第15話:ロボティクス・コロニー(2)
廃墟と化した建物の中、4つのドライブアーマーが2つの陣営に別れて配備される。
もう人が住み着かなくなってから100年以上は経過した用な風景だ。
ソレでもビルやタワーは原型を残し、かつて反映していた都市であった事が分かる。
「あんたら準備はいいかい!ソレじゃそろそろ始めるよ!」
ドライブアーマーの中のスピーカーから村鮫の声が響く。
ソレを聞いて実兎は鬼城に通信を送る。
「先輩、作戦は分かってるッスね」
「あ、ああ。今回ばかりはお前の言うとおりに動くぜ」
鬼城と実兎のドライブアーマー、烈怒騎眼羅とキラーラビットの位置は20メートルほどしか離れていない。
敵の小判と板地の機体は彼らから数キロ離れた所に配置された。
彼らのドライブアーマーの名前はオオバンコバンと武蔵丸だ。オオバンコバンは名前に反して緑色の、ガトリングガンやミサイルを搭載し、キャタピラーで移動する弾幕形成能力に適した機体で、武蔵丸はビームカタナと、レーザーライフルを使用する赤黒い万能機体だった。
「アッハハハハハハ!!戦闘開始!!」
合図と共に、鬼城は前進を始め、巨大なビルを6本の足で器用に登り始める。
がしゃんがしゃんがしゃんと、ビルの頂上まで上りきるとそこに鎮座した。その姿はあたかも木の先っちょに上りたがる虫の様だ。
「実兎、着いたぜ……見えるぜ……よーく見える」
鬼城は画面をズームする。オオバンコバンと武蔵丸がすごいスピードで進軍しているのが分かる。
二つのデバイスを使い。両手の照準を合わせる。
BOOM!!
鬼城は寸分違わぬ同時タイミングで引き金を引いた。
巨大な砲弾が音速を遥かに越える速度で飛翔し、オオバンコバンと武蔵丸を直撃した。
オオバンコバンと武蔵丸は大破には至らなかったものの吹き飛び、ビルをなぎ倒しながら数十メートル転がった。
「よし。当たったぜ」
「さっすが。ジーサンズも油断したッスね。普通あの距離で当ててくる奴なんていないッスから……でも、ここからが大変ッスよ。ドライブアーマーはそう簡単には壊れないッスから」
鬼城は余談なくズームし目を凝らす。
ジーサンズの機体が吹き飛んで、舞い上がった土煙が消えた時には、二つの機体の姿はもうそこにはなかった。
「もう油断してはくれねぇか……だが、斜線上に全く出ずに接近することはできねェぞ。次顔見せた時が最後だぜ……」
烈怒騎眼羅のカメラに一瞬武蔵丸の機体が映った。急速に物陰にかくれながら接近してきている。
だが、その一瞬の隙を逃す鬼城ではない。
BANG!!
烈怒騎眼羅の重キャノン砲が耳をつんざく爆発音と共に2つの大型砲弾を発射する。
キャノン砲の弾は、2発が同時に武蔵丸にぶつかり……そのまますり抜けた。
そして砲撃を確認した瞬間に、オオバンコバンと武蔵丸が勢いよく飛び出して進軍のスピードを上げた。
キャノン砲はリロードが遅い、その隙をついて懐に潜り込む作戦だ。
「オイ!弾がすり抜けたぞ!」
「分身装置ッスよ!もうかなり接近されましたね!先輩、移動を開始してくださいッス!」
烈怒騎眼羅は6本の足でビルの頂上から飛翔した。着地したのは開けた大通り。
ここまでは実兎と鬼城の作戦通りだった。
鬼城は重キャノン砲を構え、回りに目を光らす。
2km以上離れていての戦闘開始だったのに、あっという間に戦闘終盤だ。
ちらっとジーサンズの機体が見えた時、ボロボロになっていた。もう一撃キャノン砲を叩き込むことができれば確実に大破するだろう。
だが見えない。見えたとしても分身装置の囮だったりと、なかなか場所をつかめない。
目の前の分身に性懲りもなくキャノン砲を撃ち込んだ瞬間、隣の建物が崩れた。
とっさに砲身を向けるが間に合わない、現れたのは武蔵丸だった。
降り下ろされたビームカタナが右半身を両断する。
右腕の装備と3本の足を失った烈怒騎眼羅はその場に崩れ落ちる。
その瞬間、建物の影から実兎のキラーラビットが飛び出し、武蔵丸を背後からレーザーブレードで頭を撥ね飛ばし。そのまま目にも止まらぬ剣裁きで武蔵丸をバラバラに切り裂いた。
BOOM!!
燃料に炎が引火し、燃え盛りながら武蔵丸は崩れ落ち、爆発炎上した。
「おやおや、やれれましたね……最初の1発を当てた後は、鬼城君は囮になる、という作戦でしたか……」
通信機からジーサンズの一人、板地の声が届いた。
「くふふ、板地っち、気づくのが遅いッスよ!」
「え、実兎?あれ、俺が聞いてた作戦と違うんだけど、実兎が囮になって俺が撃つって……」
実兎は考える、残るは小判のオオバンコバンだけだ。奴の弾幕の中近づくのは難しいどうにかして懐に潜り込む必要がある。
キラーラビットは烈怒騎眼羅の後ろに隠れる。
「実兎?なんで俺の後ろに隠れてんだ?何とか言えよオイ!オーイ!」
鬼城の問いかけを無視し、実兎は作戦を練る。
実兎の想定では、烈怒騎眼羅は右半身こそ失っているものの盾になるし重キャノン砲もまだ撃てる。そうなると重キャノン砲を警戒して襲ってくる方向は限られる事になる。
キラーラビットは、ドローン4機を周囲に発射する。近くに敵を見つけたら反応してくれるものだ。
飛ばす方向は、烈怒騎眼羅が見ていない方向。その方向に向けて扇状に散開させる。
ドローン1機が反応する。敵を発見したのだ。
先手必勝だ。キラーラビットは全身のブースターを加速させ、回り込みながらドローンの方向に接近する。
キラーラビットのモノアイに、オオバンコバンが映り込む。
実兎は、左手に装備したバルカン砲をを発射する。気づいたオオバンコバンが急速に回転してキラーラビットを迎え撃つ。
ガトリングガンは威力も高く連射数も多いが、空転時間が必要だ。空転時間のうちに接近してしまえば怖くない。
「とでも、思ってるんだろ?実兎ちゃんよォ!!ドローンに見つかったのはわざとだぜ!!」
オオバンコバンの両腕のガトリングガンは既に空転を終え、弾丸を発射できる状態へとなっていた。
ガガがガガという爆音と共に弾丸がの雨がキラーラビットに迫る。
「ヤバッ!」
キラーラビットは足のバネを活かして大ジャンプする。
「実兎ちゃん!ジャンプは悪手だぜ!」
オオバンコバンのガトリングガン一斉射撃は照準の移動が遅い、キラーラビットのジャンプに照準は追い付かない。
だが、その上からの攻撃を補う武器として、肩にミサイルポッドがついている。
ドドドドンッ!
ミサイルポッドから4発のミサイルがは発射される。一発でも当たれば打ち落とされ、ガトリングガンの餌食だ。
1発、2発、迫り来るミサイルをブースターを駆使して、避ける。
だが残り2発、これがどうしても避けられない。
BANG!!
その瞬間、爆音と共にキラーラビットの近くを一筋の閃光が走った。
閃光に巻き込まれた、キラーラビットに迫りつつあったミサイルが爆発して砕け散る。
鬼城の重キャノン砲だ。
「バカな!!蛇行して飛ぶミサイルを撃ち抜いただと!それも一撃で2発もッ!」
「流石先輩!」
ズガァアアンと、ミサイルを潜り抜けたキラーラビットが、驚く小判が乗り込むオオバンコバンに、覆い被さった。
そのまま、重キャノン砲を受けてヒビが入っていた装甲にレーザーブレードをねじ込み、一気に引き裂いた。
「やられたぜ、実兎ちゃん」
BOOM!!
缶詰を開けるように、オオバンコバンは体が半分ちぎれ、そのまま大爆発した。
◆◆◆
実兎と鬼城が機体をドッグに転送し、コロニーに戻ると、村鮫と小判と板地が待っていた。
「流石でしたよ。実兎君。鬼城君も見事でした」
かるくぱちぱちと小判が手を叩く。中身が人生の大先輩のおじいさんだと分かっていても、見た目が小さな子供なので、上から眼線な感じがマセガキめいて鬼城は少しムカついた。
「ま、鬼城はほぼ置物だったけどな。……ただ、射撃の腕前だけは化けモンだ。正直、あんな腕前の奴は始めて見るぜ」
逆に小判の褒め言葉の印象はとても複雑だ。美女に認めてもらえるといっても中身はおじいさんなのだから。
「小判っち、板地っち!先輩に射撃以外を期待しちゃダメッスよ!先輩運転は大の苦手で、生前は車で事故って死んだんスよ!」
「別に苦手ってわけじゃ……」
そんな鬼城の背中をバンバンと村鮫が叩く。
「アッハハハハハ!!なんにせよ!この二人に勝つのはスゴい事だよ!実兎っちゃん!小判ちゃん!板地ちゃん!鬼城ちゃん!明日の戦いは勝てるよ!!作戦は今の戦いを見て私の中で決まったよ」
「おー。早いッスね。どんな作戦なんスか?」
今度は実兎の髪を村鮫がわしゃわしゃと撫でる。実兎はされるがままだ。なれているのだろう。
「秘密だよ!ミーティングで話すさね!だけど、ちょっとかいつまんで言うと、鬼城ちゃんをメインに添えた作戦さ!あの絶対当たる固定砲台をどう使うかが勝利の鍵さ!!」
「あの、どうでもいいですけど、固定砲台って言わないでくれます?棒立ちで撃ってるだけの雑魚みたいなんで……」
鬼城が肩を落としながら小さく抗議するが、誰も聞いてくれない。
「アッハハハハ!!じゃあ一時間後くらいにミーティングスペースに集合で!そこで作戦を伝えるよ!みんな、遅れちゃダメだよ!!」
そう言い離れていく村鮫の後を小判と板地がついていく。
「じゃあまた後で。鬼城。お前なら俺たちの仲間に歓迎だぜ」
「実兎君、鬼城君。見事な作戦でした。この調子で明日は是非勝ちましょう」
実兎と鬼城も歩き出す。だがそれは練習場に向けてだ。
少しでも練習を積み重ねておかないと、明日の勝負に影響する。そういう所は鬼城はストイックだった。
「なぁ、実兎ー。勝てたからチャラにしてやるけどなァ、なんで練習試合で嘘の作戦を俺に伝えた?」
「ああ、どーせ先輩『最初一発撃ったら用済みなんで囮してて下さい』なんて言ったら断るじゃないッスか」
「そりゃ断るよ」
「だから、先輩が要みたいな嘘の作戦伝えたんスよー。大体初心者に命運握らせる訳無いじゃないスか。でも先輩はチョロいんで絶対に信じてくれると信じてたッス!先輩がチョロかったお陰で勝てたんスから、そのチョロさをもっと誇って言いんスよ!!さすチョロッスよ、先輩!!」
ラムネ味のキャンディーをコロコロと舐めながら笑う実兎の笑顔には一切の罪悪感が感じられない。鬼城相手なら何をやっても許されると思っている屈託の無い顔だ。
そんな笑顔をみていると、怒る気も削がれると言うものだ。
「……はぁ、お前、いい性格してるよな」
「先輩の相棒ッスからね。こんぐらいじゃなきゃやってられないッスよ!」
そんな会話を遠し、大変な後輩を持ってしまったなと鬼城は思った。
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