二
公園のベンチに小さな男の子が座っている。
遊び回る他の子どもたちを羨ましそうに見ながら、時折空咳をしていた。
ケホケホと咳をする男の子のところに、小さな女の子が近寄った。
「きみは、あそばないの?」
涼し気な空気を纏って話しかけてきた女の子に、男の子は驚いて答えに迷う。
「うん……ううん。あそびたいけど、ぼくはダメなんだ」
「ダメって?」
小首を傾げる女の子に、男の子は寂しげに笑って答え、咳をする。
「ダメな子なんだよ……ゴホッ、ゴホッ! 体がよわくって、あそべないんだ。わるい空気をすっちゃうと、咳がでるんだ。力もつかえなくなるし……」
「そうなんだ、たいへんだね……じゃあ、これならどうかな?」
冷たい風が女の子の体から広がり、ベンチと男の子を包み込んだ。
男の子のまつげとベンチに霜が張り、男の子は慌てて飛びのき、目を触る。
「わっ! なにこれ……? イタズラしちゃダメなんだよ」
「あっ、ごめんね。ぼーそーしちゃったかな。ちょっとやりすぎちゃった」
「こおりがとれないよ……あれ? つかえる……?」
男の子が呼吸をすると、地面にできていた影が奇妙に蠢いた。
大きく息を吸い込むと、影が伸び上がり、男の子の顔に触れる。
まつげを覆っていた冷たい霜が、溶けるように消え去った。
「すごーい! 大人でもわたしの力は溶かせなかったのに」
「そんなのつかっちゃダメだよ……溶かしたんじゃないよ、枯れる力なんだって……なんでつかえたんだろう?」
文句を言いながらも不思議がる男の子に、女の子が笑って手を伸ばす。
「ダメダメ言っちゃダメだよ。ふふっ、わたしがきれいな冬の空気にしたんだよ? これなら、いっしょにあそべるね!」
「力つかっちゃダメなのに……ううん。でも、ありがとう。うん! あそぼう!」
それから、ふたりは楽しく遊ぶようになりました。
女の子が力を使い、男の子が後始末をする関係が続き、楽しく遊びました。
それが大人の手にも余る力で、成長させることを禁じられていた事も忘れて。
親や大人たちの目を盗んで力を使うことを覚えたふたりは、たくさん遊びました。
女の子――美冬は、空気を強制的に冬にする能力をすくすくと成長させました。
男の子――秋人は、影を使って枯渇させる能力を磨いていきました。
ある日の事。
「引っ越ししちゃうの、秋人!?」
「うん……美冬のいない時だと、どうしても咳をしちゃうから……空気のいいところに引っ越そうって……」
「そんなの駄目! 私とずっと一緒にいればいいじゃない!」
「もう……駄目って言っちゃ駄目だよ、美冬。……僕を治せるお医者さんが向こうに居るらしいから、体を治したら帰ってくるよ。それまで、待ってて?」
「そんな、お医者なんて……ううん、いいわ。空気が綺麗になればいいのよね」
「……美冬?」
「私も手伝うから、絶対早く帰って来てね。そしたら、また一緒に遊ぼうね!」
「うん、待ってて。帰ったら、また一緒に遊ぼう!」
そうして二人は別れた。
暴走した美冬の力が東京を包む、数日前の出来事だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます