第10話 力

 手のひらに現れた灯りは、しばらくその場で燃えていたけれど、やがて小さくなって消えてしまった。


「え?」


 全員が一斉に固まった。その中でも、当事者であるアキが一番驚いていた。


「なにそれ、魔法?」


 訝しげに、クミが問いかける。

 魔法少女になるのだから、魔法が使えるのは想定の範囲内だ。けれど実際に見るまで半信半疑だった。


「なんか別のやってみてよ、氷とか」


 リアがせっつく。

 

 一般的な魔法の世界では、魔法には属性とやらがあったりする。白かった黒かったり、光だったり闇だったり。RPGゲームの魔法で言えばメテオとかとても好きだった。なんか破壊の衝撃が半端ないから、ぜひ使ってみたいと思っている。巻き添えになって死んでしまいそうだけれど。


「そうですね」


 テーブルにあったからのグラスにアキが右手をかざすと、氷が三つ現れて、グラスの中に落ちていった。カランと涼しげな音が響く。それに続いて、コップは水で満たされた。氷の次に水を出してみたらしい。


「飲めるかなぁ」

「飲めるかどうかわかんないけど、飲みたくないな」


 見た感じ飲めそうではあるけど、どうだろう。

 体の中からでてくる氷が衛生的かどうかは疑問である。美少女から生成されたものだから、一部の方々に高く売れるけれど、飲みたいとは思わなかった。

 いずれにしろ、安全かどうかは、これからいろいろな検査とかをして、大人が決めることだろう。そこは魔法少女候補生の責任範囲外である。


 それからアキは、風とか光とかそれっぽい魔法をちょっとだけ披露した。調子に乗って魔力切れでも起こしたのか、最後の方はつらそうだった。魔力とかそのへんのシステムがわからないから、無理は良くない。

 ため息を付いたアキは、無意識にさっきの氷水を一気に飲み干した。


「おい、大丈夫か」

「あ」


 見た目は水だし、本人の体から出た液体だから大丈夫だとは思うけれど。


「僕にもできるかやてみるよ」


 リアが張り切って挑戦するが、まったく何も起きなかった。まだ発症しているわけではないらしい。

 がっかりしてベッドに横たわるリアは、何やらブツブツ言っている。理事長も個人差があるって言っていたから、そんなに落ち込む必要はないと思う。


「どんまい」


 ぞんざいに励ましておいた。

 

 結局魔法を使えたのはアキだけだった。

 本当に魔法が使えるとか驚きだった。これから検証されるのだろうけれど、たしかにこれは素晴らしい特殊能力だ。まだ何ができるかわからないけれど、使いこなすことができればすごい事だ。そうすればどんな相手とだって戦える。


 世界征服だってできるかもしれない。


 問題は、すぐに院長に報告するかどうかだった。幸いなことに部屋に監視カメラはない、魔力測定器のようなものがあればバレるだろうけど、多分そんなものはまだ開発されていないとおもう。


「わたくしが、最初の魔法少女なのかしらね」


 なんだかうっとりとしたアキの表情は、まだ幼女なのに色っぽい。

 それは反則だと、当人以外が不満げに息を吐いた。


「院長に報告するのかい」


 洗礼が終わってから、なんか体に変化があれば報告するよう言われている。


「少し待ってみません」


 気づいてなかったといえばいいだろう。さっきだって、偶然やってみたらできてしまっただけなのだから。


 結局、三ヶ月後に行われる効果測定まで黙っていることにした。四人共、あるいは候補生全員が発症したら、その時点でこちらから報告してもいい。

 そう言う話に落ち着いた。別に異論はなかった。


「どう思う」


 とりあえず話がまとまったのでアキの部屋をでる。リアの部屋は隣なので、一緒に戻るのは必然だ。漠然とした問いかけに、以前話した内容を思い出す。


「敵の話か」


 魔法少女の敵は魔法少女かもしれない。

 以前リアはそう言った。


 争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない。


 そう言うことであれば、敵もそれなりの能力を持っているべきだ。そうでなければこのチート能力は何のために使われるのだろう。

 それはとても気になっている。


「敵っていうかさ、魔法少女の力は、何のために使われるのかな。適正とかあるにしてもさ、誰もが魔法少女になれるのなら、力のバランスとか崩れちゃうわけじゃん。この世界には、魔物も魔王も居ないわけだし。いるかも知れないけど。でも、この力を手に入れたら、いつか使いたくなるんじゃないかな。それを止められるのもやっぱり同じ魔法少女なわけで。それに」


 手に入れた力は使いたくなる。

 それは確かに真理だった。

 強力な力ほど、それに飲まれる人も出てくるに違いない。


「それに、自分が暴走しないとは言い切れないじゃん」


 そんな時どうすればいいのだろう。


「もしそんな事になったら。ちゃんと止めてよね」


 照れるようにオヤスミと言い残し、リアは自分の部屋に入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る