黒き一閃〜俺と娘と六道輪廻〜
鳴神 底辺
第1話 知らない奴に起こされた
「お…さ…おと…ま……おと様!起きて!」
体が重い…耳元でうるさい声が聞こえる…
重いまぶたをゆっくりと開くと、汚いボロ布を着ているかわいらしい少女が俺の上で小踊りしている。
重いはずだ…体の上で踊られたら…ん…?
「うおぃ!人の上で踊るんじゃねぇ!」
驚きながら飛び上がると少女もびっくりしたように飛び降りる。
少女とはまた違う声がする。
「やっとお目覚めですか?準備を早く!」
耳元でパタパタと羽音の様な音をさせながら急かしてくる。
「お前たちは誰だ?」
男は辺りを見回すと大体、5歳くらいのボロ布を着た少女と手の平サイズのオシャレな妖精?ぽいものがそこにいた。
なんで俺は下にボロ切れを巻いてるだけなんだよ。
座ってても立ち上がっても見えちゃうよ。
正座しても…ダメだな…
いや、そんな事より、ここはどこだ?遠くからも声がするな…
妖精?ぽいものが前に出て腕を組みながら、
「お答えしましょう。私は妖精族のラスピリです。この子はあなたの娘さんのシェルちゃんですよ〜。エッヘン。そんな事より早く行きますよ!」
えっ?なにこのドヤ顔…超むかつくんですけど…
しかもこいつのほうが良いもの着てるし。
それに早くって…
いやここは我慢して、
「あぁ〜シェルな。知ってる知ってる。娘だもん。知らないほうがおかしいよねぇ〜。お前は知らんけどな」
何も思い出せない…
娘の事も…自分自身さえも…
でも話を合わせないとシェルがかわいそうだ。
自分は覚えてるのにお父さんは覚えてないとか多分、俺なら枕を濡らすだろうからな。
「おと様、私の事知ってるんですか?私はラスピリに聞くまで知らなかったです」
知らんかったんかい!
枕!枕どこ?
あれ?ってことは妖精以外、記憶喪失というやつかな?
ラスピリの知ってる事の説明を求めると、まずはここから出れたら話しをするとの事。
さっきから遠くで聞こえていた声が近づいてくる。
その姿は魔女っぽい見た目の女と黒の鎧を着た髭を生やした騎士だ。
二人は俺の目の前に来ると跪き、
「エミル様。お久しぶりでございます。すみませんが時間がありません。すぐにここを出ましょう。」
魔女っぽい女が話していると、二人の後から、黒のローブを羽織り、下半身はなく宙に浮いているスケルトン達も追って来ていた。その手には命を刈り取りそうな鎌を握りしめて。
騎士はスケルトンの群れの前に立ち塞がり、身の丈ほどもある大剣を敵に向かって突き出す。
「
闇が敵全体に覆い被さる様に襲いかかり、ドーム状に膨れ上がりスケルトンを包み込む。
中からは暴れているような音が聞こえてくる。
「主よ。長くは持ちません。急ぎましょう」
騎士は出口の方向へ誘導しながら走り出す。
もう何が何やらわからんな…まぁ仲間みたいだし、ついて行くか。
長い回廊を登っていくが、さっきのスケルトンとはまた違う鎧を着たスケルトンやガタイのいい鬼などが上から降りて来る。
ラスピリが魔女に向かって、
「転移魔法で一気に出れないの?これじゃあキリがないよ…」
「今は使えないわ。移動系の魔法は結界で阻まれてるから。そんな事当たり前でしょ」
ラスピリは叱られショボンと肩を落とす。
そんな会話を余所に騎士が次々と現れる敵を斬り伏せていく。
やっと出口か?明るくなってきたぞ?
「まさかこの時を狙ってやってくるとは…なぜここだとわかった?」
回廊を登りきると広間に出てきた。
5メートル近くはありそうな体格のいい鬼が話しかけてくる。
「第5鬼神…
ラスピリはそう叫ぶと防御魔法をかけてくれる。
逃げる?仲間なんだろ?
仲間を置いて逃げるようなクズになる気はないわ!
「エミル!貴様だけは逃がすわけにはいかんわー!」
欧図はエミルに襲いかかる。
拳での渾身の一撃を繰り出すが騎士が間に入り、その大剣で受け止める。
「我が主に無礼を働いたこと…万死に値する!」
騎士の大剣が猛威を奮いながら攻撃をするが、欧図も拳で弾き返す一進一退の攻防だ。
大剣で打ち合うたびに騎士から出ていた黒いオーラが濃く禍々しくなっていく。
鬼神もそれに気づき不味いといった様子で全身の闘気を拳に集め、決着を早めようと行動に移す。
騎士は魔女に目で合図をし、魔女は即座に周りに結界魔法を張るがその顔は少し寂しそうだった。
「そろそろ終いにする…
全身の黒いオーラが欧図目掛けて襲い掛かる。
黒いオーラは欧図の体に纏わりつき蝕んでいく。
振り払おうと拳に集めた闘気を全身に巡らせ抗うが侵食は進み、やがて肉は腐り地に落ちていく。
欧図は魂だけになり逃げようとするが、
騎士の必殺の一撃は魂をも侵食し腐らせ塵にした。
欧図の周りは全て朽ち果てていた。
魔女が張っていた結界すらも侵食され、いつ割れてもおかしくないほどだった。
戦いが終わり膝をつく騎士に駆け寄る。
「主…少し休み後で追いかけます…ルイン…主を頼むぞ…」
「お疲れ様、エルドラ。」
ルインと呼ばれた魔女は一言、騎士に声をかけ出口に向かって誘導する。
「エルドラ…と言ったか?ありがとな。また後で会おう。」
ルインの方にシェルと向かう。
「主は記憶を無くされてるのか…?でもありがと…か…フフッ」
疲れたという様子で深く眠るように目を閉じると、エルドラの体は黒い光と共に空へと消える。
残った鎧は儚く音を立て床に転がった…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます