第19話:デストロイ・デスゲーム(2)
結論から言うと、色々あったが、ゲームは成り立たなかった。
色々あった訳が、鬼城と実兎は本部に戻るなり、詳細を報告しろと上司の狐島に呼び出されていた。
小さな部屋の中、用意されたパイプ椅子に座りながら、鬼城はタバコに火をつける。
「狐島さん、あのワールドのα版のテストはまだ早かったんだよ。俺らを怒っても仕方ねェぜ?雑な仕事したこアークが悪ィんだ」
「そうッスよ。今回のテスト失敗はアタシらが原因じゃないッスよ。弁解させてほしいッス!」
狐島が指をパチンと鳴らすと、3人分のコーヒーが出現した。このオフィス内は全て狐島の思い通りに動かせるのだ。
とりあえず、飲み物を出したという事で、狐島はゲームが成り立たなかった件を怒っている訳でないのが二人にも分かった。
「分かっています。二人とも、申し訳有りませんね。島で何が起こったかの記録がなぜか全て残っていませんでしたので、聞き取り調査が必要でしてね。詳細を話してください」
鬼城はコーヒーをごくごくと一気に飲み干すと、まるで愚痴でも話すように恨みったらしい口調で語り出した。
「まず、ゾンビイーター・血歯って奴に、戦闘の準備時間開始時に俺が殺された」
「は?、何でですか?」
「狐島支部長、ここは流してください。本当に意味不明な流れだったので。血歯が狂ってたとしか言えないッス。とりあえずここで8名になったんスよ」
「はて、開始人数は10名いたのでは?1名足りませんが」
「爆発に巻き込まれて死にました」
本当は鬼城が一人撃ち殺していたのだが、そう言うと荒れそうなので適当に流した。
狐島は腕を組みながら、納得できないながらも無理に納得している様子だった。
実兎はこんな所で躓くのでは、他の部分も納得してもらえないだろうなと、薄々思った。
鬼城が話の続きをする。
「復活した俺と実兎で、島をカメラで見ていた訳だが、皆、島の別々の方向に向かって散らばっていって、武器や防具を探し始めた」
「そこで、海の悪魔・倉剣が死んだッス」
「え、何故ですか?」
鬼城がタバコの煙をふぅーと吹く。
「『俺には分かる、海に最強の武器が眠っている!!なぜなら海は母だからだ!!海にバブみを感じる!!』と言って海に飛び込んだからだ。島の外はエリア外だ。当然死んだわけだ」
「はぁ……じゃあ、続けて」
頭を抱え始めた狐島を無視して、実兎があめ玉をコロコロと口の中で転がしながら続きを話し始める。
「とりあえずこれで7名になったッス。各自武器を集め終わった時くらいに1時間経ったんで、戦闘開始のサイレンを鳴らしたッス」
「最初に死んだのは、人の味を知る獣・ポチだ。あいつはあのワールドに向いてなかった。……犬だし。自前の牙と爪でデスヒーロー・ジャックマンに噛みついたが3ポイントづつしかダメージを与えられない。まぁ、いわゆる素手だからな。ジャックマンのキリングナイフで5回刺されてすぐ死んだ」
「まぁ、動物で戦うワールドじゃ無いですからね……元々。これでのこり6名ですね」
実兎がコーヒーに少し口をつけ、熱かったのか舌を出し、話に戻る。
「次に殺されたのは、殺し屋・レッドルームと、死の商人・滅田ッス。彼らはマシンガンと防弾チョッキ、ボウガンとカーボンシールドといういい感じの装備をしてたッス」
「ほう、やっとマトモに戦える人が来たわけですね……ですが最初に死んだのですか?」
「2人は一時的に協力関係を結び、他の参加者を殺す作戦を立てたッス。最初に目をつけたのが、人狼・アリスでした。彼女はハリセンしか手に入れることが出来なかったんで」
実兎はフーフーとコーヒーを冷まし始めたので、鬼城が話を変わる。
「レッドルームと滅田は、追い詰めた廃墟の部屋の中でアリスを撃ちまくった訳だが……殺せなかった。マシンガンもボウガンも1ダメージづつしか入らないカス武器だったからだ。それに気づいたアリスはハリセンでレッドルームを叩いた……すると」
「すると……?」
「ひどい光景だったぜ、防弾チョッキなんて意味ねぇ。ハリセンは一発で60000ダメージを叩き出した。あまりの威力に破裂したレッドルームは、自分の血ので辺り一面を血や臓物で染めた。俺は、うわレッドルームがレッドルームになった、と思ったぜ」
「…………」
「ま、まぁ、それに続いて滅田もハリセンでシバキ殺された。そのまま、ジャックマンもハリセンで張り倒されて死んだ。バランスぶっ壊れすぎだな。ちなみにジャックマンの最後の言葉は『んだ、このクソゲーはァァァ』だ」
「とりあえずこれであっという間に残り3人になったんスよ。バランスも集めたαテスターの性格もなにもかも最悪だったんでしょーね」
狐島はここで自分コーヒーに口をつけズズズと飲んだ。狐島も呆れている様だった。
「まァ、そこからは結構いい勝負だったぜ……遠くで戦いを監視していた人類の敵・営利杏は、武器をかなり集めていて、その中にハリセンも入っていた」
「そこからハリセン同士で、どちらが先に相手をハリ倒せるかの勝負になったッス。……端から見れば、ふざけている様にしか見えないんスけどね。とにかくハリセンでの壮絶なシバキ合いが行われたッス」
鬼城がタバコを灰皿に押し付けて消し、2本目のタバコを吸い始める。
「勝ったのはアリスだ。『何でやねん!!』とか叫びながら営利杏をハリ殺した。営利杏も『ひでぶっ』と言いながら破裂した。さながらコントのような結末だった」
「それで、最後の2人になった訳ですね」
「そうッス。最後に現れたのは、呪われし勇者・イサム。彼の武器は拳銃と核爆発スイッチだったッス」
「は?」
狐島が何を言っているのかわからないといった具合で眉間にシワを寄せる。
鬼城も当時の状況を思い出してため息をつく。
「俺も同じこと思いましたよ。狐島さん。何で核爆発スイッチなんて物があるのかとな」
「イサムはアリスにこう脅したんスよ。『貴様が近づけばこの核爆発スイッチを押す。そうすれば俺もお前も死ぬ。敗けを認めろ』って」
「アリスはその場から動けなかった。それを見たイサムは銃を売った訳だが、ダメージはまさかの『0』……銃がカス武器という前代未聞のバランスだったんだ」
狐島が机を爪でトントンと叩き始める。散々な結果すぎて頭を痛めているようだ。
「それで、どうしようもなくなったイサムは『運営さんクソゲーです!!はい閉廷!』と叫ぶと同時に核爆発スイッチを押したッス。すると島の中心部に巨大なミサイルが落ちてきて、全体に380億ダメージを与えた上で、先輩とアタシもろとも島を焼き付くして終わりました。対戦記録もそれで吹っ飛んだんッスよ」
狐島が頭を抱えながら二人に目を向ける。
「……なるほど、二人とも、ご苦労様でした。……結果だけ見ると失敗して意味無い様に見えますが、これも会社の目論み通りに進んだって事になりますかね」
鬼城と実兎が眉を潜める。失敗が目論み通りとはどういう事だろうか。
「実を言いますとね。このワールドはCEOの因幡大護社長がすごく作りたくないワールドだったらしいのですが、社内の企画班がどうしてもと言うのでαテストをやったらしく、わざと企画をポシャらせる為に手を回したとかいう噂が治安維持局内で立っています。なんのロマンやストーリー性も無いまま殺し会わせるのはヘブンズワールドに悪い影響をもたらすと考えているようでしてね。」
鬼城は腕を組む。
「まぁ、普通のゲームならともかく仮想現実のゲームでやる内容じゃないわな……ただ殺し合いするだけってのは、なんつーか、殺伐としすぎてら。血はともかく臓物をあんな飛び出させる必要ねェしよ……」
実兎もコーヒーを飲みながらこくこくと頷く。
狐島は、立ち上がって部屋のドアを開ける。
「では、お二人ともありがとうございました。通常の業務に戻ってください。ありがとうございました」
鬼城は首をコキコキとならしながら出ていった。その後ろを実兎があくびをしながらついていった。どうやら今回の仕事はそうとうダルかったらしい。ただ体を動かすよりも、何も思い通りにならないでトラブルが起こり続ける事を監視し続けること程、疲れる物はない。
狐島も席に戻り空中ウィンドウを開き、報告書を書き始める。
『デストロイ・デスゲームのαテスト報告書。結果から報告すると、非常に芳しくありません。理由は……』
そこまで書いて狐島の記載が止まる。そのまま書けばわざと失敗したのがばれるからだ。狐島は専務から独自に任務を受けていた。
『ワールド設立を却下できる報告書をつくってほしい』と言われているのだ。その内容は狐島に丸投げで。
「さて、どうしたものか。あの支離滅裂なストーリーをどう脚色して、ワールド失敗とするか考えませんと……全く厄介な作業ですね」
天国にあんなワールドは必要ない。と書ければ簡単だがそう簡単に行かない。
説得する相手は自分達とは違って生きてる人間だ。ただリアルなだけでバーチャルの殺し合いがどれだけ精神にくるかわかっていない。
他のワールドは精神面に影響を及ぼさないようにリアリティをそれなりに欠如させたり見せ方を変えたり最新の注意を払って作られているのに、それを全否定するワールドはお断りだ。
「全く、企画部の方々には一度死んでみてほしいものですよ」
狐島は誰に聞かせるでもなく小さく呟いた。
【 デストロイ・デスゲーム編 完 】
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