第18話:デストロイ・デスゲーム

殺風景な灰色のコンクリートに包まれた部屋。

そこにあるのは教壇と、20対の机と椅子。そして椅子に座ってきを失っている10人の人間。


学校の教室の様にも見えるが、学校にある暖かさ等は一切無い。そこにあるのは静寂と、停滞した淀んだ空気。


パチリパチリと天井の蛍光灯が点滅する。蛍光灯の回りには小さな蛾が飛んでいた。


部屋の隅には謎のガスを送り込むチューブが張り巡らされている。



「う……う……うん……?」



しばらくして、椅子に座っていた、10人の男女が次々に目を覚ます。


「ここは一体……どこだ?」


一人が言葉を発するのを皮切りに、目を覚ました全員が一斉に喋りだす。

だが内容は愚にもつかない内容ばかりだ。ここはどこだだとか、元の世界に返せだとか、お前は誰だとか、話しても意味の無い下らない内容だ。

本人たちは大真面目だろうが、このワールドではそんな事は関係ない。


全員が混乱している時に、コンクリートの壁の一部に突然扉が出現する。


引き戸をガラガラと明けて入ってきたのは、鬼の覆面を被り、その上から眼鏡を被った男だった。覆面の上からタバコを吸い、漂う煙を身に纏っていた。

ジャージを着て手には竹刀を持っている。


男は教壇に立つと、全員に向けて大きな声で喋り出した。



「はい注目。突然だが、ここにいる奴等には、殺し合いをしてもらう。最後の一人になるまでな」



全員は突然の事に驚き、一瞬シンと静まり返る。だが、全員椅子に座ったままで動かない。

眠らされていた時の神経ガスがまだ体に残っており、うまく体を動かすことができないのだ。


少しして、机の人間たちがざわざわと口を開き始める。



「どういう事だ、なぜ、俺たちがそんな事をしなければいけない!」


「そ、そーよ!私たちを開放しなさいよ!」


「お前は、いったい何様だ!」



前に立つ鬼の覆面男がバシンと教壇を竹刀で叩きつける。だが、場の騒ぎは収まらない。

その中でもひときわ体格が大きい男が机をバンバンと叩きながら大きく叫ぶ。


「俺は納得しねぇぞ!速く返しやがれ!!貴様なんか怖くねぇぜ!!!誰が殺し会ったりするかよ!!」


BANG!


騒ぐ男に対して、鬼の覆面をした男が銃を取り出して頭を撃ち抜いた。

騒いでいた男は、額に穴を開け、がくりと倒れた。


「ひっ……」


あまりの暴虐に場の人間が言葉を失う。


「やっと黙ったか。いいか?俺はゲームマスターの鬼城だ。テメェらは、訳あってここに集められた。何でか分かるかァ?」


誰も無いも答えない。身に覚えが無いといった表情だ。


「テメェらは、ヘブンズワールドのアンケートに『刺激がほしい』と答えた。とゆーわけでだ、この新ワールド『デストロイ・デスゲーム』のαテストユーザーに選ばれたって訳だ」


それを聞いて、一番前の席の女が声を挙げる。おしとやかそうなお嬢様然とした女性だ。


「だ、だからって殺し合いをしたいなんて言ってないですわ!!それにわたくしたちの同意もなく!そんな事!!」


鬼城はもう一度机をバシンと竹刀で叩く。


「黙りなァ!猫被ってんじゃねーぞ!テメェの本心は違げェだろ!証拠にテメェが書いたアンケートを読み上げるぞ!」


鬼城は1枚の紙を取り出して読み上げる。


「『ヘブンズワールドは楽しいですが、全体的に刺激が弱すぎます。私はもっとエキサイティングな戦いを望みます。やはり人間の本能は闘争を求めるのです!死力を尽くさずになにが戦いでしょうか!せっかく不死身なんですから、命をもっと賭けれませんか?グロくても構いません。お願いします!』……これはお前の文章だな」


「…………」


女は黙り混む。図星のようだ。

回りが冷たい目をしてお嬢様を見る。見た目によらず、過激な人間だと引いているのだ。


それを見て鬼城は再びバシンと教壇を叩く。


「言っておくが、ここにいる全員!同じ様なアンケート内容だからな!テメェら10人……あぁ9人は全員が血に飢えた獣だ。だからこのワールドのαテスターに選ばれたんだよ」


それを聞いて、全員の目付きが変わる、自分の本性をさらけ出せると聞いて、血が沸いて来たのだ。先ほどとは違い、戦いたくて仕方ないといった顔つきだ。

鬼城は教壇の上にある出席簿に目を落とす。一人一人が粒揃いのイカれたメンバーだ。



《死の商人・滅田(めつだ)》

軍事力を強化して世界征服を狙うワールドで、敵対組織全てに武器を売りさばき、核で自分の国以外を滅ぼし合わせて優勝した男。狂人だ。


《殺し屋・レッドルーム》

禁酒法時代のアメリカが舞台のワールドで、巨大なマフィアファミリーギルドをたった一人ナイフ一本で全員殺し、真っ赤な帰り血で家を染めた女。狂人だ。


《ゾンビイーター・血歯(ちば)》

ゾンビと人が戦うワールドで、ゾンビを食い殺すことに拘る男だ。人の最強の武器は牙だと信じて止まない。狂人だ。


《デスヒーロー・ジャックマン》

ヒーローが怪人(ヴィラン)と戦い平和を守るワールドで、怪人の目玉をくりぬいたり爪を剥がしたりする残虐ファイトの配信をするR18ヒーロー。狂人だ。


《人狼・アリス》

人獣ゲームをリアルで行う村ワールドで、狼も人もとにかく吊るす事が大好きなお嬢様だ。人を殺す為、人を欺き最後まで生き残る能力に長けている。狂人だ。


《海の悪魔・倉剣(くらけん)》

カリブ海の海賊を題材としたワールドで、ただただ敵の海賊を殺して回り続け、富や財宝を全て海に沈める謎の海賊。狂人だ。


《呪われし勇者・イサム》

RPGを舞台にしたファンタジーワールドで、ひたすらプレイヤーキルをしすぎて名指しで出禁にされた勇者。狂人だ。


《人の味を知る獣・ポチ》

動物に転生して、サバンナを生き抜くワールドにて最弱の犬を選択した上で全ての動物の頂点につきシーズン優勝した元人間の柴犬。狂人だ。


《人類の敵・営利杏(えいり あん)》

あらゆるワールドで、人類が滅亡するシナリオだけ選んで進めて回る滅亡主義者の女。狂人だ。


《パワー自慢・怒助部》

イキっていたヤンキーだ。適当な数会わせで呼ばれたが、うるさかったので既に鬼城に撃ち殺された。




皆、ワールドのルールはきちんと守ってやってる事だから許されているが、よくもまぁこんなにはっちゃけられる物だと鬼城は思った。



「で、鬼城さんよォ……殺り方は何だ。ステゴロか?それとも何か武器をくれんのか?」



滅田が机に肘をつきながら、ふてぶてしく聞く。さっきまではおろおろしていたと言うのに。

こんな狂人どもでも一般人には迷惑かけないように普段は皆に合わせた態度で接しているのかと鬼城は感心した。


とりあえず皆カマトトぶるのをやめて、デスゲームを楽しむ事にしたらしい。


「ああそうだった。ルールを説明する。テメェらの頭の上の数字が見えるか?」


皆が上を向く。そこには「100」と数字が書かれていた。


「その数字がHPだ。攻撃を受けると、その数値が減る。受ける数値は使われた武器によって違う。棒切れなら5ダメージ、剣なら20ダメージといった所だ。また、頭や攻撃をモロに受けたりするとダメージが大きくなる」


「血は、血は出ねぇのかァ!!」


呪われし勇者イサムが叫ぶ、その言葉にそうだそうだと皆が乗っかる。

鬼城がマニュアルを取り出して読み上げる。


「えっとだな、受けたダメージによって出るぞ。……そこそんなに大事か」


「「「大事に決まってるだろ」」」


鬼城は謎の気迫に気圧される。このデスゲームの参加者は血に飢えすぎている。


「あと、ここは島になっている。それで、島の各地には武器や防具が落ちている。それを拾って戦力強化して戦う訳だ。戦闘開始は1時間後でそれまでは攻撃以外は自由だ」


「鬼城さん、質問が」


全身赤ずくめの女、レッドルームが鬼城の進行を遮る。


「あァ、何だ?」


「鬼城さんを殺してもOKですか?」


生意気な女に鬼城は「おう、やれるもんならやってみろや」と答えそうになったのをグッと堪える。


「ゲームマスターへの攻撃は禁止だ。もう一人、ウサギの覆面をした実兎というゲームマスターも島にいるが、そいつにも攻撃禁止だ。攻撃したらお前らの首に埋め込んだ爆弾が爆発するようになってる」


「ちぇっ」


なぜか舌打ちをされたが、鬼城は気を取り直して話を続ける。


「1時間後に戦闘が開始されたら、島は隅から炎上し狭くなっていく。逃げ隠れるだけじゃ勝てないって訳だ……まぁ、テメェらは逃げ隠れしなさそうだが」


部屋の隅からガスが噴射される、それを吸い込んだ9人の体の麻痺がが治っていく。

鬼城が再び教壇を竹刀でバシンと叩く。



「では、デスゲームの始まりだ!!」



こうして凄惨な殺し合いが、始まった。




◆◆◆




実兎はキャンディーを舐めながらカメラを通して、離れた部屋から鬼城の部屋を見ていた。


デスゲーム開始と同時に、ゾンビイーター・血歯が鬼城に飛びかかった。



「オレハオレノ、ヤリタイヨウニヤル!!」


「テメェ、馬鹿、このやろ……グワッーー!!」



血歯は鬼城に噛みつき喉笛を食い破ると同時に、首に仕掛けられた爆弾が爆発し、鬼城もろとも木っ端微塵に爆発して消滅した。



「うわ、先輩死んだし……ルール無用過ぎるっしょ……怖」



実兎は手元の血歯の資料を見ると、生前はカリスマ美容整形外科医だと書いてあった。あんな医者には観てもらいたくないものだ。


実兎はスピーカーのボリュームを上げ、マイクを掴む。鬼城が死んだので仕方なく進行を引き継ぐのだ。


「はーい。残り8人ッス。もうみんなその建物から出ていいッスよ。戦闘開始まで残り58分しか無いッスよー。開始前に他プレイヤーを攻撃しても首の爆弾が吹っ飛ぶッスから気をつけるッスよ」


マイクを切り、カメラに目を向けると、次々に参加者達が部屋から出ていくのが見えた。



このワールドは『デストロイ・デスゲーム』バトルロイヤル形式でただただ参加者が殺し合って最後の一人になるのを競う、殺伐とし過ぎたワールドのα版だ。

制式ワールドとして作成する前段階として、血の気の多い参加者を集めてデータを集める事になった……のだが、少々血の気が多すぎる。



殺し合いのデスゲームに、殺人鬼8人。こんなんで本当にαテストになるのかと、実兎は少し不安に思った。

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