第12話 カーズ
目の前で燃え上がる巨大な炎を目の当たりにして、唖然としていたのは、魔法少女候補生だけではなかった。
研究員と思われる白衣の人たちは、自らの実験成果に驚き、そして喜んでいたけれど、部屋の隅で興味なさげに見ていた背広姿の男たちは、その力の意味を瞬時に理解した。これはやばいと今更に。
「素晴らしい」
研究員の中で一番年配の男が、アキの魔法を絶賛する。
それはそうだろう。
アキも自慢げに胸を張った。幼女のくせに大きな胸だ。
腹立たしい。
振り向いた彼女は笑っていた。知らない人が見たら、美少女が優しげに微笑んでいるように見えただろう。
けれどそれは、すばらしいおもちゃを見つけたときの顔だった。
心の中は真っ黒だ。
「次は私だね」
飛び跳ねるように前に出て、クミはアキを押しやった。不満げに横に避けたアキにピースを返す。とても楽しそうだった。
クミは、アキと同じポーズをしてから指を鳴らす。
「ウォーターファール」
炎の上に現れた小さな水玉が次第に大きくなっていく。
炎の外輪より大きくなった水の塊が一気に落下する。
水除気爆発を伴って炎は消えた。
代わりに高温の水が、四方に吹き飛ぶ。
危ないな。
そう思ってとっさに指を鳴らす。アキやクミの様にかっこいいポーズはできなかった。それを見て、アキが不満げに唇を尖らせた。
そんな顔も可愛かった。
「エアウォール」
空気の障壁が目の前に展開され、熱湯となった水滴を弾き返す。幸い、候補生も研究員の無事だった。けが人が出なかったことに安堵する。
「なんで、あんた達そんなに簡単に使えるわけ」
まだ魔力が発症していないリアが叫ぶ。
十三人のうち実はリアだけがまだ魔法を使えていない。
そのことに焦っているのは、見ていてえわかった。
炎を消火した大量の水が、候補生と研究員を襲ってくる。空気の障壁だけでは抑えきれないだろう。何しろエネルギーが半端ない。
「私にだってできるはず」
迫りくる濁流の前にリアが立った。
まだ、魔法を使えていないリアには、無謀だと思う。
でも、アキは動こうとしなかった。やりすぎたと頭を抱えているクミの背中を、優しげに擦っている。
他の候補生は、何ができるわけもなく成り行きを見ているだけだ。
だから、彼女たちと同じ様に見守った。
最終的には、アキが助けてくれると信じていた。
右手を目の前に持ち上げて、リアは指を鳴らす。
「フローズン」
津波のように押し寄せてきた波は、その言葉で一気に凍りついた。
「もしかしてできたの?」
一番驚いたのはリアかもしれない。
「良かったわね」
近づいて頭を撫でるアキの表情は優しげだった。きっと信じていたのだろう。根拠は無いけれど、そう感じていたはずだ。
それはアキが持つ。他の候補生には無い能力だった。
残りの九人も、それなりに魔法が使えたけれど、最初の四人の魔法は規模が違った。理由はわからないけれど、そこには越えられない壁のような、大きな違いが見受けられた。
その後、効果測定をによる魔力の大きさを元に、十三人にはランクがあてがわれた。人数的に丁度いいからと、研究員はトランプの札を割り当てた。本人達はおしゃれだと思ったのだろうけれど、所詮理系の考えることである。
おしゃれだと思っているのは、お前らだけだとは言えなかった。
最高位のエースには、アキが選ばれた。あの巨大な炎の他にも、いろいろな属性の、しかも強力な魔法が使えたから、文句なしの一番だ。
次点のキングに収まったのは、最後まで発症しなかったリアである。他にもだいたい使えるけれど、氷の属性が一番強い。
ジャックはクミだ。彼女は基本的に水を得意としている。あれだけ大量の水を出せるのは正直脅威だ。ダムが枯れても困ることはないだろう。
十以下はトウコ、コウコ、ノリコ、ハナコ、リュウコ、リョウコ、カズコ、サトコ、アイコの順で、それぞれ一属性か、せいぜい二属性が使える程度だった。
それでも、落伍者が出なくてよかったと思う。
まさか序列三位のクイーンを称号をもらえるとは思っていなかった。アキには遠く及ばないけど、リアとクミとはそれほど差はない。今後の成長次第では、入れ替わることはあるだろう。
でも、アキにはかなわない。
やはりアキはすごかった。
全員無事に魔法少女となったので、十三人まとめてカーズとなった。あいかわらずの理系センスに一部から強烈なブーイングが起こったけれど、わかりやすくていいんじゃない、というアキの言葉でそのまま決まった。
これからは魔法を使った訓練も行うことになった。
「楽しみですね」
アキはそう言うと不敵に笑った。
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