第6話 ん〜キャッツ

「エミル…エミル…私がわかりますか…」


 んん…なんだ…?

 誰が喋ってる…?


「ここは貴方の夢の中です。そのまま目を閉じたまま話しを聞いてください。あの…」


 だから誰なんだよ。


「私は…昔あなたが愛した女…でもなんでもいいです。とにかく話しを…」


 えらい適当だなっ!

 怪しさ満点じゃねぇか!


「いやいやそんな事はありませんよ!名前は…エ、エンビでいいです。」


 今、作ったろ?

 いいですってなんだよ!

 くそ…目を開けてやる…


「あぁーまだダメです!」


 目を開けると耳元でボソボソ喋っているラスピリがいる。

 お前かい!

 なんて手のこんだやり方をするんだ。

 今のは本当に寝てる最中だったからな。

 精神干渉魔法か?

 ラスピリは、舌打ちをして、飛び去ろうとしている。


「ちょっと待たんかい!」


 逃げるラスピリを手で押さえつける。


「私がかわいいからって力で押さえつけてもダメですよ!そんなに安い女じゃありませんから!」


 何を勘違いしてんだよ!こいつ!


 隣で寝ていたと思っていたシェルがジーと軽蔑の眼差しで見ている。 

 

 いやお父さん悪くないからね?

 変な誤解はやめてね?

 まずはその目からやめてもらってもいいかな?


 ラスピリから手を離すと飛び上がりシェルの肩にチョコんと乗り話し出す。

 

「夢の話しの続きを言いますよ。聞きたいですか?」


 いや聞いてほしいんなら早く言えよ。

 どっちにしろ言いたいんだろ?


「あぁ…聞きたいよ」


 そうですか!と嬉しそうに胸を張る。

 面倒くさい奴だな…


「『暗黒星雲ダークネビュラス』の方を探した方がいいと思うんです。」


 昨日ユアに言われてわかってるよ…

 地獄道にはいないんだろ?


「それで畜生道に1人いる事がわかりました。出来るだけ早く戦力増強した方がいいと思うんです。」


 これはすごい…意外にできる妖精じゃないか…


「確かに、お尋ね者だからな。どこにいても安心はできんから戦力はほしいな…ところで…なぜ畜生道にいるとわかった?」


 ラスピリはドキっとした表情になり少し目が泳ぐ。


「いや…なんとなく…いるんじゃにゃいかな〜なんて…」


 あっ…噛んだ…こいつ嘘をつけないタイプだな。

 

「隠し事の1つや2つ誰にでもあるだろうから深くは聞かんが裏切りだけはするなよ?」


 目に力が入る俺を見てラスピリはうんうんと首を縦に振る。


「主…おはようございます…お食事の用意ができております」


 うん。変態騎士シエンか…

 シェルと顔などを洗いに行き食事場へ向かう。


「おはようございます。エミル様。」


 ユアはにこにこ笑顔で言ってくる。

 何かいいことでもあったのか?

 オークのメイドと思いきや、猫耳のキャッツという種族のメイドが料理をテーブルに置いていく。

 普通のメイドいるじゃん!

 オークメイドいらないだろ!


 シェルがガン見している。

 

「おと様の好みはあんな感じですか?」


 な、なにを言ってるんだ!この子は。

 じっと見てただけでそんなことはないと言う。

 シェルだけのお父さんだから。

 ユアはそれを聞いて笑顔のままメイド達に早く下がりなさいという。


 いや、俺は何もしないからね?

 おじさん危なくないからね?

 昨日までは下半身、ポロンとはみ出してたけど、もう出てないからね?


「飯を食いながら聞いてくれ。急な話になるんだが、畜生道に行こうと思う。仲間の1人がいるらしいからな。」


「その提案には賛成ですが、その情報はどこから?」


 ユアは昨日まで何も知らなかったエミルの情報元が気になった。


「ラスピリからだが…まぁ深くは聞いてやるな。」


 それを聞き、ユアは今までの事を思案する。


 ルイン様に接触して来た時、この妖精は怪しいと思っていた。

 だがルイン様達は一か八かの博打でラスピリの案に乗り、そしてラスピリが持ってきた情報は全て正しかった…

 エミル様の封印場所も知り、解除も恐らくはラスピリがやった事なのだろう…

 

 だが聞いた話ではあの封印術は神などの犠牲により、やっと出来たと聞いた。

 それをただの妖精に解くなど不可能だ…

 

 そして…エミル様に『娘』がいるという事。

 封印される前にそんな話しは聞いたことがなかった…

 しかし、シェル様という娘がエミル様の側にいた…

 エミル様に似た力を娘から感じるのは事実。

 

 このラスピリとシェル様は一体何者…?


 何が目的…?


 しかし今は、分からないことを考えてもしょうがないか。

 エミル様はシェル様を可愛がってるし。

 

 あの方々さえ集まってくれれば不安もなくなるだろう。


「そうですか…ラスピリが持ってきた情報なら正しいでしょうね。ただ畜生道に行くのは時間がかかるかも知れないですね。」


 ユアは畜生道に行く方法だけじゃなく世界の渡り方をを教えてくれる。

 

 天道と地獄道以外の4つの世界は100年毎に入れ替わりがある。

 それは最初に世界を造った時に基準が設けられ、それに従い世界自身が入れ替わりを行うのだ。


 4つの世界は入り口さえ見つければ、行く事はできるが、地獄道から行けるのは1つ上の世界だけ。

 天道の場合は1つ下の世界だけ。


 今は畜生道が1つ上の世界だから行く事はできるが、その他3つの世界に任意に渡ることは出来ない。


 そして世界の入れ替わりが起こる度に入り口の場所は変わるらしい。

 

 そして今は入れ替わりが起こったばかりで入り口がわからないらしい。


「なるほど…面倒だな。まずは入り口を見つけんと話にならんな。何かわからんか?」


「残念ですが街などに行き、情報を集めるしかないかと…地獄道も広いですから歩き回って探すとなると、また世界の入れ替わりが起こるだけの時間が掛かりますゆえ。」


 まぁそうなるわな。

 ただあまりに悠長にしてると追手が来た時まずい。


「まずはここから北西にある『紅蓮の都エグゼ』に参ってはどうでしょうか?『十王』の一人が統治していますが多分、見つかっても大丈夫でしょう。」


 十王?そんなのがいるのか…

 出来るだけ会わないようにしないとな。



「ではそれで行こう。その前にシエン…兜を脱いで姿を見せろ。気になってしょうがない。」


 シエンは突然の事に驚く。


「鎧を脱ぐので兜は…」


 なんで顔より体を見せようとするんだよ!

 いや確かにいい体はしてたんだが…

 いや考えるな…

 シェルに見つかる…


「どうやって飯食ってるんだよ?兜脱がんと食えれんぞ?」


 シエンの兜はフルフェイスだ。


「あんまり人に見せれるような顔ではないので…食べている時に見られた場合は速やかに排除しています。」


 こいつ危なすぎだろ。

 飯食ってるの見ただけで殺されるとか…

 改めてシエンを見るとこいつの鎧は呪印が施されてるな。

 エルドラほどじゃないが禍々しい黒いオーラが鎧から滲み出てるな…

 

 シエンの前まで行き、兜に手をかける。

 シエンも必死に手を掴み抵抗する。


「鎧を脱ぎますから!鎧で勘弁を!」


 なんか俺が恥ずかしくなってくるからやめて?

 シェルが少し軽蔑の目で見てるから。

 そんなに変な顔なのか?

 興味で心が躍る。


 無理やり兜を引っ剥がすと、黒く長い髪とシエンのかわいい顔が現れた。

 あれ?普通にかわいいんだが…

 右の目元に、切り傷があるがそれでもかわいい。

 シェルには負けるがな!

 シエンは恥ずかしそうに顔を手で覆い隠す。


「あ、主…返して下さい〜。兜は〜ダメなんです〜」


 あれ?なんかさっきと別人のようだ。

 すごいモジモジしてんだけど…

 しょうがないから兜を返すと、


「主…お戯れはおやめください。」


 兜被ったらすっげー堂々とすんのな。

 面白い発見をしてしまったかもしれないな。

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