第二話 首吊り
一歩、また一歩と重たい足取りで階段を上る。そして、目的である一室に着く。
イスの上に乗り、仕掛けたロープを首を吊れるように丸をつくり、そこに首を入れ、イスを蹴ろうとしたとき、
「何やってんの?」
と不意に声を掛けられた。だから、
「あなたは誰なの」
と言った。すると目付きの鋭い同じ高校生くらい男子が現れた。そして、
「俺はアセアンって言うんだ。多分、もっとちゃんとした名前があると思うんだが、何分記憶喪失でな、アセアンでみんなから呼ばれている」
「そんな人クラスにいたっけ?」
「覚えていないだけでいるじゃないのか?」
確かに、聞いたことがある。図書室でいつも見えない誰かに声を掛けている優等生である明山 阿児(あくるやま あこ)が「アセアン」という言葉を口にしていることを思い出した。じゃあ、もしかして、
「幽霊ですか?」
「何ゆえに?」
「図書室ではよく明山さんがアセアンという言葉を口にしていて、でも人の姿は無くて、机の下にいるなんてありえないし……それなのに今、姿を現している、普段は姿の見えない人が急に現れるなんて可笑しくて、普段は幽霊で、ときどき人間みたいな感じなのかなって」
「う~ん、そこは君の想像に任せるよ。もしかしたら、俺の存在感が無くて幽霊並じゃないかもしれないじゃん」
「そ、そうなんですかね……」
「で、こんな関係ない話はいらなくて、君は今、何をしようとしていたの?まぁ、現場を見ればだいたいは想像ができるけどさ」
「だったら、早くどっか行ってくれませんか、私は、私は早く楽になりたいんですよ」
「楽になれる保証はあるのか?」
「え?」
「だから、死んで楽になれる保証があるのかって言ってるんだよ」
「そ、それは」
「ドラマとかアニメとかで死んだら楽なんだろうなってコメントで死のうと考えているならやめとけ、後悔しか残らんぞ」
「ソースは、あるんですか?」
「これは、痛いところを突かれたな」
アセアンは苦笑をした。そして、
「まぁ、それを説明してくれるやつの気配を丁度感じているから」
と、アセアンが言って出入り口の方を指さした。すると、
「お、お久しぶりです~、アセアンく~ん」
と、綺麗な銀髪を揺らし、黒一色の服装の少女がアセアンに抱き着いた。
「ちょ、ちょっと離してくださいよ」
「嫌だ、てか、アセアンくん、私が少女の時は敬語は無しって言ったでしょ」
そう言って頬を膨らましていた。
アセアンは、
「ほら、仕事をしてくださいよ」
「え、面倒だよ」
「死神でしょ」
「えっ」と自殺志願者の女性の口からこぼれた。「でもアセアンくんが言うなら」と言って、ズボンのポケットから一枚の紙を取り出した。そして、
「えっと、名前は燕原 椿(つばめはら つばき)で、高校二年生の女性。顔は全国平均の少し上くらいかな、それでいじめをして人を殺してしまったためその責任逃れで自殺を志願中……であってるよね?」
自殺志願者の女性、椿は、言葉が詰まって喋れていなかった。多分、現実ではありない存在がいきなり二人も現れたことで混乱しているのだろう。
……少し離れた場所で、花子と胡桃が、アセアン、椿、死神のいる教室を見ていた。胡桃は、「つ、椿」と言葉をこぼしていた。
花子は胡桃に、
「何で幽霊が、あの人間に見えるか知りたい?」
と話しかけた。胡桃は、
「少し気になってました」
と答えた。花子は、ゆっくりと説明を始めた。
「幽霊が人に見えるには二つ方法があって、一つ目が特殊な人間、簡単に言えば霊感がとても強い人間でいわば、図書室によくいる阿児がそれに当たるの。それで二つ目の方法なんだけど、今のアセアンみたいに具現化している状態になるの、誰でも分かるように言うなら貞子とかが当たるわ。でも具現化はデメリットがあって、認知度が高まってしまうと消されてしまうの」
「え、でも、だったらなんで花子さんは」
「私は、貞子さんと同じようにトイレの花子さんで全国的に有名だからそれでみんなに認知されているから大丈夫なの」
「へー。だったら牛鬼とかろくろ首とかもそれに当たるの?」
「そう、その解釈でいいわ」
「でも、それだったらなんでアセアンは認知度が高まると消されるの?」
「それは簡単よ、世界のバランスが崩れるから」
「え、」
「マイナーな幽霊は近年消されている傾向にあるの、これ以上いすぎても意味が無いのよ」
「な、なるほど」
「理解できてないようね。でも、今はそれでいいわ。あなたはアセアンみたいなことをやったらダメだから」
そう言って、花子は静かにアセアンのいる教室の方を向くのだった。
図書室の相談録 ぐち/WereHouse @ginchiyotachibana
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