第5話 宇宙人死す

「どうした? 難しい顔をして」

 社長の割戸わりと統留すべるが興味深げに矢芽郎やめろうに声を掛けた。

「この2~3日、ムリリ様と連絡が取れないんです」

 矢芽郞はボールペンのノック側で頭を掻いた。

「宇宙船もないのか?」

「いいえ。宇宙船ふねはあるんですけど、応答が無いんです」

 矢芽郞はポケットから眼鏡を取り出し、眺めた。

「そりゃまた、不可思議だな」

 割戸は不思議そうな顔をして矢芽郞の手元を見た。

「はい」

「宇宙船を覗く事はできないのか?」

「そうですねえ。リモコンがあれば」

「リモコン?」

「はい」

「それがあれば乗れるのか?」

「ええ。この間、それを使ってたのを見ましたから」

「そうか」

「天神さーん。郵便が届いてますよー」

 経理担当の笠根木かさねぎ温子あつこが封書を持って現れた。

「あ、はい。ありがとうございます」

 宛先には震えた字で『天神様』と記されてあり、裏面には『ムリリ』とあった。

「どうした?」

 再び、難しい顔をして封書を睨み付けている矢芽郞に割戸が訊いた。

「ムリリ様からの手紙です」

「随分、アナログだな」

「はい……」

「開けてみろ」

「はい」

 封を開けると中からA4の上質紙1枚が折り畳まれた状態で出てきた。

「全部、ひらがなだな」

 割戸が後ろから覗いて言った。

「はい」

「何だって?」

「この間の平泉星人に狙われています。もしもの時のために矢芽郞さんに宇宙船の予備のリモコンを預けておきます。地図の場所に隠しました。お願いします」

 読み終えて、矢芽郞は割戸に顔を向けた。

「殺されたのか?」

「わかりません……」

「リモコンって、どこにあるんだ?」

石蟹川いしかにがわの川岸の岩の下です」

「何でそんなところに?」

「おそらく、ザリガニを食べに行っていたんだと思います」

「ザリガニ、食べるんだ?」

「ええ」

「そんな雑な地図でわかるのか?」

 割戸が手紙を覗き込んで眉間に皺を寄せた。

「うーん……。そうですね、行って見ないとわかりません」

「だよな」


 石蟹川は矢芽郎の住む地域の中では代表的な河川の一つであり、今でも細々と地元の漁協が川蟹漁を行っていた。

 矢芽郞はマリリの心もとない地図を頼りに川岸を探索した。

 リモコンのは、この間、電話で言っていたマリリが身を隠した石の下らしい。

 川岸に近づき水面から中を覗き込むとアメリカザリガニが睨み返してきた。

 辺りを見回し、木の枝を見つけたので、拾い上げ、ザリガニのハサミに近づけて見た。

 パクっとハサミで挟んで来たと思ったら、自分の頭に圧力を感じた。

「うわあぁぁ!」

 振り向くと大男が矢芽郞の頭を片手で摘まんでいた。

「誰だ!」と叫んだが、おおよそ予想は着いていた。平泉星人だ。間違いない。


「ふんがあぁあ、んがぁがぁああー」

 平泉星人は矢芽郞に向かって何やら叫んでいたが、何を言っているのか意味を読み取ることはできなかった。

 このままでは頭を握り潰されてしまう。

 矢芽郞はムリリとの電話でのやり取りを思い出し、咄嗟に平泉星人の足の小指の辺りを踏みつけた。

「んがぁあああああああーっ!!」

 平泉星人は絶叫の後、卒倒した。

 矢芽郞は急いで立ち去り、近くに見つけた大きめの岩の陰に隠れた。

 ムリリの情報では5分程度は気絶しているはずだ。

 この間にずらかろう。

 その場から立ち去ろうとした時にキラリと足元で光るものが目に入った。

「ん? あ!」

 慌てて拾い上げるとそれはムリリが持っていた宇宙船のリモコンだった。

「これだ!」

 ?!

「んがぁ」

「言っていたより早いじゃないか!」

 5分は寝ているはずの平泉星人が立ち上がり、辺りをキョロキョロ見回していた。

 矢芽郞は一か八かリモコンのボタンを押した。

 グワシャァァンンンツ……

「あ!」

 突然、宇宙船が現れ、平泉星人の後頭部を船首で弾き飛ばした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

株式会社大喜利屋 ロックウェル・イワイ @waragei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ