第5話

その日は新月だった。

 毎日の準備が終わったあと、手を繋いで家を出た。あたしもあいつにも変わったところは何もない。右手と左手の境界線も、くっきりして、繋いだ両手は少しも振られず、だらんと垂れ下がり、人工の感じがした。湿度の高い夏の夜で、手のひらの汗を恥じた。

 風がなく、ただ蒸し暑かった。昼のうちに降った雨のせいで、大きな水たまりがいくつもあった。踏まないよう、二人でそろそろと歩いた。

 あたしはいつもの通り、あの河川敷で川の流れを見つめていた。特に何も、何もなかった。昨日一昨日と比べ、水かさが増えただけだ。だから、だから、こんなに川面が穏やかに、樹脂のスケートリンクのような均等に見えるだけだ。不安になっちゃいけない。

 じっと川面を見つめていたら、細かく、なるべく正方形になるように手でちぎった画用紙のような光が、2,3、浮かび上がってきた。あたしはその光の色を知っていた。耳をそばにやっても、何の音も拾えない。光は泡のように浮かんでは消え、消えては浮かびを繰り返している。その光に触れてみたくなって、右手を浸したとき、

あいつがあたしの左腕を掴んだ。振り向けなかった。

「えっ。」

体が振り子のように揺れて、あたしたちは川底に引きずり込まれた。

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