第11話 火炎

 部屋に戻ると着替えもせずにベッドに体を投げ出した。


「すごいな」


 魔法が使える特殊能力が手に入ると言うのは本当だった。それがどういうシステムなのか、難しいことは理解できないけど、単純にすごいと思う。

 

 この国は常に外敵から狙われれ続け、支配者がころころ入れ替わったりしていたけど、混乱を避けるためか国のシステム自体にそれほど変更はなく、五つの上級貴族と二十の下級貴族が五つの行政区に分かれて、行政を行っていた。

 魔法という手段が、最終的にどの程度の力となるのかはわからないけれど、この力は今ある国内の権力バランスを壊すだろう。まとまれば体外的な抑止力にはなるけれど、両刃の刃だ。取り扱いには注意を要する危険な力だと思う。


 そんな力を、アキだけが使えたのは少し悔しい。


 もしかしたらできるかもと、ダメ元でもう一回やってみた。

 イメージ膨らまして、軽く手を振る。


 風が吹いた。


「できた」


 ちょっと興奮した。

 ベットから飛び降りて椅子に座る。


 今度は手のひらを上に向けてろうそくの火をイメージしてみる。

 ゆらゆらと揺れる小さな光が現れた。


 具体的にイメージすることが重要だけど、これって怖くない。


 どれだけの魔力だかエネルギーだかを使うかわからないけれど。例えばこの孤児院を包み込むほどの巨大な炎を出すこともできるとしたら。

 冗談じゃない。

 メテオが出せるじゃないか。


 ドキドキした。

 二つの意味で。


 そう言えば、理事長の名前は柏崎だったと思い出した。


 柏崎家は王都トヨハラを拠点とする下級貴族で、同じ下級貴族の伊集院家とシステム開発の研究所を運営していた。


『夢を見るプログラム』


 図書室で見かけた本のタイトルを思い出した。著者はたしか伊集院怜子という教授である。難しい論文だから、そのまま読んでも中身を理解することは不可能だろう。ネットに概要がないか調べてみた。

 あった。

 さすがウィキだ。


 簡単に言うと、論文は人工知能に夢を見させるという内容だった。

 そのまんまだ。

 脳の記憶貯蔵庫から過去の記憶映像が再生されつつ、記憶映像に合致するストーリーをつくってゆくという神経生理学の理論をプログラムとして人工知能に導入する実験らしい。

 さっぱりわからなかった。

 いみがわからないよ。


 人工知能を搭載したロボットに、感情をもたせるとか、まあ、よくあるSFっぽい話ではあるのだけれど、夢に焦点を当てるは面白い。きっと変わり者の教授なのだろう。

 結果として実験に協力した学生が昏睡状態になるという事故があり、実験自体は中止になったと書いてある。その学生がどうなったのかはわからないけれど、名前だけは載っていた。


 その実験と、魔法少女の能力はどう考えても関係性はない。

 ただ、その伊集院家が、柏崎家と共同で実験をしているのは事実なのだ。

 もしかしたらとは思ってしまう。


 学生の名前は柏崎友紀というらしい。


 そんな事を考えていたら、いつの間にか眠っていた。


  ★


 アキが発症してから、だいたい二ヶ月後、候補生のほとんどが簡単な魔法を使えるようになっていたので、その時点で、予定通り効果測定を行うことになった。

 血液検査などの一般検査の他に、魔力測定器ぽいものがあった。

 よくわからないけど数字が出ていた。


 それから、実技を行うため、孤児院の地下に移動する。

 

「地下なんてあったんですねぇ」

「っていうか隠し部屋?」


 長い階段を降り、分厚い鉄の扉を抜けると、区立体育館ほどの大きな空間が存在した。候補生は誰も何も言えずにいた。

 驚いた。

 その言葉でさえ物足りなかった。


「ここは核爆発でも壊れない作りになってますので、実際に魔法を使ってもらいたいと思います」


 理事長は来ていなかったけれど、見た目から研究者っぽい人たちが数人やってきた。当然みんな白衣姿だった。研究所から来たのかはわからなかった。


「では順番にお願いします」


 最初に呼び出されたのはアキである。

 アキは最初に魔法が使えた日から、個人的に色々実験を繰り返していた。

 なんとなく魔力が上がった気がするなんて笑っていたけれど、こっそりやっているから、効果の程はわからない。

 だけど今日は違う。思いっきり魔法が使える。

 

「個人に合った属性ってのがあるっぽいんですけど、基本、どの属性でも使えるはずなんですよ。頭でイメージして見てください。呪文とかはいりません」


 アキは一歩前に出て深呼吸をした。


「それでは、まず火をお願いします」


 念じるだけで魔法は発動するのだけれど、そこは魔法少女らしくポーズにこだわりたいとアキはずっと考えていた。


 ゆっくりと右手を目の前に持ち上げて、指を鳴らす。


「フレイム」


 目の前が一瞬で燃え上がる。

 二階建ての家がすっぽり入るぐらい巨大な炎が出現した。


 とても熱かった。

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