第16話 初戦

キャロルは太腿から、丸い小指の爪程度のボールを取り出し、地面に叩き付ける。

ボールは破裂し小さな機械のような物が地面に張り付いた。


「おいキャロル何だよそれ!」


「エマージーシークラッカー。軍曹階級以上の者に与えられる緊急招集用のクラッカーボールですわ。この張り付いた機械には本人の名前や階級などの情報が記録されていますの。そしてこちらがその情報を見ることが出来る上に、会話も出来るディスプレイ搭載型インカムですわ」


キャロルはインカムを装着する。


「現在この周囲で軍曹級以上で使えそうな戦力は・・・狗神ペア! 彼らが近くにいますわ、通話を・・・こちら大久保 キャロル 応答願いますわ」


『おお! キャロル居たのか! お前今懲罰階級じゃなかったのか? エマージーシークラッカーの使用は軍規違反だぞ』


「今はそんな事どうでもいいですわ。こっちに集合して下さいまし」


『何で私達がそっちに行かなくちゃ行けないのよ! アンタがこっちに来なさいよ! おい、やめろコロ! わかったそっちに行く・・・あっこら! 噛み付くな! いてて』


「お願いしますわ」


20秒ほどで狗神ペアが到着する。


「流石、お早いですわね」


「んで・・・キャロル、俺らは何すればいいんだ?」


「ちょっと仁! こっちが上官なのに何下手に出てるのよ! 情けないわね!」


「そう言うな。キャロルが戦略に長けてるのは中学の頃からお前も良く知っているだろ」


「3人は知り合いなのか?」


「ただの中学の同級生ですわよ守。今はそんな事どうでもいいですわ。狗神ペアは2手に分かれて、かく乱をお願い致します。私達の使命は上官が到着するまでの時間稼ぎと避難誘導、けが人などの救助ですわ」


「私はあんたの命令なんて聞かないからね! こっちが上官だし」


「貴方・・・確か肉が好物でしたわよね? 今回言う事聞いてくれましたら好きなだけご馳走致しますわ」


「え!? 本当か!? おいじん行くぞ!」


「お前本当に食べ物に弱いな・・・」


「うるさいわね! ほら行くわよ!」


「攻撃は必要な時以外極力避けて下さいまし! ハエのようなイメージでお願いしますわ!」


『ハエって言うな!』


2人は大きな犬の獣に変身し前線へと立つ。


「前線が圧倒的に足りませんわ。もう少し戦力が欲しいところですわね・・・。とにかく、今はこの戦力で何とかするしかありませんわ! 大地はライフルとスーツを持ってきてますわよね?」


「持ってきてるぞ」


「今から狙撃出来そうなビルへと運びますので、敵の目を狙って狙撃をお願い致しますわ。千里は今回はわたくしに魔力の供給をお願い致しますわ」


「俺は前線で戦闘すればいいんだな」


守はガントレットを装着し拳を鳴らす。


「・・・守は今回人命救助をお願い致しますわ。練習したとおり身体能力を上昇させて瓦礫などの下敷きになった人の救助をお願い致します」


「俺だって戦える! そのために今まで練習してきたんだ! 戦わないと意味ねぇだろ!」


「はっきり言いますわ。今回貴方の実力は不安定で当てになりませんわ。正直足手まといですの」


「何だと・・・!」


「今言い争っている時間はありませんの、貴方の気持ちは分かりますわ。でも・・・戦って救う1人の命と、貴方が瓦礫から救う1人の命は同じですわ。この事を肝に銘じておいてくださいまし。これ以上の説明が必要なほど貴方はバカでは無いでしょう。それに《《今回》》は。ですわ」


「・・・分かったよ」


「がっはっは! 焦るな少年よ! 先は長いんだ」


後ろから大声と共に大柄の作業員姿の男が現れ、守の背中をバシバシと叩く。


「だ・・・誰だよあんた!」


「見たところ特戦校の学生さんだな? 俺もそこの卒業生で 有馬ありま 鉄延てつのぶってんだ。今は建設現場で働いているんだが・・・こういう緊急時のために、このレプリカコアが一般企業の所持が認められてるんだろ」


鉄延はレプリカコアを見せる。


「有馬さん戦闘経験はありますの?」


「学生時代は落ちこぼれだったがクラス2相手に10回出撃してこの通りピンピンしてるぜ。戦闘経験のない部下や同僚達には、他のレプリカコア持ちと協力して救助や非難誘導してもらう」


「わかりました。前線に加わってくださいまし。くれぐれも死なないようにお願いしますわ」


「おうよ! 聞いたか野郎共! 行くぞオラァ!」


後ろに居た作業員の男衆が気合を入れ、それぞれの作業を始めると同時に鉄延も前線に向かう。


「では行きますわよ、大地・千里。そして守・・・1人でも多く救ってくださいまし」


そういい残し、キャロルは2人を抱えビルへと駆け上って行った。ドラゴンと同じぐらいのビルの屋上に飛び乗り大地を降ろす。


「ライフルを組み立てて、先ほど行ったとおり目を狙って下さいまし。あと必ずスーツを着るんですのよ」


「このマスクもやっぱつけなきゃだめか?」


「当たり前ですわ! では千里、私達は別のビルへ向かいますわ」


千里の首根っこを掴み、別のビルへ飛び移るキャロル。


「キャロルちゃん怖いぃ~! 目が回る~・・・」


ビルに飛び乗りキャロルは銃を構える。


「千里、背中に手を」


「・・・はいぃ~~・・」


『コロ・仁・有馬さん聞こえますか?』


『頭の中に直接話しかけてくるな! 気が散るだろ』


『おー聞こえてるぞー』


『へぇ・・・心伝術か今の学生さんは進んでんなぁ!おじさんの頃は高等技術だったぞ。もちろん俺は使えねぇけどな! はっはっは!』


『私が上から状況を把握し、必要なら銃で援護を行います』


キャロルは銃を放つ。放たれた弾はコロに振り下ろされた前足の軌道をわずかに逸した。


『コロ。油断しすぎですわよ』


『お前がうるさいからだ!』


『コロ・・・落ち着け波長が乱れるだろ』


『そのままなるべくその場に敵をとどめて下さいまし。時間を稼ぎますわ! ちょっと大地! 全然当たってませんわよ! 集中して下さいまし!』


『動いてると難しいんだよ!』



(最低でも15分以内に大尉以上クラスが駆けつける事が出来るように配置されているはずですわ。出現よりすでに5分・・・あと10分耐えられれば・・・)


キャロルは時計を見つつ銃を放つ。

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