第2話 外に出られたけど

「もうすぐ出口です!外に出れば転移ゲートが使えます。」


 ルインはそう言うがもう少しの所で足が止まる。

 

「何事かと思えばなぜ封印が解けている…」


 おいおいまだ居るのかよ。


「エミル様はお下がりを。こんな下賤な鬼は私一人で充分ですので。」


「んん?そこにいるのは『暴虐の魔女』か?」


 第4鬼神、鷗外おうがいだ。

 体は小さいが欧図よりも高い魔力を感じる。


「お前ら『暗黒星雲ダークネビュラス』だけは『6度目の転生』を絶対に阻止せよとの事だからな!魂ごと消滅させてくれるわ!」


 鷗外は自分に結界を張り魔法の詠唱を始める。

 それを見ながらラスピリは考えを巡らしていた。

 

 『今の』私は戦闘に向いてない…

 

 ルインにはかつての力はないはず…

 

 今のエミルさんは…多分使えないかな…


 鷗外に勝つには…

 

 もぉ。倒せなくてもここさえ脱出できればあとはどうにでもなるのに…

 

 ルインも鷗外に合わせ動いていた。


「早くエミル様をここから出さなければ…この場だけでいいから…『羅生門アビスゲート』」


 巨大な魔法陣が床と天井に浮かび上がる。

 そこには邪悪な門が空間を割り出来上がる。

 

「なっ!羅生門アビスゲートだと!なぜお前がそれを使える!」


「私の生命力と引き換えならばお前ごとき敵ではないわ!ここで死しても私の魂は常にエミル様と共にある」


 門が開くと中には虚無に似た世界が広がっている。

 

 書物で見た鷗外にはこれがどんな魔法かわかっていた。

 

 使える者は主の閻魔王えんまおうだけだと思っていたのだが目の前で己に対していま使われている。


 生還することは出来ないと悟り、せめて道連れにしようと結界を解除し、ルインに手を伸ばす鷗外だが、門の中からは早くこちらに来いと言わんばかりの禍々しい死人の手が伸びて来る。


 体を手で絡め取られると鷗外から生気を奪っていく。

 それでも抵抗していたが、門の中から巨大な槍が飛んできて鷗外の背中から胸にかけて突き刺さる。


 門の奥から3mを越す番人と思わしき首のない者が巨大な斧を引きずりながらゆっくりと歩いてくる。


 番人は腰に布を巻いている格好だが鋼のように硬そうな体は真っ黒に黒光りしている。


 足首には鎖が嵌められており、鎖の先にはいくつもの頭蓋骨がカラカラと笑い声を上げながら引きずられている。


 番人は鷗外の横に立つと斧を振りかぶり首目掛けて振り下ろす。


 ドスン!

 音と共に鷗外の首が床に転がる。

 番人は鷗外の頭を鎖に繋ぐと鷗外の頭から笑い声だけが上がった。


 体からは魂が這い出てきたが、亡者の手に絡め取られ無限の闇に吸い込まれていった。


「エミル様…申し訳あり…ませんが外まで…連れてってくれませんか?」


 息が荒く苦しそうなルインが頼んでくる。


「わかった。よく頑張ってくれたな。」


 ルインをお姫様抱っこをして外に連れて行く。

 恥ずかしそうな嬉しそうなそんな顔をしながらルインは息を整えていく。


 そして外につくがやはり敵がそこら中にいる。

 こっちに向かってくるがルインがすぐに結界を張り、転移ゲートを出す。


「力が足りなくどこに繋がっているかわかりません。ですがすぐに迎えの者が現れます。私はエルドラを待ってから追いかけますので…どうかご無事で…」


 周りに敵がいるのに弱った女の子を置いて行くのは気が引けるな…エルドラも心配だし…


 そんな事を考え躊躇していると、ルインの思いを感じ取ったのか後ろからシェルが思い切り蹴つってきてゲートに転がるように入った。


 ルインはゲートを閉じると先程のことを嬉しそうに思い出しながら深い眠りにつく。


 エルドラ同様に黒い光と共にローブを残し空へと消えて行った。



 ゲートから転がり出ると口と鼻に温かい水が入り苦しい。

 

「溺れるわ!」


 周りを見渡すと裸の女達が驚いたようにこっちを見ている…


 あれ?楽園に到着かな?ルインの奴…いい奴だな…

 

 キャーと叫び声が上がるもんだから、また敵か?と身構えたが周りの女達が俺に集まり殴る蹴るの暴行だ。

 

 それもそうか…俺は布切れ一枚巻いてるだけだし…

 そもそも下からはみ出てるもんな…

 

「おと様のえっちぃ〜」


 シェルは軽蔑の眼差しで見てくる。

 父をそんな目で見るんじゃありません!


 その場から逃げるように3人で外に走り出し、やはり俺は気になる事がある。


「ルインとエルドラは大丈夫かな…」


「あの二人の強さはさっき見たでしょう!大丈夫ですから今は自分の事を考えて下さい!」


 確かに二人は強かったが…

 だがラスピリが言う事も正しい…

 心配したからと言っても俺にはどうする事もできないのだ。


 それはそうと、


「なんで俺は布切れ一枚なんだよ!シェルが着てる物もボロボロだし…」


「多分服が必要かなってエミルさんの所に行くときに拾って来たんですよ!感謝して下さい。」


 胸を張り自慢げなラスピリ。

 

 ただのゴミじゃねぇか!

 なんか臭いと思ったよ!

 シェルが匂いを感じ取ったのか俺から少し離れる。

 俺だけが臭い訳じゃないからね…

 シェルが着てる物もゴミだから…臭いからね…


「ここはどこなんだろうな?」


「はっきり言ってここはわかりません!えっへん!でも『地獄道』のどこかでしょうね。転移ゲートで世界を渡ることは出来ませんから。」


 ふーむ…色々聞きたいことがあるな…

 なんでわからんのにドヤ顔なんだよとか…

 

 外に出れたら教えてくれるというものをまずは聞いていくか。



 ここは六道輪廻の地獄道という六つある世界の一番下。

 他にも天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道がある。


 通常死んだ者は天道か地獄道に送られ審判を受ける事になる。


 どちらの元に行けるかは運次第。


 魂の運び屋と呼ばれる者がいてそれは天道か地獄道に属している。


 早く言えば早い者勝ちというやつだ。


 稀に魂の奪い合いがあるらしいが…

 

 基本的に地獄に連れて来られたら終わりと思えばいいかも知れない。


 天道に行き、善行が一定以上あれば転生を許されるが6度の転生は極めて稀だ。


 それはなぜか?


 輪廻転生を6度した者は神々や地獄の最高位の鬼達に次ぐ力を得るとされている。


 そして…例外が起こった。


 天道や地獄道に連れて行かれず輪廻転生する者が現れたのだ。

 

 6度目の輪廻転生をしたその者は通常の転生者をはるかに上回る力があり、善の心などはなく、冷酷、残忍、無慈悲で破壊の限りを尽くした。


 その者には好んで使う技があり、神々はそれに因んで『黒き一閃』と呼び、頭を抱えていた。


 そしてその者には7人の付き従う配下がいた。


 その7人の事は地獄の者達が最初に言ったとされている。

 恐怖の象徴『暗黒星雲ダークネビュラス』と。


 天道と地獄道はそれまで干渉しなかったのだが、これにより共闘することになるが…

 圧倒的な『黒き一閃』を滅する事が出来なかった。


 だがある事で『黒き一閃』を地獄道の最深部に封印する事に成功したらしい。


 これが今からちょうど1000年前の話だ。

  

 それが俺か…全然しっくりこない。

 お伽話みたいだな…

  

 どうやって俺を封印した?

 

 色々と抜けている所が多いが…

 

 ラスピリは何かを隠してないか?


 今は考えてもわからんな…

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