第8話

 人の密度は、固体のように厚く、揺れたり離れたりして生まれる、人と人とのわずかな隙間に体を押し込めた。何度も繰り返して前を行く。ときたま紫の断片が視線の先に浮いて、なぜかはわからないけど、それがあんまり、あんまりにも、やはりイデアのように思われて、体が吸い寄せられた。羽のように軽い体。

    

   誘われる気持ちは、初めてではない。

 生きているのが自分だけに思える。周りは何も、何もない、朝も春もない、何も感じ取れない無機物で、この魂だけが、うつくしく、完璧なものをもとめている、無心で、無心で、無心。

 房にかかる大ぶりの葉のように、てらてら光を反射した胴体は、下降しては頭上に、止まっては動いて、その度、尾は高い空に浮かんだ雲らしく、絶えず形を変えた。追えば追うほど、人の流れが減っていき、熱帯魚の泳ぐスピードも緩やかになったので、人にもまれた私は荒れた呼吸を整えて、ぽつぽつ歩いた。背中にじんわり、汗がにじんでいる。

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