それ本当に弾けるの?
こんにちは。連休と世間では言っておりますが休みが皆無の蜜柑桜です(若干疲れている)。
前回の執筆ノート反省会で、ブルーノート(音の色)→描写における色(視覚)、を含めて主人公の五巻と物語描写の話を書きましたが、これはフィンディルさんに指摘されたことを考えて、でした。
「描写のための描写」ならいらない。
感情を表すような描写をしよう。ということで、今回は明子視点なので、お店の中の情景が彼女の目にどう映るのか、それがどう変わるのかを、視覚から表現してみたいと思った次第です。
さて、第一回初夏色反省会で買ってきた楽譜はどうなったのかというと、です。
なぜ買ってきたのかといえば、理由の一つは演奏の身体描写と物語を作る上での事実検証でした。智昭は楽譜を持っている=ソロは弾いたことがある、だから問題ありませんが、明子はどの程度、初見で弾けるのか。また、二人の連弾はどこまで可能なのか。
譜読み及び自分で弾いてみて、ボツにした設定があります。それは、当初は連弾において智昭にピアノ二段スコアの下段、明子に上段を弾いてもらおうと思っていました。
端的にいえば、「それ弾けない」、です。
実際に楽譜を開いてみると、上段に非常に複雑な和音が並んでいる場合、これを両手に分けて弾こうというのは片手で弾くより難しいです。
そもそも片手で弾く前提な上、ガーシュウィン自身がピアニストであるからでしょう。複雑な和音は実に片手ので掴む指の動きにあっている。むしろ分割しちゃう方が指の動きが不自然で弾きにくい。
また、両手が連動しているところが多いので、左手が上段に食い込んでくるんですね。下段の音符との繋がりがあるため、上段を明子、下段を智昭、は棄却。
もう一つの問題は、初見の明子がどこまで弾けるか。
音大生という前提がある以上、初見でもそれなりに弾けます。聞いたことがある曲なら尚更です。
ただ、実際にクラシックの音階や和音、リズムに慣れていると、ガーシュウィンの当該曲はまさに間に入ってくるブルーノートと民族リズムが、クラシックには異色。
音楽演奏の経験がある方は納得していただけると思いますが、歌にしろ楽器にしろ、普段慣れている曲だと、どういうふうに音が進むか(=指が進むか)予測がつく上に、無意識にその予測に従おうとしてしまいます(本人の力量にもよります)。するとクラシックに慣れている明子の場合、ブルーノートや民族リズムは指が「転ぶ」のです。つい普段のメジャーまたはマイナー進行を取りそうになってしまう。従って、先に書いた和音演奏は無理。
ただし、弾けるところもかなりある。私自身も初見でこの難曲は弾けませんが、単音のメロディーやさほど音の多くない和音なら複雑でもある程度弾けます。これは「ラプソディ・イン・ブルー」を耳で聞いて知っているからです。聴覚による記憶から、音の進行を予測して耳を動かせます。
この点に関して気になったので、ゆあんさんに「智昭の聞かせてくれた曲を明子が知っていても問題ないか」と質問。OKが出ました。
その結果、明子が弾くのは「上声単旋律、弾けるところだけでいい」になる。
さらに上声単旋律だけ弾いていると、物足りなくなります。従って簡単な和音進行は弾きたくなります。あと上段を両手で弾いた方が体のリズムがつけやすいところがあります。この身体性は文章に活かせる。
また、音がやたら飛びますので、ソロの場合は両手が交差することもしばしば。智昭には明子の手を超えてもらいます。
音域内を下から上へと移動するところも使える。アルペジオ(=分散和音)はパターン化しているので、細かい音符でも弾きやすい場合があるのです。そのケースは、下だけ智昭、上段にうつったら明子、と受け渡しができます。
などなど……実際に「弾けるのか」という点、弾くとしたら「どういうスタイルでなら弾けるのか」を確認したくて、そのために楽譜が必要でした。
ペダルを智昭に担当させたのは、両者の密接度具合ですね。
ちなみに連弾というものは一緒に弾く男女の関係……に関する意味を持った時代もありましたそうで。
このお話でそういう意図はないので、誤解なきようお断りしておきますが。
あ、ついでながらもう一つ、直す必要が生じたのは、カフェで最初にかかっていたフランツ・リストの曲の話。
明子がピアノの音がうるさく、書類に集中できない、というところ、初稿では「聞き飽きたリストを耳から遮断し」でした。
これ、「リスト=List(一覧)」に読める……→「リストのピアノ」に改稿。ショパンにしときゃよかった、と思ったけれど、甘ったるい曲といえばリストのあれでしょう、というわけで続行。
ついでながらピアニストさんは幅広いレパートリーの人、ということでバロック時代のバッハと19世紀のメンデルスゾーンにしてみましたが、後からスクリャービンとか入れたらよかった? と考えつつ、そこまで食い込むとジャズもそんな以外じゃなくなっちゃうなーと思って変えずにおきました。
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普段の長編でこんなふうな執筆論は邪魔になるかもしれませんが、筆致企画の性格上、他の執筆者の方と「そういうふうな意図ならこうしたらどうだろう」みたいな議論も起こるかもしれないですし、執筆ノートを細かく書いてみました。また何か思い出したら書くかもしれませんけれどとりあえずここまで。
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「筆致企画」はゆあんさんのプロットが次第に簡素になっている気がします。そこから、シンプルなプロットからいかにお話を広げられるか、というのが評価の基準の一つにもなっている気がします。
そこのところを逆にシンプルを目指したのは、話を広げられるかどうか、というのを重視して読まれたら全然ダメでしょう。
その点、企画趣旨及び戦略的にはどうだったのか、という見方もしないでもないのですが、やってみた意義はあった、と思いたい。
もっとショート・ムービーのような構成で一話完結にしたかったのだけれど、思いついた筋書き上不可能だったのが残念。
真ん中の演奏描写に関しては賛否両論ですね。私もあまりに多くならないよう気を配りましたが、ここは線引きが難しい。音楽のご経験がないと仰られる方も、専門用語が多くても引き込まれると言ってくださる方もいらっしゃる反面、ついていけない、というご意見も。
うーん。
「物語」については、実に様々な読み方がされていて、興味深いです。
「恋愛」として読む方(私はあまり、二人の恋愛関係や昔の恋人としての智昭、という点を重視する意図がなかった……)、「自立した仕事女性」というように読む方。
興味深いです。
そしていつものことですが、どなたか読み専さん? に読んでいただいているようです。どうぞ話しかけてください(笑)喜びます。
チラチラ、寝る前とかご飯食べながら拝読しています。他薦もしたいと思います。
あー、午前のペースだと夕方までには一つの書類が終わりそうです。ご飯食べよっ!
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