第7話 それで苦手なの?

「シエン。かわいい顔をしてるんだからたまには兜をとれよ。」


 シエンは跪き、


「主がそう仰るならば…」


 こいつはお硬い変態だな。

 

 少しはラスピリを見習え…いやあそこまでいったらダメだな。

 イラッとするから。

 ユアは初めてシエンの顔を見たからか、興味津々に兜を覗こうとしている。


 シェルはニコニコしながら、


「おと様と色んな所に行って想い出をつくるの楽しみです!」


 うわっ!

 何この子?超可愛いんですけど。

 

 これはもう全世界回って想い出を作ろうと言ってるよ。


「ユア!シエン!支度をしろ!エグゼに早く向かうぞ!」


 ユアはシエンの兜を外そうとするのをやめ、

 シエンは抵抗するのをやめ、


「「仰せのままに」」


 エグゼを観光して想い出を作っ…

 違う違う。ついでに情報がいるんだった。


「準備が整いました。」


 はやっ!え?荷物持ってないじゃん。

 近いのかな?


「必要なものは亜空間に収納したので、荷物はありませんよ。ワイバーンをここへ!」


 ユアは手をパンパンと叩きながらメイドに指示を出す。

 

 シェルと空の旅かぁ…一緒に乗ろ。

 オークメイドが連れてきたワイバーンは4体…

 

 またお前かよ!さっきの猫耳どこ行った?


 てかなんで人数分なんだよ…察しろよ…


「ワイバーンは三体で良くないか?多すぎても邪魔になるかもしれん」


 ユアはそうでございますねと少し喜びながら、ワイバーンを一体下げさした。

 

 よし!行くか!

 横を見るとシェルがいる。ん?

 後ろを見るとユアが乗っている。

 なんでお前だよ!

 違うだろ!そこは親子がいるんだから後ろはシェルだろ。空気読めよ!


 あぁだからさっき喜んだのな。

 ユアを降ろすと少し寂しげだった。

 シェルに手を伸ばすとシエンが手を握る。


「後ろ…失礼します。」


 だからなんでお前なんだよ!

 シエンの奴は確信犯だろ?絶対に確信犯だな。

 空気読めない奴多すぎ…もう無法地帯だよ。

 

 シエンも後ろから降ろし、

 シェルを俺の前に乗せる。

 後ろよりかは安心だろ。


「今度こそ出発ー!」


 エグゼは北西に2日ほど行ったとこらしい。

ワイバーンなら1日で着くな。

 

 エグゼに着くまで空の旅を満喫しよう。

 と思ったが、


「おと様?」


 ん?いかんいかん。寝そうだったな。


「あの…おか様はいないんですか?」


 え…そういえばそうだな… 

 気にも止めなかったが、シェルの母は誰なんだ?

 シェルの腕の中にいるラスピリが口を開く。


「シェルちゃんの母親はもういないですよ。亡くなりましたから。あんまりいい話しではないので深く聞かないで下さい。」


 そうだったか…

 シェルにはお父さんがいるから。

 何があっても守るから。

 シェルからお腹の音が聞こえてくる。


「おい!飯にしよう!下に降りるぞ」


 荒野に降り立つが近くに小さな川が流れていた。

 

「まずは俺が何かしら狩ってこよう。準備しといてくれ」


「エミル様。料理は出来ておりますよ」

 

 ユアは亜空間から出来たての料理を取り出す。

 便利すぎじゃない?

 

 地面に料理を置いていくユア。


「シエン。兜をとらんと飯が食えんぞ?」


 シエンはしぶしぶ兜を脱ぎ後ろを向いて手で掴み食べだす。

 それを見てユアがシエンを怒る。

 

「ちゃんと手を洗ったの?お腹壊してもしらないわよ。」


 うん…手を洗うのは大事だよ?

 でも今は後ろを向いてるのを注意しようよ…

 一応、俺が主なんだろ?

 

「あ、洗ったもん…!」


 シエンはそう言うと川に向かって走り出す。

 なんか…かわいいな。

 みんなまだまだ子供っぽいな。

 ユアもしっかりして見えるが俺からしたらまだ子供だ。


 シエンは戻ってくるとモジモジしながら食事を一緒にとりだす。

 これからは少しずつでも慣れてくれればいいな。


 軽く食事を済ませ、またワイバーンで飛び立つ。


「あと半刻ほどでエグゼ領内に入ります。一応注意を為さって下さい。」


 下を見ると、剣山地帯があり、無数の人々が突き刺さっている。

 近くには鬼がいて、剣山を登らない者には容赦なく金棒を叩きつけている。


 ここは地獄だったな…忘れていたよ。


 突如として剣山の麓から光が走り何かが飛んできた。

 それも一つや二つではない。

 地面から空に向けて、雨が上るように。


 しかし、俺の乗っているワイバーンの前で弾ける様に次々と消滅していく。

 ユアとシエンの方にも飛んでいくが、全てが消滅する。

 

 これはユアが張った結界魔法か…

 

 しかし、攻撃を受けるとは、もう追手がきたのか?

 今の攻撃の量が多いということは、それなりの人数が隠れてるな…一応、どんな奴らか確認しとくか。


 ユアは主を攻撃されたことに対し、平常心を失い怒りの顔になる。

 両手を前に付き出し魔法を繰り出す。


「悠然たる自然の王よ。炎で道を切り開き導け!紫艶たる王イグニート


 何もなかった空に亀裂が走り、紫焔の魔人が現れると、剣山の麓に降り立ち暴れ出す。


 体は紫の炎で構成され触れるもの全てを紫炎で焼き、息を吐けば広範囲に炎を繰り出す。


 さっきまで剣山を登っていた者や罰を与えていた鬼や攻撃を仕掛けてきたであろう者達も一通り殲滅したら粒子になり消えてなくなった。

 

「ふぅ。スッキリした。」

 

  

 やり切った顔してんな…

 どんな奴らか確認したかったのに…

 でもさすがに強いな。

 ルインの弟子だけあって強力な魔法が使える。


「私魔法は使えるのですが少し苦手なんですよね。詠唱破棄も出来ないし。師匠に似たのかな?フフッ」


 


 えっ?ユアの師匠ってルインだよね?

 詠唱破棄をするバリバリの魔導士だったと思うけど…?

 聞き間違えかな?

 この分だとシエンもかなり強いだろうな。

 シエンをチラリと見ると、


「主…人前でいやらしい目で見てくるのは…二人きりの時だけにして下さい。」


 そんな目で見てねぇよ!

 チラッと見ただけじゃん!

 もしかして、みんな癖が強いのかな?

 この先不安になってくるわ…

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