第14話:ロボティクス・コロニー(1)

ワールド『ロボティクス・コロニー』


ここは地球とは違う星、機械惑星オプタ・プライムと言われる場所だ。

金属の石が転がり、機械と融合した動物が闊歩するオプタ・プライムでは古代の人類が残したと言われる沢山の機械資源が眠っている。

そしてその殆どが、この惑星を滅ぼした戦争で使われていたというロボットの部品だ。


オプタ・プライムに住む人々は、数少なくなった人々で身を寄せ合い独自のコロニー(集落)を作り暮らしている。

だがコロニーは決して裕福ではない。この星は既に1度滅んだ星なのだ。だからオプタ・プライムで生き残るには、残されている限り在る資源を、他のコロニーと奪い合い、勝ち取る必要がある!


そしてその闘争に使われるのが過去の戦争で使われたロボットの部品を組み合わせて作る、全高20mを越えるロボット『ドライブアーマー』。


ドライブアーマーを使用して、資源の探索や他コロニーとの戦いを行うのだ。巨大なドライブアーマーに乗り込んで、互いのコロニーの命運を賭けて戦うのだ。



つまりは、ロボティクス・コロニーとは、そんな感じの設定でロボット同士で戦って遊ぶワールドなのである!



そして数有るコロニーの中の1つ『シャーク・ジャック』の入り口に鬼城と実兎は今現在訪れていた。

だが二人の格好は仕事着のスーツではなく、実兎はデニムシャツにショートパンツを合わせたコーデで、鬼城は派手なアロハシャツを来たチンピラ然とした格好をしていた。


「実兎っちゃん!!、待っていたぜ!実兎っちゃんがいないと始まらねーからな!!アッハハハハハ!!」


コロニーの入り口で待ち構えていた強そうな女性が、歩いてきてガシッと実兎と握手する。この女性の名は村鮫。黒鉄夜叉コロニーのリーダーだ。ピンク色の髪の毛で身長190cmを越える背丈でガッシリとした肉体をしている。

頭も回る女性で、やんちゃ者揃いの総勢5名のこのコロニーメンバーをまとめ上げている。

6名しかいないコロニーでは有るが、一人一人が一騎当千の技術を持ち、低人数や1vs1での戦いではそれなりに好成績を残しているチームである。


「鮫ちゃん!頼れる助っ人を連れてきたッスよ。これでバルフレイのコロニーの奴等と戦えるッスよ!」


桃瀬は鬼城を見下ろす。


「助っ人って、そのひょろっちい男か?……実兎っちゃんを疑う訳じゃないが大丈夫なのかい?」


実兎は鬼城の背中をパンと叩く。


「心配無用ッス!鬼城先輩は射撃の天才ッス。絶対戦力になるッスから!!アタシが保証するッスよ!!」


「そうか!信じる!!頼んだよ!鬼城!!アッハハハハハハ!!!」



「タァーーーーーーーーイム!!!!」



鬼城は大声を上げながら実兎を引っ張って村鮫から離れる。


「実兎。話が読めねェんだけど。今日休日だろ?どうしても来てほしいって言うから来たけどよ。何なんだ?俺は何に巻き込まれてんだ?」


鬼城は休日だと言うのに実兎がどうしてもと必死に頼み込んで呼び出すので、正直内心ちょっぴりワクワクしながら来たわけだが、状況を全く読めないこの状況に困惑していた。


実兎は真剣な顔で鬼城と向き合う。


「先輩。このコロニー『シャーク・ジャック』はアタシが所属するコロニーなんスよ。で明日、ライバルのコロニー『バルフレイ』と定例試合があるッス。でもメンバーの1人がどうしても急に出れないって言って来たんスよ。それで、先輩をメンバーにしようと決めたんス」


鬼城は呆れる。実兎は自由気ままな猫の様な奴だ。鬼城の都合などお構いなしだ。


「決めたんスって……それで今日朝っぱらから俺を呼び出したって訳か…………はぁ……」


「……アレ~?もしかして先輩、デートだとでも思ったんスかぁ~!?女子高生に手を出しちゃダメっすよ~!先輩のロリコン~」


「…………」



鬼城は無言で帰ろうとする。

実兎は思いっきり鬼城の袖を引っ張って止める。



「ああ!ごめんなさいッス!!帰らないで!!バルフレイの奴等に負けたく無いんスよー!今5勝5負で、イーブンなんスよ!先輩しか頼れる人いないんスよ~。お願いですから協力してくださいぃー!」


しょうがなく鬼城は足を止める。


「実兎よォ、お前ロボットバトルとか興味あったのか?そんなイメージ無かったけどよ」


「やだなー先輩、知ってるっしょ?アタシは乗り物なら何でも好きなんスよ。バイクでも戦闘機でもヘリでも、もちろんロボットでも!」


「……あー、そういえばお前そんな奴だったな…………ふぅー……まぁ、しゃあねェ。手伝ってやるか」


実兎が鬼城の腕をブンブンと振る。


「なんだかんだ言ってやっぱ先輩優しいッスねェ!!じゃあ戻って話の続きしましょ!!」


実兎に引っ張られて村鮫の元へと戻ってくる。

ロボットバトルというものに鬼城自身も全く興味が無い訳ではないので、参加するのもやぶさかではない。


「で、えーと、村鮫……っつったけか。俺は何をすりゃあいいんだ?」


「まずは、明日の為にドライブアーマーを組み上げてほしい。ウチにあるパーツならなんでも使っていいからさ!!その後で、あと2人のメンバーに紹介するよ!細かい事は実兎っちゃんに聞いとくれ!」


実兎がどんと胸を張る。


「先輩!んじゃあアタシについて来るッス!」


実兎が鬼城の袖を引っ張る。

なんか今日は実兎に引っ張られっぱなしだなと鬼城は思った。



◆◆◆



組み立てガレージに着くと、そこにはいくつもの組み立て途中の巨大なロボット……ドライブアーマーが置いてあった。


「んじゃあ、みんなが使ってない6番ドッグを使うッスかね」


実兎が壁にあるレバーを下げると、6と書いてある巨大な扉が開く。

鬼城は見上げる。中に立っていたのは、なんとも弱そうな骨だけの様なドライブアーマーだった。


「なんかしょっぺェなぁ。こんなのに乗るのかァ?」


「これは礎体ッスよ。ここにパーツをつけてカスタマイズして作り上げるんスよー」


ドッグの中に入ると、二人は色々とボタンやレバー等が取り付けてある机に向かった。

机に表示されている液晶ウィンドウに、現在のドライブアーマーの状態が表示されている。


実兎がウィンドウに表示されている、ドライブアーマーの足をタッチし、四つ足のパーツを選択して決定する。

すると、実際のドライブアーマーに向かって巨大ないくつものアームが動きだし、がちゃんがちゃんと大きな音を出しながら、あっという間にドライブアーマーの足をウィンドウで選んだ足に取り替えてしまった。


「へェー、なるほどな。こいつは面白い。……参考に、実兎、お前はどんなマシンに乗ってんだ?」


「アタシっすか?くふふ、2番ドッグにあるッスよ見てみるッスか?」


二人は6番ドッグを出て2番ドッグを開いた。

2番ドッグにあったドライブアーマーは、スマートな2足歩行で、近接用のレーザーブレードとバルカン砲を装備した、白い機体だった。

モノアイの頭についた、ウサギ耳の様な形をしたアンテナがチャーミングだ。


「おー、なかなかカッコいいじゃねェか」


「でしょー!これがアタシのドライブアーマー、『キラーラビット』ッス!装甲を極限まで削った代わりに最高の運動性能を持ってるッス。4つのブースターで空中動作も完璧な、アタシの操縦技術を最高に活かせるアタシ専用の機体ッスよ!」


鬼城は腕を組ながらタバコの煙を吐く。


「なるほどな、自分の得意分野を活かせる機体にするのが良いって訳だな」


「そうッス!だから先輩なら、先輩のチンピラっぷりが活かせる、最高のチンピラ機体を作るって訳ッスよ!!」


「お前、バカにするのも程々にしろよ……協力するの辞めるぞ」


「くふふ、すまないッス!じゃ、射撃を活かせるドライブアーマーを作るッスよ!」


二人は2番ドッグを閉じると、6番ドッグに戻る。

2人は液晶画面のついた机に向かう。


「先輩は初心者だから、操縦モードは簡単モードで良いとして、射撃操作はポインター型が良いッスかね?」


「ポインター型?」


「操縦席で画面に向かって、撃ちたい場所を銃型のデバイスで指定する方式ッス」


「そんなのがあるのか、じゃそれで頼むわ。それなら俺の射撃の腕を活かせるって訳だな」


実兎は机のウィンドウを操作する。巨大なアームが機体を改造し始める。


「じゃあ先輩、頭、胴体、両腕、両足、右手武器、左手武器、アシスト装備もろもろを決めるッス……はい、これがカタログッス」


実兎は亜空間から取り出した本を鬼城に渡す。

このコロニーのパーツカタログだ。シャーク・ジャックが集めたパーツのデータが事細かに書いてある。

鬼城は本をペラペラとめくって読み始める。


「本格的だなァ…………ん、ナマコヘッドとかあるけど、こりゃなんだ」


「ナマコの機能を持つヘッドパーツッスよ。ピンチになると内蔵を吐き出すッス。ナマコアームやナマコボディも同じ機能があるッス。でもめっちゃ弱いッスから使っちゃダメッスよ」


「……使わねーよ……こりゃあしっかりと選ぶ必要があるな……」



鬼城はカタログを眺めながら吟味し始めた。




◆◆◆




「よーしこんな所か!」


鬼城はパーツを組み合わせ完成した機体を眺める。

実兎はウィンドウでパーツを確認する。


ヘッドパーツ :システムアイXI (レーダー等の特殊な機能は無いが綺麗に広範囲が見える頭部)

ボディパーツ :ゴライアス (分厚い装甲で、全体のパワーが上がる体)

アームパーツ :ショットハンド7 (腕力は少ない分、繊細な動きを得意とする腕)

レッグパーツ :スタンドインセクトR (6本足で安定感が高く、移動は遅いが重い装備も可能な足)

ライトウェポン:スナイパーキャノン5ーNH (長距離砲撃を可能とする重キャノン砲)

レフトウェポン:スナイパーキャノン5ーNH (同上)

アシスト装備A:リロードアシスト (武器の弾をリロードする速度が上がる補助装備)

アシスト装備B:反動吸収装置(銃の反動が小さくなる補助装備)


実兎はポリポリと頭をかく。


「先輩、武器が重キャノン砲2個しか無いんスけど。これ、スナイパーライフル二丁持ちみたいなもんスよ……」


「そうだぜ。ロマンがあるだろ……!」


「アシスト装備も地雷とかミサイルとか出来るッスよ?……これだとホントにキャノン砲しか撃て無いッスよ?」


「そうだぜ。ロマンがあるだろ……!」


実兎は鬼城の顔を除き込む。その顔は実に楽しそうだ。

この男はキャノン砲を撃つことしか考えていない。ド派手な武器を撃ちまくりたくてしょうがないといった顔だ。

このようなロマン全降りなビルドは初心者にありがちだ。バランスと言うものを全く考えていないのだ。


そして狙撃型の機体だと言うのに全身真っ赤で、所々が金色に輝く装飾さえついており、隠れる気などさらさら無い姿だ。

両腕に持つ巨大なキャノン砲に限っては完璧に金ピカで、6本足なのもあいまって、『なんか毒のある虫』といった風体だ。

そしてボディには『烈怒騎眼羅(レッドキメラ)』と墨でデカデカと書かれていた。


「……前から思ってましたけど、先輩の美的センスって致命的っつーか、スゲーヤバイッスよね……」


「だろ!どこからどう見ても最強にカッコいいだろ!烈怒騎眼羅……イカすぜ……」


そんな事を話し合っていると、ドッグの後ろから声がした。


「アッハハハハハハハハ!!思いきったドライブアーマーを作ったね鬼城ちゃん!」


二人は声に振り向く。

村鮫だ。そしてその隣には気の強そうな綺麗な女性と、可愛らしい見た目の栗毛の幼い男の子がいた。


「紹介するよ!ウチのメンバーだ。小判(こばん)と板地(いたち)だ。アッハハハ!!」


鬼城は別に面白くも無いが、村鮫につられて軽く笑ってしまう。

それを見た赤い髪をした女性、小判が突っかかる。


「アンタが、実兎ちゃんが連れてきたって言う助っ人か?なーんか、柄が悪いなァ。ドライブアーマーだっさ!」


「小判さん、失礼ですよ。板地と言います。どうぞよろしくお願いしますね」


鬼城は背を屈めてメンバーをまじまじと眺める。普通にチームメンバーを観察しているだけだが、端から見るとガンを飛ばしているようにしか見えない。


「俺は、臨時で明日の……えーと、バルフレイだっけか……との戦いに参加する、鬼城ってモンだ。よろしく」


「アッハハハハハハ!挨拶はすんだかい!じゃあちょっと、ためしに模擬戦闘でもしてみるか!!じゃあ3時間後、実兎&鬼城と小判&板地でコンビを組んで、旧市街地エリアで戦闘を開始するよ!!」


鬼城は村鮫の有無を言わさぬ勢いに気圧されて頷いてしまった。実兎は慣れているのかいつも通りヘラヘラしている。

小判がポキポキと指を鳴らす。


「上等じゃねーか!お前の実力みさせてもらうぜ!やっちまおうぜ板地」


「小判は血の気が多いですね。ですが、一時的とは言え私たちの仲間になるのです。本気で行きますよ」


二人は鬼城に宣戦布告をすると、去っていった。


「アッハハハハハハ!!じゃあ3時間の間に、操縦に慣れておくんだね!まぁ、あの2人は強いから負けても気にしちゃダメさね!アッハハハハハハ!!」


笑い声と共にそう言い残し、村鮫もその場を後にした。

村鮫の事を竜巻みたいな人だなぁと、あっけにとられていた鬼城に対し実兎が話しかける。


「先輩!早速練習を始めましょう!あのジーサンズは強いッスよ!」


「ジーサンズ?」


実兎が何を言っているのか解らず、鬼城は首をかしげる。


「ああ、小判さんも板地さんも、若い女性と幼い子供って見た目してるッスけど、死ぬ前はどっちも80越えたジーサンです。重機メーカーの先輩後輩だとか……彼らは強いッス。油断禁物ッスよ!」


「はは、それでジーサンズね……でも、なんつーか、やる気が出てきたぜ……」


誰であろうと相手が強いと言われたら、燃えてくるのが単純な鬼城という男だ。



早速、鬼城は作りたての烈怒騎眼羅に乗り込み、実兎が乗り込んだキラーラビットに先導され、訓練場へと出撃を開始した。

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