし、恥ずかしそうにもじもじしている。


「キャロルはまだかーーー」


守が言いかけた時、真横にふわりと白いものが降りてきた。


所々にフリルの施された純白の衣服に、白い日傘をさしたキャロルがそこに立っていた。

神々しささえ感じる、いつもとは違うそのい出たちに3人はみとれてしまった。


「な・・・何みてますの。さっさといきますわよ」


守達を一瞥しスタスタと歩き出す。


「キャ・・・キャロル・・・」


「何ですの?置いていきますわよ」


「方向・・・逆なんだけど」


キャロルの顔がみるみる赤くなる。


「分かってますわよ!!!」


キャロルはすれ違い様に守に一蹴り入れ、早足で駅へ歩き出した。


改札口にカードをかざしを通り抜ける守達。しかし、ふと後ろを見るとキャロルが改札口に引っかかっている。


「何やってんだキャロル」


「このゲート壊れてますわ! ちゃんとカードをかざしたのに開きませんの。 残高切れはあり得ませんわ!」


「見せてみろ・・・ってお前それクレジットカードじゃないのか?」


「そうですわよ」


「キャロル・・・電車乗った事無いのか?」


「い・・・移動は専属の運転手がいますので必要ありませんの!」


「と・・・とにかく・・・これで券売機で切符買ってこいよ」


そういって守は小銭をキャロルに渡す。

小銭を受け取ったキャロルは券売機まで歩いて行き券売機とにらめっこを始めた。

しばらく見つめたのち怒ったように、出口に向かって歩き出し始めた。


「おいキャロル! 買い方分からないからって帰ろうとするな!」


「うるさいですわ! 運転手に送って貰いますので先に行ってくださいまし!」


「めんどくせぇなおい!」


無事にキャロルを連れ戻し電車に乗せる事に成功した一同は、目的のケーキ屋の最寄り駅に降り立った。


「まったく・・・なんでこんな窮屈な乗り物にみんな乗りたがるのかしら」


「みんな好きで乗ってるんじゃないんだよ」


「理解できませんわ。電車が嫌なら運転手を雇えばいいじゃない」


「お前なぁ・・・」


守はため息をつく。


「ところで千里、目的のケーキ屋は何処だっけ?」


「もうすぐだよ。ほらあそこに見えてきたあれだよ! 中で食べられるようになってるから、そこでみんなで食べよう?」


千里は少し先にある店を指差す。

間もなくケーキ屋に到着し、中へと入る。店内は甘い香りに包まれていた。ショーケースには色とりどりのケーキが並んでいる。それを見たキャロルは目を輝かせていた。


「どうかなキャロルちゃん。ここのケーキは見た目にもこだわっているんだよ。わたしのおすすめはこの・・・チョコレートケーキ」


「ではそれを頂きますわ」


それじゃあチョコレートケーキ2つと・・・守君と大地君は何にする?」


「俺はこのハンバーガーみたいなのにしようかな」


「・・・大地君はマカロンね」


「それじゃ・・・俺はこの果物が一杯のってるやつにしようかな。あ・・・あと持ち帰りでそのモンブランを2つ。折角だから優香姉と母さんにも買って帰ろうっと」


「では支払いはこれで」


キャロルがクレジットカードを店員に渡そうとするが、守が止める。


「お前は払わなくていいんだよ」


「どうしてですの? この程度のお金私が払えないと思いまして?」


「お前へのお礼なんだから、お前はお金出さなくていいんだよ。そういうもんなの」


「貧乏人のくせに見栄を張りますのね」


「ま・・・まぁまぁそういう事だから早く席に着こうぜ」


大地はキャロルの肩を押して席まで誘導する。


4人は席に座りケーキを待つ。しばらくすると店員が紅茶とケーキを運んで来てくれた。

それぞれに注文したケーキが順次配られ。最後に配られたキャロルのケーキには小さなプレートが乗っており、そこには『Thank you』とチョコレートで書かれていた。それを見たキャロルは目を丸くしている。


「色々あったけど、今じゃ感謝してるよ」


「ま・・・そいうこったサンキューな」


「ありがとうねキャロルちゃん」


3人は感謝の言葉を口にする。


「フンッ」


キャロルは紅茶を口に運ぶ。その口元はほんの少しだが、確かに微笑んでいた。


「おっ! キャロルがついに笑ったぜ! なぁ2人共」


「ああ・・・今笑ってたな」


「もう! 2人共! キャロルちゃん怒っちゃうよ」


千里の心配をよそにキャロルは言う。


「さ、紅茶が冷めてしまいますわ。頂きましょう」


キャロルはケーキを一口食べる。

いつものケーキとは明らかに違う豊かな味。


「・・・おいしいですわ」


「本当!? 良かった!」


千里は子供のように喜ぶ。


「本当だ、美味しい」


「うめぇなこのハンバーガーっぽいやつ」


4人はあっという間に平らげてしまった。


「キャロル、そのプレート食べないのか? 一応食べられるんだぞそれ」


「こ・・・これまで食べてしまうとカロリーオーバーですわ!」


キャロルは店員を呼び一番小さな箱を貰いそのプレートをしまいこんだ。


ケーキ屋を出ようとしたその時ーー

激しく地面が揺れ爆発音が辺りに響き渡る。

4人は慌てて外に駆け出す。

そこには今しがたゲートから出てきたであろうドラゴンが、車を数台踏み潰していた。車からは黒煙が立ち上っている。


「ここにゲートは無かったはずですわ!? まさか・・・イレギュラー!? こんな街中に・・・クラス3戦龍型! 皆さん戦闘体制を取ってくださいまし!」


キャロルは太ももに隠し持っていた2丁の拳銃を抜き構える。

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