第15話 生徒会
一般受験で合格した幸運な二十四名は、最初の一年間は全員が同じクラスだ。いきなり貴族と同じ教室に入れるのは酷だろうという学校側の配慮だけれど、今年はそのうち過半数の十三名が同じ孤児院出身なのは予定外だろう。
二年になる時にクラス替えがあり、今度は貴族のご令嬢とご一緒だ。
それまでに、貴族の礼儀作法を身につける必要があり、そのための授業ももちろんあった。
魔法少女である十三名は、もとより全員が仲良しというわけではない。四つのグループに分かれていたこともあるし、性格的に合わない人も居た。
仕方ないよ、人間だもの。
一般クラスの教室内で、明らかに浮いている奴が居る。
アキは持ち前の器量の良さに加えて、言動がお嬢様ぶっているから、近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。同じグループのトウコとコウコとは今まで通り、積極的に会話はしていたし、リアも時々絡んで居たから、教室内で孤立してるようはなかったけれど、積極的に溶け込む気もなさそうだった。
もとより、孤児院でも友達は少なかった。
「さて行きますわよ」
まあそうなるか。
放課後アキが声をかけてきた。本日は、課外活動の見学日である。
生徒会も数ある部活の中の一つになっている。掛け持ちも可能だけれど、そこまでする物好きはあまり居ないようだ。アキとしては、生徒会に入るのは決定事項だろうけれど、特別に思い入れはないから困ってしまう。
けれど一つだけ気なっていることがあった。
だから、アキの誘いに乗ることにした。
生徒室は三階にあった。
一番奥の部屋で、場違いとも言える立派な木目調の扉がついている。生徒会室と書かれたプレートもなにげに豪華だ。さすがお嬢様学校だけあると感心した。
「失礼します」
扉を開けて中に入ると、正面にこれまた豪華な机があった。書斎にあるような大きくて高級感あふれる机である。
そこに座っているのはとても可愛らしい少女だった。
「いらっしゃい。入会希望者かしら」
一番偉そうな場所に、偉そうに座っているのだから、この少女が生徒会長に違いない。他には誰もいないから、多分そうだ。
「ようこそ生徒会へ。私は会長の伊集院蘭と申します」
目の前にいるのは上級生ではなく一年生だ。
生徒会長は選挙で選ばれる。
そして、進学前に立候補して大差で勝利したのがこの少女だった。アキにも負けず劣らず美少女だ。いや、会長のほうが美しい。
アキごめんよ、君の負けだ。
「まだ、他の役員は決まってないのよ。あなた達が一番のりね」
気になっていた事とは、この会長のについてである。
伊集院家は下級貴族ではあるが、古い家柄ではない。いわゆる実績を買われて爵位をもらった新興貴族だ。
初代当主は伊集院怜子という。
孤児院の図書館で見かけた論文の作者だった。
頭脳の明晰さを受け継いでいるとは限らないけれど、その娘が一年生で生徒会長に選ばれるぐらい優秀であるならば、その片鱗ぐらいはあるだろう。
あの論文数年前に読破したけれど、なかなかすごかった。興味のある分野ではなかったから、論文そのものはどうでも良かった。ただ、そこから読み取れる、伊集院玲子と言う人間にとても興味を惹かれたのだ。
だから、今目の前にいる生徒会長も気になった。
できれば、お近づきになりたかった。
「あら、あなた達、一般クラスの一年生でしょう。それなのに生徒会には入ろうだなんてねぇ。まあ、私が会長になったから、上級生は遠慮するし、同級生は萎縮するしで、人でが足りないから、別に構わないのだけれど」
制服は一緒だけど、襟についているクラス章を見れば、一般クラスかどうかぐらいは誰でもわかる。アキは見た目だけなら貴族に見えないことはないけれど、一緒にいるのが思いっきり平民なのは仕方ない。それも孤児だし。
「平民では生徒会に入れませんか」
「いいえ、そう言うのはありませんけれど」
そう言う差別をするくらいなら、最初から入学を許可したりしないだろう。中には平民だと見下す貴族もいるだろうから、やりにくいのは否めない。
まあ、アキには関係ないだろうけれど。
「嫌な思いをするかも知れませんよ」
「覚悟はしています」
それならいいですと、答えてから、会長は視線を向ける相手を変えた。
品定めされているようで怖かった。
「あなたはどうして」
アキには聞いていない質問がやってきた。
いやなんで、アキには聞かないんだろう。
やっぱり場違いだったのだろうか。
「会長に興味がありまして」
「私に?」
仕方ないから、そう答えた、それに、全くの嘘じゃない。
「どういうことかしら」
会長が怪訝な顔をした。
どうやら百合的な展開をご所望のようである。いや気の所為か。
「会長のことを、色々教えてほしいんです」
嫌がらせのように追い詰める。
相手は貴族だけど、同級生だから少しばかり許されるだろう。
「わたし、伊集院玲子教授の大ファンなんですよ」
最後に大きく嘘をついた。
会長の目が細くなり、氷のように冷たい視線が向けられた。
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