第6話 候補生

 半年が過ぎても、理事長は現れなかった。

 一体いつまで待たせるんだと、アキはふてくされ、手の混んだドッキリじゃないのかと、クミが文句を言っていた。

 ドッキリには凝りすぎている。訓練の内容も、待遇も。

 もうすっかり慣れてしまったし、特別な力がなくても十分社会で生きていけるだけの基礎力だけは着々と身についている。


 この孤児院は国の特別な認可が降りていて、義務教育過程はここで済ますことが可能らしい。その後高校に進学する。

 多分同じ高校だ。

 皆高校に進学し、優良企業に勤めることだってできるだろう。

 それでなくとも孤児院出身者は、優先的に採用する様に法律で義務付けられていた。大学に進学し、公務員や医療関係者になる可能性だって大いにあった。


 三ヶ月を過ぎたころ、十三人いるい魔法少女候補生は、事前の検査による能力評価を元にして四つのグループに分けられた。

 課題、掃除、食事当番などの集団作業は、すべてグループ単位で行われる。

 寮の部屋も振り分けられた。


 優等生のアキには、トウコとコウコの二人がついた。

 ふたりとも何故だかお嬢様風の言葉遣いだったりする。

 孤児なのに。

 アキか、あるいは悪役令嬢のアニメにでも影響を受けたのだろう。とは言え、候補生の中ではアキに続いて端正な顔立ちをしていたから、三人で歩く姿はとても絵になっていた。


 ノリコとリョウコそれにサトコの三人はリアのグループだ。

 リアと対象的に三人共年令が高く、大人っぽい印象である。

 見た目の通り子供っぽいリアの保護書という位置づけだろう。

 三人共、リアに対してベタ甘なのはいただけない。

 調子に乗りすぎてうざかった。

 

 比較的おとなしめな二人はクミと一緒になった。ハナコとカズコだ。こっちは無垢なお嬢様という印象が強く、クミとは正反対の性格だった。

 上手くいくのか不安だったけれど、二人はクミをおだてて上手くやっていた。

 二人にいいように操られているように見えたけれど、本人は幸せそうだし、二人も楽しそうだったので、問題はないだろう。

 

「同じになれてよかったです」


 同じ孤児院の出身であるリョウコと王都出身のアイコが残った。

 

「よろしくお願いします」


 アイコは一番物静かな性格で、他人との会話は苦手だった。めったに聞くことはないのだけど声はとても綺麗だった。

 音楽の事業では彼女の歌声に、全員が聞き惚れた。それ以来、彼女は皆から「セイレーン」と呼ばれたりしていたが、割と気にいっているようだった。

 あれって本当は怪物なんだよね。


 リョウコとは同じ施設にいながら、クラスも違ったし、これと言った接点もなかったから、ほとんど初対面である。けれどリョウコの意識はそうじゃなかった。

 何かと目立つ行動が多かったから、身近な存在に思われていたらしい。

 良く言えば、テレビの中のアイドルだろうか。

 見世物じゃないか。


「だって、あの理不尽な要求を一刀両断した時なんか、格好良かったです」


 いつだったか、気に入らない下級生をいじめるために、無理難題を押し付けてくる、お局のような上級生を言い負かしたことがあった。顔を真赤に歯ぎしりする彼女と、真っ青な顔で押し黙る取り巻きの姿は愉快だった。

 その姿はまるで、


「まるで悪役令嬢のようでした」


 ヒロインをいじめるハズなのに、フラグ回避で正義を行使する。

 悪役令嬢にはそんな設定が多かった。


「いや、それ違うし。本来悪役令嬢って、そのまんま悪役だよ。それに、そう言ったキャラはアキの方が適役だ」


 性格的にはアキだろう。そもそもお嬢様キャラは苦手である。


「でも、格好いいのはよくわかります」


 アイコがうなずく。

 それも違うよ。そっちはクミの領分だし。ボーイッシュで、王子様と言えなくもない。タカラズカとか言う歌劇にでてくる男装の令嬢が似合いそうだ。

 ごめん、ちょっと言い過ぎた。


「それに、可愛いところもあるんですよ」

「ほんとうですか」


 うそです。そんなところはありません。

 可愛いのはリア一択です。

 あの可愛さは反則です。


 以前からの偏見がリュウコには色濃く残っているらしい。

 ほしいのは盲目的な信者なんかじゃない。。


「まあ、せっかく一緒になったのだから、お友達になりましょう」


 多分一生の付き合いになる。

 魔法少女になるとしたら、特別な力を持つとしたら、

 もう人間ではなくなる気がした。

 本当の友達は、二度と作れない気がしていた。


 リュウコとアイコは顔を見合わせ、首をかしげてから声を出して笑った。


「友達ですか」

「友達ですね」


 そう言われて。少し落ち込む。

 

「嫌なら、いいんだけれど」


 無理強いする気はまったくなかった。それでも。


「何言っているんですか」

「もう仲間じゃないですか、私達」


 仲間は友達より深い絆で結ばれているんですよ。

 そうリュウコが付け加えた時、涙が流れた。


「ありがとう」


 自然とそんな言葉がここぼれてきた、。



「またせたな」

 

 この施設に来てちょうど一年を迎えた時、再び理事長が現れた。

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