第4話 クミ
魔法少女は戦うもの。
そう考えているからだろう、基礎体力の授業には格闘技も含まれていた。
南の皇国で人気の空手というものらしい。
先生の一人が師範の免状を持っているとかで、わりかしその時間が多かった。
基本寸止めで行うために殴られたりとかはしないのだけれど、それが意外と難しく結構当たる。それでも魔法少女の候補生に選ばれただけあって、皆それなりにものには成っていた。その中でも、特別動きの良いのが居た。
「あんた強いね」
対戦相手に話しかける。
何度か対戦したけれど、こいつには五回に一回しか勝てなかった。
まじで強いこの少女は、クミと言い、初日の集会で左隣に座っていた。見た目と初日の発言から、活発そうだと思ったけど、そのとおりだった。見た目そのまんまで、少しつまらなかった。
「みんなが弱いんでしょう」
クミはそう言い放つ。
まあ、平気でそう言うオモテウラのない性格は嫌いじゃない。
それに、この歳で斜に構えている点は評価できた。
まあ、可愛いし。
「でも、あなたはわりと強いわね」
その後にそう褒めるあたり。ツンデレ要素もありそうだ。
「体を動かすのは嫌いじゃないからね」
とりあえずそう答える。
前の孤児院でも、先生方にご迷惑をおかけするぐらいにはやんちゃだった。気に入らない奴は力でねじ伏せるのが正義だと思っていた。そう言う世界で育ってきたから、孤児院の連中はだいたい皆そんな感じである。
でも、ここに居る奴らは割としっかりしていて、争いはまったくない。
それはそれで、不気味ではあった。
ただ、とても仲良し遠いう感じではない。まだ日が浅いからだろうけど、みな遠慮しているのがわかる。
「魔法少女になれば、特別な力がもらえるんでしょうね」
「多分ね」
「誰よりも強くなれるって素敵だよね」
他人より力を持つ有効性は理解できる。強い力には憧れる。
社会的弱者である孤児院の出身者は物理的な力をなによりも欲している。それがあれば、なんとか生き残る事ができるのだから。
ただ、その力を、この先何に使うのか、それが少し心配だった。
アキの言っていたとおり、魔法少女には明確な敵がいるはずだ。いやイなければおかしかった。
それが何なのか、今のところ思い当たるものがない。幼女の頭では予想できないのだろうか。
戦争の多いこの国の事だ、戦力として最前線に立たされるのかもしれない。両親を奪った戦争は嫌いである。それはここにいる全員の共通した思いだろう。
ただ、強大な力が抑止力と成れば、戦争は回避できるんじゃないか。
そんな甘い考えを思いついて、嫌になった。
仮にそうなったとしても、それは仕方の無いことである。
理事長の前で言い放ったクミの言葉は真実だ。
選択肢なんて無いのだから。
手持ちのスポーツドリンクを飲み干してから頭をふって、そんな考えを吹き飛ばした。考えたって無駄なことだ。いまは生きることが最優先だ。
「もう少し付き合ってよ」
実際、クミの相手は、それなりの力がなければ務まらない。他の連中では物足りないのは分かっている。みな、それとなくクミを避けていたのは知っていた。
最初から、クミは相手を選んで声をかけてくる。
いつも逃げられないよう、壁際に追い詰められるのだ。
旗から見たら、壁ドンに見えるはずだ。浮かれたシーンでは無いのだけど。
「またかい。もう疲れたんだけど」
「まだ三回しかやってないよ。鍛え方が足りなくない。そんなことじゃ立派な魔法少女に成れないよ」
こいつ、アキと同じことを言っている。
いや、この程度で駄目だと言われたら、他の十一人は失格だろう。
「アキに相手をしてもらいなよ」
「あれはだめよ」
「どうして?」
クミは薄く頬を染めて視線をそらした。
何故か照れているようだった。
まさかの百合フラグなのかと、馬鹿なことを考えていた。
「だって、美しすぎるでしょ、あの人」
完全位ハズレではなさそうだ。
その気持ちは理解できる。激しく同意だ。
アキはちょっと美少女過ぎた。反則だ。
この歳であの美しさなら、あと十年もしたら殺人的な美女になるだろう。並の男なら寄り付けないに違いない。
羨ましくはないけれど、いや、やっぱり羨ましい。美しさは武器だもの。
「じゃあさ、目をつぶって戦ってみたらどう」
なんだか面倒くさくなって、適当な無茶振りしてみた。
「それは、いい考えだね」
ちょっとまて。本気でやる気なのか。
思った以上にクミは脳筋だった。
「冗談だよ。あと三回だけだからね」
真剣な顔のクミの胸元を軽く小突く。
あとで苦情が来そうだし、馬鹿なことは止めさせよう。
「ありがとう」
クミの素直な微笑みは、十分に可愛かった。
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